しらす加工の方法を徹底解説|釜揚げ・しらす干し・ちりめんじゃこの製造工程と品質管理

しらす加工の方法を徹底解説|釜揚げ・しらす干し・ちりめんじゃこの製造工程と品質管理 水産加工

しらす加工の全体像|水揚げから食卓までの流れ

農林水産省の漁業産出額調査によると、しらす(いわし類の稚魚)の産出額は全国で376億2,500万円にのぼり、いわし類全体の約半分を占める主要水産物である(e-Stat 統計表ID: 0001886486、2022年時点)。5月はまさにしらす漁の最盛期で、鮮度が命のこの魚をいかに素早く加工するかが、最終製品の味を大きく左右する。

「スーパーで見かけるしらすって、そもそもどうやって作られているのか分からない」「釜揚げしらすとちりめんじゃこの違いは乾燥度だけ?」──こうした疑問を持つ方は少なくない。

この記事では、しらす加工の製造方法を工程ごとに分解し、各加工品の違いや品質管理の実態まで解説する。読み終わる頃には、しらす加工品を選ぶ目、あるいは加工事業を始めるための基礎知識が身についているはずだ。

記事の構成は以下のとおり。まず加工品の種類と定義を整理し、次に製造工程を時系列で追い、品質管理と産地別の特徴、最後に加工事業の始め方について触れる。

しらす加工品の種類と定義|水分含有率で分かれる3つの製品

しらす加工品は、乾燥度合いによって大きく3種類に分類される。原料はすべて同じカタクチイワシ・マイワシ・ウルメイワシの稚魚だが、加工後の水分含有率で呼び名と用途が変わる。

製品名 水分含有率 乾燥時間の目安 主な用途 保存期間(冷蔵)
釜揚げしらす 75〜88% 乾燥なし そのまま食べる・丼 2〜3日
しらす干し 65〜72% 2〜3時間 ご飯のお供・和え物 5〜7日
ちりめんじゃこ 35〜50% 半日〜1日 ふりかけ・炒め物 2〜3週間

さらに地域によって呼び方や好まれる乾燥度が異なる点も特徴的だ。

地域 好まれる乾燥度 呼び名 特徴
関東 若干(しらす干し) しらす 塩分やや強め・しっとり
静岡 中間干し しらす 釜揚げとちりめんの中間食感
関西 上干し(ちりめん) ちりめんじゃこ カリカリ食感・日持ちする
高知 上干し ちりめん 極限まで乾燥・旨味凝縮

この違いを知っておくと、「東京のスーパーで買うしらす」と「大阪で食べるちりめん」がなぜ別物に感じるのかが理解できる。水分含有率が10%違うだけで、食感・風味・保存性がまったく変わるのだ。

製造工程の全ステップ|水揚げから出荷まで

しらす加工は「鮮度との勝負」と言われる。水揚げから茹で上げまで、理想は2時間以内。ここでは各ステップを時系列で詳しく見ていこう。

ステップ1: 水揚げ・原料受入

しらす漁は主に船曳網(2隻で網を引く漁法)で行われる。漁獲後は船上で氷水に浸け、鮮度劣化を防ぐ。港に到着したら即座に加工場へ搬入する。

鮮度を保つために重要なポイントは3つある。

  • 漁場から港までの時間を最短にすること(多くの加工場は港に隣接している)
  • 船上での氷締めを徹底すること(水温を5℃以下に維持)
  • 搬入時に異物(海藻・エビ・小魚)を粗選別すること

筆者が静岡の加工場を訪問した際、「朝4時に水揚げした原料が、5時半には釜に入っている」と聞いた。1時間半という速さが、あのふっくらした食感を生み出している。

ステップ2: 洗浄・選別

搬入された生しらすは、大量の流水で洗浄される。ここでゴミ・海藻・小エビなどの混入物を除去する。近年は振動ふるいや風力選別機を併用し、サイズの揃った原料だけを次工程に送る工場が増えている。

ステップ3: 塩水ボイル(釜茹で)

しらす加工の中核工程がこの塩水ボイルだ。

  • 塩分濃度: 3〜5%(海水程度)
  • 湯温: 90〜100℃
  • ボイル時間: 1〜3分(しらすのサイズによる)

茹で加減で食感が決まるため、職人は原料のサイズ・鮮度・脂のりを見極めて秒単位で調整する。大規模工場では連続式ボイラーを使い、コンベアーで一定速度のまま茹で上げるが、小規模事業者では手作業の釜茹でが主流だ。

ボイル直後が「釜揚げしらす」の完成品となる。ここで製品化する場合は、冷却後すぐにパック詰めして出荷する。

ステップ4: 冷却

茹で上がったしらすは冷風または冷水で素早く冷却する。余熱で火が通りすぎると食感が硬くなるため、ここも時間との勝負だ。冷却後の品温を20℃以下まで下げることが、衛生管理上も求められる。

ステップ5: 乾燥

しらす干し・ちりめんじゃこを製造する場合は、冷却後に乾燥工程に入る。

乾燥方法 特徴 所要時間 メリット デメリット
天日干し 太陽光と自然風で乾燥 3時間〜1日 風味が豊か 天候に左右される
機械乾燥 温風乾燥機を使用 1〜4時間 安定品質・通年可能 設備投資が必要
ハイブリッド 天日+機械の併用 2〜6時間 風味と安定性の両立 管理が複雑

天日干しの場合、「せいろ」と呼ばれる木枠の網にしらすを薄く広げ、定期的にひっくり返しながら乾燥させる。職人は風向き・湿度・日差しの強さを読みながら、乾燥時間を調整する。

機械乾燥では40〜60℃の温風を送り、コンベアー上で均一に乾燥させる。温度が高すぎると表面だけ硬くなり、内部に水分が残る「芯残り」が起きるため、温度管理が重要だ。

ステップ6: 異物除去・検品

乾燥後は複数段階の異物除去工程を経る。現代のしらす加工場では、以下のような設備が並ぶ。

  • 磁力式異物除去装置(10,000ガウスの磁力で金属片を除去)
  • 風力選別機(軽量異物=毛髪・ビニール・海藻を分離)
  • 帯電式除去装置(高電圧で帯電性異物を吸引)
  • 目視選別コンベアー(熟練作業員が最終確認)
  • 金属探知機・ウェイトチェッカー(出荷前の最終関門)

しらすは1匹が2〜3cmと極めて小さいため、機械だけでは除去しきれない異物がある。最終的には「熟練作業員の見分ける目」が品質を担保しているのが実情だ。

ステップ7: 計量・包装・出荷

検品を通過した製品は自動計量機でパック詰めされ、金属探知とウェイトチェックを経て出荷される。釜揚げしらすは鮮度が命のため、加工当日に出荷されることが多い。しらす干しやちりめんじゃこは冷蔵・冷凍保存が可能で、流通期間に余裕がある。

HACCP対応と品質管理のポイント

2021年6月より、すべての食品事業者にHACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point)に沿った衛生管理が義務化された。しらす加工場も例外ではない。

重要管理点(CCP)の設定例

しらす加工における代表的なCCPは以下のとおり。

CCP 管理項目 管理基準 モニタリング方法
CCP1 ボイル温度 中心温度75℃以上1分間 温度計で連続測定
CCP2 冷却温度 60分以内に20℃以下 品温計で確認
CCP3 金属探知 Fe 1.5mm/SUS 2.5mm以上検出 全製品通過・テストピース確認

一般的衛生管理プログラム

CCPに加えて、日常的な衛生管理として以下を実施する。

  • 作業員の健康管理・手洗い・入室前エアーシャワー
  • 製造設備の洗浄・殺菌(作業前後)
  • 原料の温度管理記録(受入から加工まで)
  • 製造ロットの追跡管理(トレーサビリティ)
  • 害虫防除プログラム

HACCPの導入は一見ハードルが高そうだが、小規模事業者向けには「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」という簡略版が用意されている。厚生労働省の手引書に沿って記録をつければ、個人経営の加工場でも対応可能だ。

産地別の特徴と漁獲量ランキング

しらすの主要産地は兵庫県・愛知県・静岡県に集中している。令和5年(2023年)のデータでは、全国のしらす漁獲量は約50,303トンで、兵庫県が15,851トン(シェア31.5%)と圧倒的なトップだ。

順位 都道府県 漁獲量(令和5年) シェア 加工の特徴
1位 兵庫県 15,851t 31.5% ちりめんじゃこ中心・上干し文化
2位 愛知県 約5,000t 約10% 釜揚げ〜中間干し・篠島が有名
3位 静岡県 約4,400t 約9% 釜揚げ中心・用宗港が一大産地
4位 茨城県 約3,500t 約7% しらす干し主体
5位 神奈川県 約2,800t 約6% 生しらす直売・湘南ブランド

各産地の加工スタイルが異なるのは、地域の気候・食文化・流通事情が複合的に影響している。例えば兵庫県は瀬戸内海の温暖な気候と乾いた風がちりめん干しに適しており、何世代にもわたって上干し技術が磨かれてきた。

一方、湘南(神奈川県)では「生しらす」のブランド化が進み、加工せずそのまま販売する業態が観光資源にもなっている。旬の魚カレンダーでも紹介しているとおり、5月は関東のしらす漁が本格化する時期だ。

しらす加工で使える保存技術

加工後の保存方法によって、流通範囲と消費期限が大きく変わる。魚の真空パック保存法でも解説しているが、しらすに特化した保存のポイントを整理する。

保存方法 対象製品 保存期間 注意点
チルド(0〜5℃) 釜揚げしらす 2〜3日 当日出荷が基本
冷蔵(5〜10℃) しらす干し 5〜7日 密封容器で酸化防止
冷凍(-18℃以下) 全製品 1〜3ヶ月 急速冷凍推奨
真空パック+冷凍 ちりめんじゃこ 3〜6ヶ月 通販・長期保存向き

釜揚げしらすの賞味期限の短さが、「産地でしか食べられない」という希少性を生み、観光資源としての価値を高めている側面もある。近年は急速冷凍技術の発達により、釜揚げしらすの冷凍通販も増えてきた。

しらす加工を始めるために必要な許認可と設備

しらす加工事業を新規に始める場合、以下の許認可が必要になる。

  • 食品衛生法に基づく営業許可(水産製品製造業)
  • HACCPに沿った衛生管理計画の策定
  • 食品衛生責任者の配置
  • 排水処理設備の届出(自治体による)

設備面では最低限、以下が必要だ。

  • ボイル釜(連続式 or バッチ式)
  • 冷却設備(冷風 or 冷水)
  • 乾燥設備(天日用せいろ or 機械乾燥機)
  • 異物除去装置(最低でも金属探知機)
  • 計量・包装機
  • 冷蔵・冷凍庫

初期投資は小規模(日産100kg程度)で1,000〜3,000万円、中規模(日産1トン)で5,000万〜1億円が目安とされる。水産加工品の種類一覧で紹介しているとおり、しらす加工は水産加工の中でも比較的シンプルな工程のため、他の加工品(かまぼこ等)より参入障壁は低い。

かまぼこの製造工程と比較すると、すり身化や成形の工程が不要なぶん、設備構成がシンプルで済む点がしらす加工の利点だ。

よくある質問(FAQ)

Q1: 釜揚げしらすとしらす干しの違いは何ですか?

塩水で茹でた直後のものが釜揚げしらす(水分率75〜88%)、それを2〜3時間天日または機械で乾燥させたものがしらす干し(水分率65〜72%)です。食感は釜揚げがふっくら柔らかく、しらす干しはやや歯ごたえがあります。

Q2: ちりめんじゃことしらす干しの違いは何ですか?

乾燥時間と水分含有率が異なります。しらす干しの水分率が65〜72%なのに対し、ちりめんじゃこは35〜50%まで乾燥させます。ちりめんじゃこはカリカリとした食感で保存性が高く、常温でも数日持ちます。

Q3: しらす加工に使われる魚の種類は?

主にカタクチイワシの稚魚です。ほかにマイワシ・ウルメイワシの稚魚も使われます。産地や時期によって魚種構成が変わり、それが製品の風味にも影響します。

Q4: 自宅でしらす干しを作ることはできますか?

可能です。新鮮な生しらすを3%程度の塩水で1〜2分茹で、ザルに広げて天日で2〜3時間干せば自家製しらす干しが完成します。ただし鮮度が重要なので、水揚げ当日の生しらすが入手できる産地近くでないと難しい面があります。[魚の干物の作り方](https://suisan-navi.jp/homemade-dried-fish/)でも乾燥のコツを紹介しています。

Q5: しらす加工場を開業するには何が必要ですか?

食品衛生法に基づく「水産製品製造業」の営業許可、食品衛生責任者の資格、HACCPに沿った衛生管理計画が必要です。設備面では、ボイル釜・冷却装置・乾燥設備・金属探知機が最低限必要となり、小規模で1,000〜3,000万円の初期投資が目安です。

Q6: しらすの旬はいつですか?

産地によって異なりますが、一般的に春(3〜5月)と秋(9〜11月)が漁獲のピークです。特に5月は関東〜東海で漁が本格化し、脂ののった良質なしらすが獲れる時期とされています。

Q7: HACCP対応は小規模加工場でも必要ですか?

はい。2021年6月以降、原則としてすべての食品事業者にHACCPに沿った衛生管理が義務化されました。ただし、小規模事業者は「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」で対応可能で、厚生労働省の手引書に沿った記録管理で足ります。

まとめ|しらす加工は「鮮度」と「乾燥度の見極め」がすべて

しらす加工の本質は極めてシンプルだ。新鮮な稚魚を茹でて、乾かす。しかし、そのシンプルさの中に「水揚げから2時間以内に茹でる」「塩分濃度と湯温を秒単位で管理する」「乾燥度を天候に合わせて調整する」といった職人の技術が凝縮されている。

全国の漁業産出額で376億円超を占めるしらすは、水産加工業の中でも参入しやすく、かつ地域ブランド化が進みやすい製品だ。HACCP対応が義務化された今、衛生管理の知識は必須だが、それさえクリアすれば個人規模でも始められる事業でもある。

次のステップとして、具体的な加工品目の選定や事業計画の策定を検討するなら、水産加工品の種類一覧で他の選択肢も確認してほしい。

参考情報

  • 農林水産省「漁業産出額」(e-Stat 統計表ID: 0001886486)
  • 農林水産省「海面漁業生産統計」しらす漁獲量データ
  • 厚生労働省「HACCPに沿った衛生管理の制度化について」(2021年6月施行)
  • ヤマカ藤田商店「釜揚しらす、ちりめん干の製造方法」
  • 乾海産「生産体制」品質管理設備情報



コメント

タイトルとURLをコピーしました