最終更新: 2026-04-23
農林水産省の漁業産出額統計によると、日本の海面漁業産出額は約9,367億円(e-Stat 統計表ID: 0001886486)。そのうち、いわし類・あじ類・かつお類だけで合計約1,648億円を占めており、これらの魚種を大量に漁獲する巻き網漁業は、日本の水産業を支える基幹漁法の一つです。
「巻き網漁業ってどんな漁法なの?」「他の漁法とどう違うの?」と疑問を持っている方も多いのではないでしょうか。特に水産業界への就職や転職を考えている方にとって、巻き網漁業の全体像を把握しておくことは、キャリア選択の大きな判断材料になります。
この記事では、巻き網漁業の基本的な仕組みから、1そうまき・2そうまきの種類の違い、対象魚種、船団構成、さらに巻き網漁業で働く場合のキャリアパスまで、現場の視点を交えて徹底的に解説します。まず巻き網漁業の基本を押さえたうえで、種類ごとの特徴、対象魚種、そして就業に役立つ情報をお伝えしていきます。
巻き網漁業とは?基本の仕組みをわかりやすく解説
巻き網漁業(まきあみぎょぎょう)とは、大型の網を使って回遊する魚群をぐるりと囲い込み、網の底を絞って逃がさないようにして漁獲する漁法です。英語では「purse seine fishing(パースセイン・フィッシング)」と呼ばれ、世界的にも主要な漁法の一つとして知られています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | まき網漁業(巻き網漁業) |
| 英名 | Purse seine fishing |
| 操業海域 | 沿岸から沖合・遠洋まで |
| 対象魚種 | いわし類、あじ類、さば類、かつお、まぐろ類など |
| 船団構成 | 網船・運搬船・探索船など複数隻 |
| 特徴 | 魚群を網で囲い込み、一度に大量漁獲が可能 |
操業の基本的な流れは次のとおりです。まず、魚群探知機やソナー、目視によって魚群を発見します。魚群の位置と移動方向を正確に把握したら、網船が魚群を囲むように網を投入。円形に展開した網の下部にあるワイヤーロープ(環締索)を巻き上げて底を絞り、巾着(きんちゃく)のように閉じます。こうして逃げ道をなくした魚を、運搬船に積み込んで漁獲が完了します。
定置網漁が「魚の通り道に網を設置して待つ」のに対して、巻き網漁業は「魚群を積極的に追いかけて囲む」攻めの漁法といえます。この点が巻き網漁業の最大の特徴であり、短時間で大量の漁獲を実現できる理由でもあります。
巻き網漁業の種類:1そうまきと2そうまきの違い
巻き網漁業は操業方法によって大きく「1そうまき」と「2そうまき」に分類されます。それぞれの特徴を比較してみましょう。
| 比較項目 | 1そうまき(1隻巻き) | 2そうまき(2隻巻き) |
|---|---|---|
| 網船の数 | 1隻 | 2隻 |
| 船団構成 | 網船1隻+運搬船1〜2隻(計2〜3隻) | 網船2隻+探索船・運搬船3〜5隻(計5〜7隻) |
| 網の長さ | 約1,600〜1,800m | 約1,000m |
| 網の深さ | 100〜250m | 100〜250m |
| 投網速度 | 比較的遅い | すばやく巻ける |
| 大きな魚群への対応 | 大型の網で広範囲をカバー | 2隻の連携で素早く包囲 |
| 主な操業海域 | 沖合・遠洋 | 沿岸・沖合 |
1そうまき(1隻巻き)の特徴
1そうまきは、1隻の網船が単独で網を投入し、魚群を囲い込む方式です。網の長さが1,600〜1,800mと非常に長く、広い範囲をカバーできるのが強みです。船団の規模が小さいため、操業コストを比較的抑えられるという経済面のメリットもあります。
ただし、1隻で網を展開するため投網にかかる時間が長く、機動性では2そうまきに劣る面があります。大型の網を扱う分、網の修繕や管理にも手間がかかります。
2そうまき(2隻巻き)の特徴
2そうまきは、2隻の網船が左右から同時に網を展開し、魚群を挟み込むように囲う方式です。網の長さは約1,000mと1そうまきより短いものの、2隻の連携によりすばやく投網・囲い込みができるのが最大の利点です。
魚群が素早く移動する場合でも、2方向から同時に包囲するため取り逃がしにくく、高い漁獲効率を実現します。一方、船団全体の規模が大きくなるため、燃料費や人件費などのコストは高くなります。
大中型まき網と中小型まき網
規模の観点では、大中型まき網漁業と中小型まき網漁業にも分かれます。
| 区分 | 網船のトン数 | 操業海域 | 許可区分 |
|---|---|---|---|
| 大中型まき網漁業 | 15トン以上760トン以下 | 沖合・遠洋 | 農林水産大臣許可 |
| 中小型まき網漁業 | 5トン以上15トン未満 | 沿岸・近海 | 都道府県知事許可 |
| 小型まき網漁業 | 5トン未満 | 沿岸 | 都道府県知事許可 |
大中型まき網漁業は農林水産大臣の許可が必要な「指定漁業」に分類されており、操業水域や漁獲量の制限が設けられています。沿岸漁業と沖合漁業の違いについてはこちらの記事で詳しく解説しています。
巻き網漁業の対象魚種と漁獲量
巻き網漁業で主に漁獲される魚種は、大群で回遊する「浮魚(うきうお)」と呼ばれる魚たちです。
| 対象魚種 | 漁業産出額(百万円) | 主な漁場 | 旬の時期 |
|---|---|---|---|
| いわし類(まいわし・かたくちいわし・しらすなど) | 約760億円 | 太平洋沿岸、日本海 | 6〜10月 |
| かつお類 | 約607億円 | 太平洋(黒潮流域) | 4〜5月(初がつお)、9〜10月(戻りがつお) |
| あじ類 | 約279億円 | 東シナ海、太平洋沿岸 | 5〜7月 |
| さば類 | ー | 太平洋沿岸、日本海 | 10〜2月 |
| まぐろ類 | 約1,236億円 | 太平洋、インド洋(遠洋) | 通年 |
出典: 農林水産省 漁業産出額(e-Stat 統計表ID: 0001886486)
特に注目すべきは、いわし類の産出額約760億円という数字です。まいわし(約236億円)、かたくちいわし(約111億円)、しらす(約376億円)を合わせると、単一魚種グループとしては非常に大きな経済規模を持っています。これらの魚種の多くは巻き網漁業によって漁獲されており、巻き網漁業が日本の水産業において果たす役割の大きさが分かります。
4月の今の時期は、ちょうど初がつおの旬を迎えるシーズンです。かつお漁においても巻き網漁業は重要な漁法で、一本釣り漁法と並んで日本のかつお漁獲を支えています。
巻き網漁業の船団構成と役割分担
巻き網漁業が他の漁法と大きく異なるのは、複数の船が「船団」を組んで操業する点です。各船にはそれぞれ異なる役割が割り当てられています。
| 船の種類 | 役割 | 乗組員の目安 |
|---|---|---|
| 網船(あみぶね) | 網の投入・巻き上げを担当する司令塔 | 15〜25名 |
| 探索船(たんさくせん) | 魚群探知機・ソナーで魚群を探す偵察役 | 3〜5名 |
| 運搬船(うんぱんせん) | 漁獲物を港まで運ぶ輸送役 | 5〜10名 |
| レッコボート | 投網時に網端を保持する小型補助船 | 1〜2名 |
大中型まき網漁業の場合、1船団あたり合計30〜50名の乗組員で操業するのが一般的です。船団全体が一つのチームとして連携し、魚群探知から投網、漁獲物の積み込み、港への運搬まで、それぞれの役割を効率よく分担しています。
現場の漁業関係者に聞くと、「巻き網は個人プレーではなくチームワークの漁業。声を掛け合いながらタイミングを合わせるのが腕の見せどころ」という声が多く聞かれます。船団全員の息が合わなければ大きな漁獲は望めず、まさにチームスポーツに近い感覚で操業が行われています。
巻き網漁業のメリットと課題
メリット:効率性と経済規模
巻き網漁業の最大のメリットは、一度の操業で大量の魚を漁獲できる効率性です。
| メリット | 詳細 |
|---|---|
| 大量漁獲が可能 | 数十トン〜数百トンを一度に漁獲できる場合もある |
| 魚体の品質が安定 | 群れごと漁獲するため、サイズが揃いやすい |
| 対象魚種が幅広い | いわし類から大型のまぐろまで対応可能 |
| 経済効率が高い | 漁獲量あたりの燃料コストが比較的低い |
特に水産加工業や缶詰産業にとっては、安定した大量供給が見込める巻き網漁業は欠かせない存在です。スーパーに並ぶいわしの缶詰やツナ缶の多くは、巻き網漁業によって漁獲された原料から作られています。
課題:資源管理と持続可能性
一方で、効率が良すぎるがゆえの課題も存在します。
| 課題 | 詳細 | 対策の例 |
|---|---|---|
| 乱獲のリスク | 魚群を丸ごと漁獲するため、資源への負荷が大きい | TAC(漁獲可能量)制度による管理 |
| 混獲の問題 | 対象外の魚種やウミガメなどが網に入る可能性 | 脱出装置の導入、操業エリアの制限 |
| 幼魚の混獲 | 成長前の小さな魚まで獲ってしまう | 網目サイズの規制、操業期間の制限 |
| 燃料コスト | 船団全体の燃料費が高い | 省エネ船の導入、AI魚群探知の活用 |
日本では水産庁が中心となって、TAC(漁獲可能量)制度によるまき網漁業の漁獲量管理を進めています。さば類やまいわしなど主要な魚種には年間の漁獲枠が設定されており、資源の持続的な利用を目指す取り組みが強化されています。2025年12月時点では、ブリの漁獲量管理の見直しも議論されるなど、資源管理のあり方は年々進化しています。
巻き網漁業で働くには?キャリアパスと年収の目安
水産業界への就職・転職を検討している方に向けて、巻き網漁業で働く場合のキャリアパスをまとめました。
| ポジション | 役割 | 年収の目安 | 必要な経験・資格 |
|---|---|---|---|
| 甲板員(デッキハンド) | 網の投入・巻き上げ等の作業 | 350〜500万円 | 未経験可、体力が求められる |
| 機関員(エンジニア) | 船のエンジン・機械の管理 | 400〜550万円 | 機関士免許が望ましい |
| 航海士 | 操船・航路の管理 | 450〜600万円 | 海技士免許(航海) |
| 漁労長(漁のリーダー) | 魚群探知・投網の指揮 | 700〜1,000万円以上 | 10年以上の経験、漁場の知識 |
| 船長 | 船団全体の統括 | 700〜900万円 | 海技士免許+豊富な実績 |
巻き網漁業は船団で操業するため、1隻の小型漁船で操業する沿岸漁業と比べて「雇用される形」での就業がしやすいのが特徴です。未経験者でも甲板員として船団に加わることができ、経験を積みながらステップアップしていく道が開かれています。
漁師になるための具体的な手順や、漁業に必要な資格の種類については、それぞれの記事で詳しく解説していますので参考にしてください。
現場で働く漁業者の話では、「巻き網は水揚げが多い時期には歩合給がしっかりつくので、若手でも稼げる漁業」とのこと。一方で、操業期間中は数日間連続で海上生活になることも多く、体力面の負担は小さくありません。就業を検討する際は、操業スケジュールや休暇制度について具体的に確認しておくことをおすすめします。
他の漁法との比較:巻き網漁業の位置づけ
巻き網漁業の特徴をより明確にするため、他の代表的な漁法と比較してみましょう。
| 比較項目 | 巻き網漁業 | 定置網漁 | 底引き網漁 | 一本釣り |
|---|---|---|---|---|
| 漁獲方式 | 魚群を網で囲い込む | 通り道に網を設置して待つ | 海底で網を引いて漁獲 | 1匹ずつ釣り上げる |
| 一度の漁獲量 | 非常に多い(数十〜数百トン) | 多い(数トン〜数十トン) | 中程度 | 少ない |
| 必要な船の数 | 複数隻(船団) | 小型船1〜2隻 | 1隻 | 1隻 |
| 対象魚種 | 回遊性の浮魚 | 多種多様 | 底生魚・甲殻類 | 回遊魚(かつお等) |
| 魚体の品質 | 量重視 | 比較的良好 | 量重視 | 最高品質 |
| 初期投資 | 非常に高い | 高い | 中程度 | 低い |
底引き網漁が海底に生息する魚を対象とするのに対し、巻き網漁業は中層から表層を回遊する魚をターゲットにしている点が大きな違いです。また、一本釣りは1匹ずつ丁寧に釣り上げるため魚体の品質は高いものの、漁獲量では巻き網漁業に大きく及びません。
このように、巻き網漁業は「量」を強みとする漁法であり、日本の食卓に安価で新鮮な魚を安定供給するうえで欠かせない役割を果たしています。
巻き網漁業が盛んな地域
日本国内で巻き網漁業が特に盛んな地域を紹介します。
| 地域 | 主な対象魚種 | 特徴 |
|---|---|---|
| 長崎県 | あじ、さば、いわし | 大中型まき網漁業の一大拠点。東シナ海の豊かな漁場に近い |
| 静岡県(焼津・沼津) | かつお、まぐろ | 遠洋まき網漁業の基地。水揚げ量全国トップクラス |
| 三重県 | かつお、まぐろ | 太平洋側の主要漁港を擁する |
| 高知県 | かつお | 黒潮の恩恵を受けた漁場。一本釣りとまき網の両方が盛ん |
| 鳥取県(境港) | さば、あじ、いわし | 日本海側最大級の水揚げ港 |
| 千葉県(銚子) | いわし、さば | 太平洋側の大型漁港。まき網の水揚げが多い |
これらの地域では、水産加工場や冷蔵施設などのインフラも整備されており、巻き網漁業で水揚げされた魚が効率的に流通する体制が構築されています。就業先を探す際は、これらの地域の漁業求人情報をチェックしてみるとよいでしょう。
巻き網漁業に関するよくある質問
Q1: 巻き網漁業と旋網漁業は同じものですか?
はい、同じ漁法を指します。「まき網」「巻き網」「旋網(せんもう)」はすべて同じ漁法の呼び名です。法令上は「まき網漁業」と表記されることが多く、学術的な文脈では「旋網漁業」が使われる場合もあります。
Q2: 巻き網漁業で1回の操業でどれくらい獲れますか?
魚種や魚群の規模によって大きく異なりますが、大中型まき網漁業の場合、1回の投網で数十トンから数百トンの漁獲が見込めることもあります。いわし類の大群を捉えた場合は、1回で100トン以上になることも珍しくありません。
Q3: 巻き網漁業は環境に悪いのですか?
一概に悪いとはいえません。確かに大量漁獲による資源への負荷は課題ですが、日本ではTAC(漁獲可能量)制度による管理が行われています。また、海底に触れない漁法のため、底引き網漁と比較して海底環境への影響は小さいとされています。MSC(海洋管理協議会)認証を取得したまき網漁業も存在し、持続可能な操業を目指す取り組みが進んでいます。
Q4: 未経験でも巻き網漁業で働けますか?
働けます。甲板員(デッキハンド)であれば、特別な資格がなくても採用されるケースが多いです。船団には経験豊富な先輩乗組員がいるため、仕事を教わりながら技術を身につけることができます。まずは全国漁業就業者確保育成センター(漁師.jp)で求人情報を確認してみましょう。
Q5: 巻き網漁業の操業期間と休みはどうなっていますか?
操業パターンは船団や対象魚種によって異なります。一般的な大中型まき網漁業では、数日〜1週間程度の操業と数日の休暇を繰り返すサイクルが多いです。かつお・まぐろを対象とする遠洋まき網の場合は、1航海が1〜2か月に及ぶこともあります。操業シーズンと休漁期間が設けられている場合もあり、年間スケジュールは事前に確認することが重要です。
Q6: 集魚灯を使った巻き網漁業とはどのようなものですか?
夜間に強い光で魚を集めてから網を投入する方法です。いわし類やあじ類など光に集まる習性を持つ魚種に対して効果的です。ただし、集魚灯の使用は漁業調整規則で海域・時期ごとに規制されている場合があるため、許可の有無を確認する必要があります。
Q7: 巻き網漁業で使う網はどのくらいの価格ですか?
大中型まき網漁業で使用される網は、1統あたり数千万円から1億円以上になることもあります。網の素材はナイロンやポリエステルが主流で、操業中に破損した場合は漁港に戻って修繕を行います。網の管理・修繕は重要な仕事の一つであり、専門の技術者が担当する船団もあります。
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まとめ:巻き網漁業の特徴を押さえて水産業界への理解を深めよう
巻き網漁業の特徴について、ここまでの内容を整理します。
- 巻き網漁業は魚群を網で囲い込む「攻め」の漁法で、一度に大量の漁獲が可能
- 1そうまきと2そうまきの2種類があり、船団の規模や操業方法が異なる
- 主な対象魚種はいわし類・あじ類・さば類・かつお・まぐろなどの回遊性浮魚
- 船団全体で30〜50名のチームワークで操業する「チームの漁業」である
- 未経験からでも甲板員として参入でき、漁労長・船団長へのキャリアパスがある
- 資源管理(TAC制度)や持続可能性への取り組みが年々強化されている
水産業界への就職・転職を考えている方は、まず漁師になるためのステップを確認し、気になる地域の求人情報を調べてみましょう。巻き網漁業は船団で操業するため、「雇われる形」での就業がしやすく、未経験者にとっても水産業界への入り口として適した漁法です。
水産業界全体の統計データについては、水産用語集もあわせてご覧ください。
参考情報
- 農林水産省「漁業産出額」(e-Stat 統計表ID: 0001886486、2026年4月時点の最新公表データ)
- 一般社団法人 全国まき網漁業協会「まき網漁業とは」(http://zenmaki.or.jp/abmakiami.html)
- 全国漁業就業者確保育成センター「漁師.jp まき網漁」(https://ryoushi.jp/gyogyou/engan/makiami/)
- 水産庁「図で見る日本の水産」(https://www.jfa.maff.go.jp/j/koho/pr/pamph/)
- 水産庁「資源管理の部屋 TAC制度」(https://www.jfa.maff.go.jp/j/suisin/)
- Marine Stewardship Council(MSC)「まき網」(https://www.msc.org/jp/)
- キャリアガーデン「漁師の年収・給料」(https://careergarden.jp/ryoushi/salary/、2026年4月閲覧)


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