最終更新: 2026-04-19
農林水産省の統計によると、日本の海面漁業産出額は約9,367億円(e-Stat 統計表ID: 0001886486)にのぼり、そのなかでも底引き網漁は多種多様な魚種を一度に漁獲できる主要な漁法として各地の漁港を支えています。「底引き網漁ってどんな仕組み?」「自分でもこの漁法で働けるのか?」と疑問を持っている方も多いのではないでしょうか。この記事では、底引き網漁のやり方を操業手順から種類別の違い、必要な許可、禁漁期間まで網羅的に解説します。まず底引き網漁の基本的な仕組みを説明し、次に4つの種類と操業手順、最後にこの漁法で働くためのキャリアパスをお伝えします。
底引き網漁のやり方:始める前に知っておくこと
底引き網漁とは、袋状の網を海底まで沈めて船で引っ張り、海底付近に生息する魚介類をまとめて漁獲する漁法です。ヒラメ・カレイ・エビ・カニ・ハモなど、底生魚を中心にバラエティ豊かな魚種が獲れるのが最大の特徴です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 漁法の分類 | 網漁業(曳網漁業) |
| 主な対象魚種 | ヒラメ、カレイ類、エビ類、ズワイガニ、ハモ、ノドグロ、タイ類 |
| 操業水深 | 20〜500m(種類による) |
| 操業時間 | 1回の曳網で約1〜3時間 |
| 必要な許可 | 小型機船底びき網は知事許可、沖合底びき網は農林水産大臣許可 |
| 禁漁期間 | 主に7〜8月(地域・種類により異なる。日本海側は9月1日解禁が一般的) |
| 乗組員 | 小型: 1〜3名、沖合: 8〜15名 |
底引き網漁は日本の沿岸漁業から沖合漁業まで幅広く行われており、全国の漁港で水揚げの柱となっている漁法です。特に日本海側の港(境港・浜田・金沢など)では底引き網漁による水揚げが漁港全体の売上に大きく貢献しています。
底引き網漁の4つの種類と違い
底引き網漁は、操業する海域や船の大きさによって4つの種類に分かれます。それぞれ許可の区分、操業範囲、漁獲対象が異なるため、自分がどの種類に携わるかで働き方が大きく変わります。
| 種類 | 船のトン数 | 許可区分 | 操業海域 | 主な対象魚種 | 航海日数 |
|---|---|---|---|---|---|
| 小型機船底びき網 | 15トン未満 | 都道府県知事許可 | 沿岸域 | ヒラメ、カレイ、エビ、ハモ | 日帰り |
| 沖合底びき網 | 15トン以上 | 農林水産大臣許可 | 沖合200海里水域 | ズワイガニ、アカガレイ、ノドグロ | 2日〜2週間 |
| 以西底びき網 | 指定なし | 農林水産大臣許可 | 東シナ海 | タチウオ、レンコダイ | 10〜20日 |
| 遠洋底びき網(トロール) | 大型船 | 農林水産大臣許可 | 遠洋海域 | エビ類、底魚類 | 数週間〜数ヶ月 |
小型機船底びき網漁
全国で最も多く営まれている底引き網漁の形態です。15トン未満の小型船で沿岸域を操業し、朝出港して夕方に帰港する日帰り操業が基本です。乗組員は1〜3名と少人数で、地域の漁協に所属して操業するケースがほとんどです。未経験者が底引き網漁を始める場合、この小型機船底びき網からスタートするのが一般的です。
沖合底びき網漁
15トン以上の船舶で沖合の漁場を操業します。ズワイガニやアカガレイ、ノドグロなど高級魚種が主な対象で、1航海あたり2日から2週間と幅があります。乗組員は8〜15名程度で、チームワークが重要な漁法です。漁場までの距離によっては船上で寝泊まりしながら操業を続けます。
以西底びき網漁・遠洋底びき網漁
東シナ海や遠洋で操業する大規模な底引き網漁です。航海日数が長く、体力面・精神面ともにハードな反面、高い収入が期待できます。ただし、近年は国際的な漁業規制の強化により操業隻数は減少傾向にあります。
底引き網漁の操業手順【ステップ解説】
底引き網漁のやり方を、小型機船底びき網を例に具体的な手順で解説します。
Step 1: 出港・漁場への移動
早朝3〜5時に港を出発し、漁場へ向かいます。漁場は過去の実績や海底地形、水温、潮流などの情報をもとに船長が判断します。近年はGPS魚群探知機や海底地形図を活用して効率的に漁場を選定するケースが増えています。漁場までの移動時間は通常30分〜2時間程度です。
Step 2: 投網(網の投入)
漁場に到着したら、船の後方から網を海中に投入します。底引き網は「袋網」「翼網(ウイング)」「引き綱(ワイヤー)」の3つの部分で構成されています。まず引き綱を船のウインチに接続した状態で、袋網から順番に海中へ沈めていきます。網の入口を広げるための「オッターボード」と呼ばれる板状の器具を左右に取り付けることで、水の抵抗を利用して網が左右に開く仕組みです。
網が海底に着底したことを引き綱のテンションで確認したら、投網完了です。
Step 3: 曳網(網を引く)
船を時速2〜4km程度のゆっくりとした速度で前進させ、海底に沿って網を引きます。この曳網時間は対象魚種や海域によって異なりますが、通常1〜3時間です。
| 対象魚種 | 曳網時間の目安 | 水深 |
|---|---|---|
| ヒラメ・カレイ類 | 1.5〜2時間 | 20〜100m |
| エビ類 | 1〜1.5時間 | 30〜80m |
| ズワイガニ | 2〜3時間 | 200〜400m |
| ハモ | 1〜2時間 | 20〜80m |
| ノドグロ | 2〜3時間 | 100〜300m |
曳網中は船長が魚群探知機を見ながら船速や進路を微調整します。海底に岩礁や障害物がある場所では網が破れるリスクがあるため、海底地形の把握が極めて重要です。
Step 4: 揚網(網の回収)
曳網が終わったらウインチを使って網を巻き上げます。揚網作業は底引き網漁の中でも体力を使う工程で、網が上がってくるまでに10〜30分ほどかかります。網が船上に上がったら、袋網の底にある「コッドエンド」と呼ばれる部分を開いて魚を甲板に放出します。
Step 5: 選別・保存
甲板に広がった漁獲物を魚種ごとに手作業で選別します。規定サイズに満たない小型魚や漁獲対象外の魚種は海に戻します(リリース)。選別した魚はすぐに氷水で冷やし、鮮度を保った状態で魚倉に保管します。
1日の操業では、この「投網→曳網→揚網→選別」のサイクルを3〜5回繰り返すのが一般的です。
Step 6: 帰港・水揚げ
夕方に港へ戻り、漁獲物を水揚げします。水揚げした魚は漁協のセリにかけられるか、仲卸業者に直接販売されます。帰港後は網の点検・補修作業も行います。網に穴が開いていれば翌日の操業に備えて修繕するのが漁師の日課です。
底引き網漁で失敗しないためのコツ・注意点
底引き網漁は「網を引くだけ」に見えますが、実際には経験と技術の差が漁獲量に直結します。
| よくある失敗 | 原因 | 対策 |
|---|---|---|
| 網が海底の岩に引っかかる | 海底地形の把握不足 | GPS海底地形図を活用し、岩礁帯を事前にマッピング |
| 漁獲量が少ない | 漁場選定のミス | ベテラン漁師から潮流・水温と漁場の関係を学ぶ |
| 網が破れる | 投網時の速度が速すぎる | 投網時は船速をしっかり落とし、網がねじれないよう注意 |
| 選別に時間がかかりすぎる | 魚種の知識不足 | 対象海域で獲れる魚を事前に覚え、判別スピードを上げる |
| 鮮度が落ちる | 冷却処理の遅れ | 揚網後すぐに氷水で処理する体制を整えておく |
特に重要なのは海底地形の把握です。経験豊富な船長は、どの海底がどんな魚種のポイントかを「海の地図」として頭の中に持っています。新人の間はベテランに同行し、漁場の特徴を体で覚えていくことが上達の近道です。
底引き網漁の禁漁期間と規制
底引き網漁は水産資源の保護のため、年間を通じて操業できるわけではありません。
| 規制項目 | 内容 |
|---|---|
| 禁漁期間 | 7月1日〜8月31日が一般的(地域により異なる) |
| 操業禁止区域 | 各都道府県の漁業調整規則で指定される水深・海域 |
| 網目の大きさ | コッドエンドの網目サイズに規制あり(小型魚の保護) |
| 操業時間帯 | 小型機船底びき網は夜間操業を禁止する地域あり |
| 漁獲制限 | ズワイガニ等はTAC(漁獲可能量)制度で総量管理 |
禁漁期間中、漁師たちは網の修繕や船のメンテナンス、海底清掃のボランティア活動などを行います。この期間を利用して他の漁法(刺し網漁やイカ釣りなど)に切り替える漁師も少なくありません。
京都府機船底曳網漁業連合会は2008年にMSC認証(海のエコラベル)を日本で初めて取得しており、持続可能な漁業に向けた取り組みも進んでいます。MSC認証は資源の持続性、生態系への影響、管理体制の3つの基準で審査される国際認証で、底引き網漁であっても適切な資源管理を行えば認証を取得できることを示しています。
底引き網漁の仕事としてのリアル|年収・1日の流れ・キャリアパス
底引き網漁に興味があるなら、「実際に働くとどうなのか?」という現場のリアルを知っておくことが大切です。ここでは、都市部からの転職を考えている方に向けて、底引き網漁の仕事の実態をお伝えします。
底引き網漁師の1日のスケジュール(小型機船の場合)
| 時間 | 作業内容 |
|---|---|
| 3:00〜4:00 | 起床・港で出港準備 |
| 4:00〜5:00 | 出港・漁場へ移動 |
| 5:00〜14:00 | 操業(投網→曳網→揚網→選別を3〜5回) |
| 14:00〜15:00 | 帰港・水揚げ |
| 15:00〜16:00 | 網の点検・補修、翌日の準備 |
| 16:00以降 | 自由時間 |
小型機船底びき網の場合、日帰り操業が基本で夕方には作業が終わります。他の漁法(遠洋マグロ漁など)と比べると生活リズムが安定しやすく、家族との時間も確保しやすい漁法です。実際に底引き網漁に従事する漁師からは「規則正しい生活が送れるので、サラリーマンからの転職組にも続けやすい」という声が聞かれます。
底引き網漁師の年収目安
| 操業形態 | 年収目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 小型機船底びき網(新人) | 250〜350万円 | 固定給+歩合が多い |
| 小型機船底びき網(経験者) | 350〜500万円 | 漁獲量・魚価に左右される |
| 沖合底びき網 | 400〜700万円 | 基本給30〜40万円+歩合 |
| 船長クラス | 600〜1,000万円以上 | 経験・腕次第で大きく変動 |
底引き網漁の収入は漁獲量と魚価によって大きく変動しますが、ズワイガニや[ノドグロなど高級魚種を扱う沖合底びき網では年収600万円以上も十分に可能です。一方で、禁漁期間中は収入が減少するため、年間を通じた収入設計が重要です(2026年時点、漁師.jp・各漁協の求人情報をもとに水産ナビ編集部が整理)。
底引き網漁の仕事に就くために特別な資格は必須ではありませんが、小型船舶操縦士免許や海上特殊無線技士の資格があると有利です。漁業で必要な資格について詳しくは漁業に必要な資格の種類と取り方をご覧ください。
よくある質問
Q1: 底引き網漁は未経験でも始められますか?
始められます。特に小型機船底びき網漁は特別な資格がなくても乗組員として働けるため、未経験からスタートする方が多い漁法です。各地の漁協や全国漁業就業者確保育成センター(漁師.jp)で研修制度や体験乗船プログラムを提供しています。未経験から漁師を目指す方法については[漁師になるための完全ガイド](https://suisan-navi.jp/fisherman-career-guide/)で詳しく解説しています。
Q2: 底引き網漁で獲れる魚は季節によって変わりますか?
季節によって大きく変わります。秋冬はズワイガニ・ノドグロ・アカガレイなど高級魚種が中心になり、春はシロエビ・ホタルイカなどが獲れる地域もあります。4月は初がつおやめばるが旬を迎える時期で、底引き網でもカレイ類やヒラメなどが好漁期に入ります。[旬の魚カレンダー](https://suisan-navi.jp/fish-knowledge/seasonal-fish-calendar/)で季節ごとの漁獲魚種を確認できます。
Q3: 底引き網漁の禁漁期間は何をしていますか?
禁漁期間(主に7〜8月)は、網の修繕・船のメンテナンスが中心です。それ以外に、海底清掃や海岸のゴミ拾いといった環境保全活動に参加する漁師も多くいます。また、イカ釣りや刺し網漁など他の漁法に切り替えて収入を確保する方もいます。
Q4: 底引き網漁は環境に悪いと聞きましたが本当ですか?
底引き網漁は海底の生態系に影響を与える可能性があるため、各地で操業禁止区域の設定、網目サイズの規制、禁漁期間の設定といった資源管理措置が実施されています。京都府のズワイガニ・アカガレイ漁はMSC認証(海のエコラベル)を取得しており、適切に管理された底引き網漁は持続可能な漁業として国際的にも認められています。
Q5: 底引き網漁の漁師になるにはどこに相談すればいいですか?
全国漁業就業者確保育成センター(漁師.jp)が最も総合的な相談窓口です。各地の漁協でも新規就漁者の受け入れ情報を提供しています。また、自治体によっては漁業研修制度や移住支援金を用意しているケースもあります。[漁師の求人情報(未経験歓迎)](https://suisan-navi.jp/fishery-career/fisherman-jobs-inexperienced/)でも最新の求人動向を紹介しています。
Q6: 沖合底びき網漁と小型機船底びき網漁、初心者にはどちらがおすすめですか?
初心者には小型機船底びき網漁がおすすめです。日帰り操業が基本で生活リズムが安定しやすく、少人数の乗組員でベテランから直接技術を学べる環境があります。沖合底びき網は収入面では魅力的ですが、長期間の航海に耐える体力と経験が必要になるため、まずは小型機船で経験を積んでからステップアップするのが現実的なキャリアパスです。
関連記事: 巻き網漁業の特徴とは?仕組み・種類・対象魚種を徹底解説
関連記事: 延縄漁の仕組みとは?種類・道具・作業工程を徹底解説
まとめ:底引き網漁のやり方のポイント
- 底引き網漁は袋状の網を海底に沈めて船で引き、底生魚を漁獲する漁法
- 小型機船底びき網(知事許可)、沖合底びき網(大臣許可)など4種類がある
- 操業手順は「投網→曳網(1〜3時間)→揚網→選別」の繰り返し
- 禁漁期間(7〜8月)があり、資源管理が厳格に行われている
- 未経験からでも小型機船底びき網で始められ、年収250〜500万円が目安
底引き網漁は日本の水産業を支える基幹漁法であり、未経験者でも挑戦できる間口の広さが魅力です。まずは全国漁業就業者確保育成センター(漁師.jp)の体験乗船プログラムに参加して、現場の雰囲気を体感してみてください。
漁師としてのキャリアに興味がある方は、漁師の年収と収入の仕組みや沿岸漁業と沖合漁業の違いもあわせてお読みください。水産業界の最新データは水産業界の統計まとめで定期更新しています。
参考情報
- 全国底曳網漁業連合会「底びき網漁業について」
- 全国漁業就業者確保育成センター 漁師.jp「小型底曳き網漁」「沖合底曳き網漁」
- 農林水産省「漁業法における漁業許可制度」
- 農林水産省 漁業産出額(e-Stat 統計表ID: 0001886486)
- Marine Stewardship Council(MSC)「底びき網」
- 京都府立海洋センター「MSC認証を取得したズワイガニ・アカガレイ漁」(海洋センター技報 第95号)


コメント