エビ養殖の日本での現状|種類・方法・産出額を徹底解説

エビ養殖の日本での現状|種類・方法・産出額を徹底解説 養殖

最終更新: 2026-04-25

農林水産省の統計によると、日本国内のくるまえび養殖の産出額は約63億円にのぼります(e-Stat 統計表ID: 0002001226)。一方で、日本のエビ輸入率は約92%とされ、国内で消費されるエビの大部分を海外からの輸入に頼っているのが現実です。

「エビ養殖は日本でどこまで進んでいるのか」「どんな種類のエビが養殖されているのか」「自分でエビ養殖を始めることはできるのか」。こうした疑問を持つ方は、近年ますます増えています。

この記事では、日本のエビ養殖の現状を政府統計データと業界の最新動向をもとに徹底解説します。まずエビ養殖の基本を整理し、次に養殖される主な種類と方法を比較、さらに産出額データの分析からキャリアとしてのエビ養殖の可能性までお伝えします。

エビ養殖とは?日本における基本をわかりやすく解説

エビ養殖とは、人工的に管理された環境でエビを卵や稚エビから育て、出荷サイズまで成長させる水産業の一形態です。日本では古くからクルマエビの養殖が行われてきましたが、近年はバナメイエビの陸上養殖が急速に広がりつつあります。

項目 内容
定義 人工的な環境でエビを飼育・出荷する水産業
歴史 明治時代に熊本県・愛知県でクルマエビの蓄養が始まった
国内自給率 約8%(輸入率は約92%、2018年時点)
主な養殖品種 クルマエビ、バナメイエビ
産出額 くるまえび養殖で約63億円(農林水産省統計)

日本のエビ養殖には大きく2つの流れがあります。1つは戦後から続くクルマエビの海面・池中養殖で、主に九州や四国の温暖な沿岸地域で営まれています。もう1つが2010年代以降に台頭してきたバナメイエビの陸上養殖です。特に2023年4月には陸上養殖の届出制が施行され、漁業権を持たなくても陸上養殖ビジネスに参入できるようになったことが大きな転機となりました。

世界に目を向けると、エビ養殖の生産量は年々増加しており、東南アジアを中心にバナメイエビが圧倒的なシェアを占めています。日本はそのエビの最大級の輸入国でありながら、国内養殖は限定的という独特のポジションにあります。

日本で養殖されるエビの種類と特徴

日本で商業的にエビ養殖の対象となっている品種は、主にクルマエビとバナメイエビの2種です。それぞれの特徴を理解することで、養殖ビジネスや就業の選択肢が見えてきます。

項目 クルマエビ バナメイエビ
学名 Marsupenaeus japonicus Litopenaeus vannamei
原産地 日本近海(太平洋沿岸) 東太平洋(中南米)
養殖方法 海面・池中養殖が主流 陸上養殖(水槽)が主流
成長期間 約6〜12か月 約3〜4か月
適水温 20〜28℃ 25〜32℃
出荷サイズ 15〜30cm 10〜15cm
キロ単価の目安 3,000〜8,000円 2,000〜3,000円
養殖の難易度 やや高い(砂に潜る習性あり) 比較的容易(高密度飼育可能)

クルマエビ

クルマエビは日本で唯一、商業レベルでの養殖の歴史が長い甲殻類です。明治23年頃に熊本県や愛知県で蓄養が始まったのが起源で、戦後本格的な養殖技術が確立されました。沖縄県、鹿児島県、熊本県、大分県などの温暖な地域が主な産地です。

高級食材として料亭や寿司店で高い需要がありますが、砂に潜る習性を持つため養殖池の底に砂を敷く必要があり、密度管理が難しいという課題があります。

バナメイエビ

バナメイエビはFAOの統計(2022年)によると世界の養殖エビ生産量の約86%を占める最もメジャーな養殖エビです。日本では長らく輸入品として流通していましたが、2010年代後半から国内での陸上養殖が本格化しました。

バナメイエビが注目される理由は明確です。稚エビから約3〜4か月で出荷サイズになるため資金回収が早く、水槽内で泳ぐ習性があるため陸上の閉鎖循環式水槽での飼育に向いています。さらに、環境変化への耐性が比較的高いため、初心者でも取り組みやすいとされています。

エビ養殖の方法|海面養殖から最新の陸上養殖まで

日本のエビ養殖は大きく3つの方式に分類されます。それぞれの仕組み、メリット、課題を整理します。

海面・池中養殖(従来型)

クルマエビ養殖の主流となっている方式です。沿岸部に養殖池を設け、海水を引き込んで飼育します。九州南部や沖縄では砂底の養殖池を使用し、クルマエビの自然な生態に近い環境を作ります。

メリットは海水の自然な循環を利用できるため、水質管理のコストが比較的低い点です。一方で漁業権が必要な場合があり、台風や赤潮など自然災害のリスクを常に抱えています。

閉鎖循環式陸上養殖(RAS方式)

近年最も注目を集めているのがこの方式です。RAS(Recirculating Aquaculture System)とは、養殖水を生物ろ過やUV殺菌装置を通して循環させるシステムを指します。使用水量を大幅に削減できるうえ、外部環境の影響を受けにくいのが最大の特長です。

ニッスイが採用している「閉鎖式バイオフロック養殖システム」は、微生物の集合体(バイオフロック)を活用して水質を維持する技術で、換水をほとんど行わずにバナメイエビを育てることが可能です。陸上養殖のメリット・デメリットを詳しく解説した記事も参考にしてください。

完全養殖

完全養殖とは、親エビから卵を採取し、孵化させた稚エビを成エビに育て、さらにその成エビから採卵するというサイクルを人工的に完結させる技術です。天然の稚エビや親エビに依存しないため、安定した生産が可能になります。

日本では高知県を拠点とするベンチャー企業が、バナメイエビの完全養殖技術を確立したことが話題になりました。この技術により、輸入に頼らない国産エビの安定供給への道が開けつつあります。

養殖方式 対象エビ 初期費用の目安 漁業権 自然災害リスク
海面・池中養殖 クルマエビ 1,000万〜3,000万円 必要な場合あり 高い
閉鎖循環式陸上養殖 バナメイエビ 1,500万〜5,000万円 不要(届出制) 低い
完全養殖 バナメイエビ 3,000万円以上 不要(届出制) 低い

政府統計で見るエビ養殖の産出額|日本の養殖業におけるポジション

エビ養殖が日本の水産業全体の中でどのような位置づけにあるのか、農林水産省の公式統計で確認してみましょう。

農林水産省の「漁業産出額」調査によると、日本の海面養殖業全体の産出額は約4,357億円です(e-Stat 統計表ID: 0002001226)。そのうち主要品目の産出額は以下のとおりです。

養殖品目 産出額(百万円) シェア
ぶり類 106,536 約24.5%
のり類 104,342 約24.0%
くろまぐろ 47,074 約10.8%
まだい 44,305 約10.2%
かき類 32,449 約7.4%
ほたてがい 24,183 約5.6%
ぎんざけ 10,112 約2.3%
ふぐ類 7,271 約1.7%
しまあじ 6,258 約1.4%
くるまえび 6,341 約1.5%

出典: 農林水産省「漁業産出額」(e-Stat 統計表ID: 0002001226)

くるまえびの産出額は約63億円で、海面養殖業全体のおよそ1.5%を占めています。ぶり類(約1,065億円)やまだい(約443億円)と比べると規模は小さいものの、高級食材としての単価の高さから、養殖経営体あたりの収益性は決して低くありません。

さらに注目すべきは、この統計にはバナメイエビの陸上養殖の数値が十分に反映されていない点です。陸上養殖は届出制が始まって間もないため、今後統計に計上される生産量は増加する見通しです。養殖業全体の始め方についてはこちらの記事で手順を解説しています。

エビ養殖のメリットと将来性

日本でエビ養殖に取り組むメリットは、マーケットの構造から明確に読み取れます。

圧倒的な国内需要

日本のエビ輸入量は年間約15万トン(2020年時点)にのぼり、輸入額は約1,828億円(2018年時点)と巨大な市場です。国内自給率が約8%であるため、国産エビには「国産」「無添加」「活きエビ」といった付加価値をつけて高単価で販売できるポテンシャルがあります。

異業種からの参入が加速

近年はNTTグループが静岡県磐田市でバナメイエビの陸上養殖場を完成させたり、関西電力が年間80トン規模のエビ陸上養殖を開始したりと、大手企業の参入が相次いでいます。こうした動きはエビ養殖業界全体の技術レベルと信頼性を押し上げる効果があります。

陸上養殖による地方創生

耕作放棄地や遊休施設を活用したエビ陸上養殖は、地方創生の手段としても注目されています。千葉県鋸南町では畑を利用した「畑育ちのエビ」プロジェクトが進行しており、都市部から離れた地域でも新しい産業を生み出せる可能性を示しています。

エビ養殖の課題・注意点

メリットだけでなく、現実的な課題も把握しておく必要があります。

初期投資の高さ

陸上養殖の設備投資は小規模でも1,500万円以上が必要です。水槽、ろ過装置、加温設備、建屋の建設に加え、稚エビの仕入れや餌代などのランニングコストも発生します。クルマエビ30万匹規模では、土地代を除いて約2,100万円のイニシャルコストが目安とされています。

水温管理のコスト

バナメイエビは年間を通して水温30℃前後を維持する必要があるため、特に冬場の加温にかかるエネルギーコストが経営を圧迫する要因になります。寒冷地での養殖は熱源コストを十分に計算したうえで判断しなければなりません。

疾病リスク

エビは白点病(WSSV)やエビ早期死亡症候群(EMS)といった疾病に弱く、一度発生すると養殖池全体に被害が広がるリスクがあります。閉鎖循環式であれば外部からの病原体侵入リスクは低減できますが、水質管理を怠れば池中で急速に感染が拡大する恐れがあります。

販路の確保

高品質な国産エビを生産しても、販路がなければ事業は成り立ちません。飲食店への直接営業、ふるさと納税の返礼品登録、ECサイトでの直販など、複数の販路を確保しておくことが安定経営の鍵です。

課題 具体的なリスク 対策
初期投資 1,500万〜5,000万円の設備投資 補助金の活用、フランチャイズ加盟
水温管理 冬場の加温コストが月数十万円 温泉水や工場排熱の活用
疾病 WSSV・EMSによる大量死 閉鎖循環式の導入、検疫の徹底
販路 安定した買い手の確保が困難 飲食店直販、EC、ふるさと納税

エビ養殖をキャリアとして考える|始め方と必要なスキル

都市部で働く20〜30代のなかには「エビ養殖で独立したい」と考える方が増えています。ここでは実際にエビ養殖をキャリアとして選ぶ場合の道筋を整理します。

参入ルート

エビ養殖への参入ルートは主に3つあります。

1つ目は、既存の養殖企業に就職して技術と経営ノウハウを学ぶ方法です。沖縄や鹿児島のクルマエビ養殖場、または各地の陸上養殖ベンチャーが求人を出しています。

2つ目は、フランチャイズに加盟する方法です。養殖システムの設計から稚エビの供給、技術サポートまでパッケージで提供してくれるため、未経験でも比較的短期間で事業を立ち上げられます。

3つ目は、自力で設備を整えて独立開業する方法です。この場合は養殖技術だけでなく、施設設計・水質管理・販路開拓・経理まで幅広いスキルが求められます。

必要な資格と届出

2023年4月1日の法改正により、陸上養殖を営む場合は都道府県知事への届出が義務化されました。逆にいえば、届出さえ行えば漁業権を持たずにエビ養殖を始められるということです。

海面養殖の場合は漁業法に基づく区画漁業権の取得が必要です。漁業の資格について詳しくまとめた記事もあわせてお読みください。

収益モデル

バナメイエビの陸上養殖における収益モデルの一例を示します。

項目 数値の目安
養殖規模 水槽10基(各10トン)
年間生産量 約5〜10トン
販売単価 2,000〜3,000円/kg
年間売上 1,000万〜3,000万円
主な経費 餌代、電気代、人件費、稚エビ仕入れ
想定利益率 15〜30%(軌道に乗った場合)

養殖業は天候に左右されにくい陸上養殖であっても、設備の減価償却や光熱費の変動があるため、初年度から黒字化することは難しいのが実情です。現場で養殖に携わる関係者からは「最低でも2〜3年は赤字覚悟で運転資金を確保しておくべき」という声が聞かれます。

エビ養殖に関するよくある質問

Q1: 日本で養殖されているエビの種類は何ですか?

日本で商業的に養殖されている主なエビは、クルマエビとバナメイエビの2種類です。クルマエビは九州・沖縄を中心に海面養殖が行われ、バナメイエビは全国各地で陸上養殖が広がりつつあります。

Q2: エビ養殖を始めるにはいくらかかりますか?

規模によりますが、陸上養殖の場合は最低でも1,500万〜2,000万円の初期投資が必要です。フランチャイズ加盟の場合は設備一式がパッケージ化されており、2,000万〜3,000万円程度が目安となります。クルマエビの池中養殖では、30万匹規模で約2,100万円とされています(2025年時点)。

Q3: エビ養殖に漁業権は必要ですか?

陸上養殖の場合は漁業権は不要です。2023年4月1日から届出制が導入されており、都道府県知事に届け出ることで始められます。海面養殖の場合は区画漁業権が必要となるため、地元の漁業協同組合への相談が不可欠です。

Q4: バナメイエビの養殖期間はどのくらいですか?

バナメイエビは稚エビから約3〜4か月で出荷サイズ(10〜15cm)に成長します。クルマエビの6〜12か月と比較して成長が早いため、年間に複数回転させることが可能です。

Q5: エビ養殖の最大のリスクは何ですか?

疾病リスクが最も深刻です。白点病(WSSV)やエビ早期死亡症候群(EMS)は一度発生すると養殖池全体に広がり、壊滅的な被害をもたらすことがあります。閉鎖循環式の導入、稚エビの検疫、日常的な水質モニタリングが予防の基本です。

Q6: エビ養殖は副業でもできますか?

小規模であれば副業として取り組む方もいます。ただし、バナメイエビの水温管理は365日必要なため、完全に放置できるビジネスではありません。遠隔モニタリングシステムの導入や、管理を委託できる体制づくりが前提になります。

Q7: 国産養殖エビの販売先はどこが多いですか?

高級料亭、寿司店、ホテルへの直接卸が中心です。近年はふるさと納税の返礼品やECサイトでの消費者直販も増えており、「活きエビ」の直送サービスは特に人気があります。

関連記事: 完全養殖とは?仕組み・対象魚種・最新動向をわかりやすく解説

関連記事: ウナギ養殖の課題とは?資源・技術・経営の3つの壁を徹底解説

まとめ:エビ養殖の日本での現状と将来

日本のエビ養殖について、ポイントを整理します。

  • 日本のエビ自給率は約8%。国内需要に対して圧倒的に生産量が不足している
  • くるまえび養殖の産出額は約63億円(農林水産省統計)で、陸上養殖の広がりとともに今後の拡大が見込まれる
  • バナメイエビの陸上養殖は成長が早く(3〜4か月)、漁業権不要の届出制で始められる
  • 初期投資は1,500万〜5,000万円が目安。2〜3年の運転資金確保が現実的
  • NTTや関西電力など大手企業の参入が業界全体の技術水準を引き上げている

エビ養殖に関心がある方は、まず自分の条件に合った養殖方式を検討することから始めてみてください。サーモン養殖の日本での動向ブリ養殖にかかる費用と比較しながら、最適な魚種選びに役立てていただければ幸いです。水産業界の専門用語が気になる方はあわせてご活用ください。

参考情報

  • 農林水産省「漁業産出額」(e-Stat 統計表ID: 0002001226)
  • 農林水産省「えびの国別輸入量」(農林水産省こども相談コーナー)
  • マネーフォワード「エビ養殖は儲かる?バナメイエビが注目される理由や初期費用」
  • ニッスイ「バナメイエビ陸上養殖事業を開始」(2023年3月10日プレスリリース)
  • 日本経済新聞「NTT系、静岡・磐田のエビ陸上養殖場完成」(2024年12月)
  • FAO「世界エビ養殖生産量統計(2022年)」
  • 水産庁「陸上養殖業の届出について」(令和5年4月1日施行)



コメント

タイトルとURLをコピーしました