最終更新: 2026-04-21
日本三大魚醤の一つ「しょっつる」の産地・秋田県では、一般家庭でも魚醤を仕込む文化が今なお残っています。魚醤は魚と塩さえあれば作れる、世界最古級の発酵調味料です。「自分で作ってみたいけれど、手順がわからない」「どんな魚を使えばいいの?」と感じている方も多いのではないでしょうか。この記事では、自家製魚醤の作り方を材料選びから熟成・ろ過まで順を追って解説します。まず魚醤の基本知識を押さえ、次に具体的な手順とコツ、そして魚種ごとの仕上がりの違いをお伝えします。
魚醤の作り方:始める前に知っておくこと
魚醤(ぎょしょう)とは、魚介類を塩漬けにして長期間発酵させ、滲み出た液体をろ過した調味料です。魚のタンパク質が微生物や自己消化酵素の働きでアミノ酸に分解されることで、濃厚なうま味が生まれます。
日本では秋田県の「しょっつる」、石川県能登半島の「いしる(いしり)」、香川県の「いかなご醤油」が日本三大魚醤として知られています。海外ではタイの「ナンプラー」、ベトナムの「ニョクマム(ヌクマム)」が有名です。魚醤の歴史は古く、古代ローマの「ガルム」にまで遡ります。
自家製魚醤を始める前に、全体像を把握しておきましょう。
| 項目 | 目安 |
|---|---|
| 所要時間 | 仕込み作業は約1時間、熟成期間は6か月〜1年 |
| 費用 | 1,000〜2,000円程度(魚500g+塩+容器) |
| 難易度 | ★☆☆(初心者でも挑戦しやすい) |
| 必要なもの | 魚(内臓ごと使えるもの)、塩、ガラス瓶またはホーロー容器、ガーゼ |
仕込み作業そのものは非常にシンプルです。ただし熟成に半年以上かかるため、長期間待てる環境を用意してください。
魚醤の作り方【ステップ解説】
ここからは、最も基本的な「魚+塩」方式の手順を紹介します。
Step 1:材料と道具を準備する
まず以下の材料を揃えてください。
| 材料・道具 | 分量・仕様 | ポイント |
|---|---|---|
| 魚 | 500g | カタクチイワシ、アジ、サバなど青魚がおすすめ。内臓ごと使う |
| 塩 | 150〜200g(魚の重量の30〜40%) | 粗塩や岩塩などミネラル豊富なものが望ましい |
| 保存容器 | 1〜2リットル | ガラス瓶やホーロー容器。金属製は腐食するため避ける |
| ガーゼ・さらし | 1枚 | 蓋の代わりに通気を確保しつつ虫の侵入を防ぐ |
| 重し | 適量 | 小皿や水を入れたビニール袋で代用可能 |
魚は鮮度の良いものを選んでください。鮮度が落ちた魚を使うと、発酵ではなく腐敗が進み、仕上がりに嫌な臭いが残る原因になります。魚を選ぶ際は、目が澄んでいてエラが鮮やかな赤色のものを選びましょう。詳しい見分け方は魚の鮮度の見分け方ガイドで解説しています。
Step 2:魚の下処理をする
魚を流水でよく洗い、ウロコを取り除きます。頭と内臓は「取る方法」と「そのまま使う方法」の2パターンがあります。
内臓には消化酵素が豊富に含まれているため、内臓ごと仕込むと発酵が早く進み、うま味も強くなります。ただし、内臓を入れると仕上がりの色が濃く、香りもやや強くなる傾向があります。初めて挑戦する方は、臭いが気になりにくい「頭と内臓を除去する方法」からスタートするのがおすすめです。
魚が大きい場合は3〜4cm幅にぶつ切りにしてください。小魚(カタクチイワシなど10cm以下)はそのまま使えます。
Step 3:塩と魚を混ぜて容器に詰める
ボウルに魚と塩を入れ、全体にまんべんなく塩が行き渡るようにしっかり混ぜます。塩の量は魚の重量の30〜40%が目安です。塩が少なすぎると腐敗のリスクが高まるため、初心者は40%(魚500gなら塩200g)でスタートすると安心です。
容器の底に塩を薄く敷き、魚を隙間なく詰めていきます。層ごとに塩を振りながら詰めるのがコツです。最後に上から残りの塩をかぶせ、重しを載せます。
Step 4:蓋をして熟成させる
容器の口にガーゼをかぶせ、輪ゴムで留めます。密閉せず通気を確保することが大切です。ただし、虫やホコリが入らないように必ずガーゼで覆ってください。
保管場所は直射日光が当たらない冷暗所が基本です。室温15〜25℃の環境が理想的で、夏場の高温多湿な場所は避けてください。
熟成中は2週間に1回程度、清潔なスプーンで全体をかき混ぜます。これにより発酵ムラを防ぎ、表面にカビが発生するのを抑えられます。仕込みから1か月ほどで魚の身が崩れ始め、液体が染み出してきます。
Step 5:ろ過して完成
6か月〜1年の熟成を経て、魚の身がほぼ溶けて琥珀色の液体が十分に出たら、ろ過の工程に移ります。
ザルにガーゼを二重に敷き、熟成液を静かに注ぎます。一度でろ過しきれない場合は、コーヒーフィルターを使うとさらに澄んだ仕上がりになります。
ろ過した魚醤は清潔な瓶に移し替え、冷蔵庫で保存します。冷蔵保存で1年以上もちます。残った魚の固形物は「魚醤粕(かす)」として、炒め物や漬物の調味料に活用できます。
魚種別の仕上がり比較|水産加工の視点から
魚醤は使う魚によって味わい・香り・色が大きく変わります。ここでは水産加工の現場でも使われる代表的な魚種ごとの特徴をまとめます。
| 魚種 | 代表的な魚醤 | 熟成期間の目安 | 味わいの特徴 | おすすめ用途 |
|---|---|---|---|---|
| カタクチイワシ | ナンプラー、いしる | 1〜2年 | うま味が非常に強く、塩味もしっかり | エスニック料理、鍋物のだし |
| ハタハタ | しょっつる | 2〜3年 | まろやかでクセが少ない | しょっつる鍋、和食全般 |
| イカ | いしり(能登) | 1〜2年 | 独特のコクと甘み | 煮物、貝焼き |
| アジ・サバ | 自家製向き | 6か月〜1年 | 青魚特有の深いうま味 | パスタ、ドレッシング |
| イカナゴ | いかなご醤油 | 1〜2年 | クセが少なく繊細な味 | 冷奴、お吸い物 |
| 鮭(内臓・アラ) | 北海道産魚醤 | 1年前後 | さっぱりとした風味 | 味噌汁の隠し味 |
水産業の現場では、加工時に出る魚のアラや内臓を魚醤の原料として再利用するケースが増えています。例えば、かまぼこの製造工程で取り除かれる魚の頭や骨は、従来は廃棄物として処理されていましたが、これを魚醤の原料に転用することで廃棄コストを削減しつつ新たな商品価値を生み出す取り組みが全国各地で進んでいます。かまぼこの製造工程でも触れていますが、すり身加工の副産物を有効活用する動きは水産加工業全体のトレンドです。
農林水産省の統計によると、日本の海面漁業・養殖業の産出額は約1兆4,228億円(e-Stat 統計表ID: 0001886486)に上ります。このうちイワシ類だけでも産出額は約760億円を占めており、魚醤の主要原料であるカタクチイワシの加工ポテンシャルの大きさがうかがえます。水産業界の最新データは水産業界の統計まとめページで定期更新しています。
麹を使った速醸法|熟成期間を短縮するテクニック
通常の魚醤は完成まで半年〜1年かかりますが、米麹を加える「速醸法」を使えば、2〜3か月で仕上げることも可能です。これは競合記事ではあまり詳しく触れられていない、水産加工の知恵を応用した方法です。
速醸法の手順
1. 魚500gを下処理し、ぶつ切りにする
2. 米麹200gと塩150gを混ぜて「塩切り麹」を作る
3. 魚に塩切り麹をまんべんなく揉み込む
4. 容器に詰め、重しを載せてガーゼで覆う
5. 1週間に1回かき混ぜながら、2〜3か月熟成させる
6. ろ過して完成
米麹に含まれるプロテアーゼ(タンパク質分解酵素)が魚のタンパク質を効率よく分解するため、通常の方法より格段に早く発酵が進みます。仕上がりは麹由来のほのかな甘みが加わり、まろやかな味わいになるのが特徴です。
| 比較項目 | 通常法(魚+塩のみ) | 速醸法(魚+塩+麹) |
|---|---|---|
| 熟成期間 | 6か月〜1年 | 2〜3か月 |
| 味の特徴 | 塩味が強く、魚のうま味がダイレクト | まろやかで甘みがある |
| 香り | 魚の発酵臭がやや強い | 麹の香りで臭いが抑えられる |
| 難易度 | 低い | やや高い(麹の管理が必要) |
| コスト | 約1,000円 | 約1,500〜2,000円(麹代が加算) |
臭いが苦手な方や、初めて魚醤作りに挑戦する方には速醸法がおすすめです。
失敗しないためのコツ・注意点
魚醤作りはシンプルですが、いくつかの落とし穴があります。事前に把握しておくことで、失敗のリスクを大幅に下げられます。
| よくある失敗 | 原因 | 対策 |
|---|---|---|
| 腐敗臭がする | 塩の量が不足している | 魚の重量の30%以上の塩を使う。不安なら40%にする |
| 表面にカビが生える | かき混ぜ不足、または湿度が高すぎる | 2週間に1回はかき混ぜる。梅雨時期は頻度を上げる |
| 仕上がりが濁る | ろ過が不十分 | ガーゼ→コーヒーフィルターの2段階でろ過する |
| うま味が薄い | 熟成期間が短い | 最低6か月は待つ。1年熟成が理想 |
| 容器が割れる・腐食する | 不適切な容器の使用 | ガラス瓶またはホーロー容器を使用。金属やプラスチックは避ける |
特に重要なのは塩分濃度の管理です。塩分が足りないと雑菌が繁殖し、発酵ではなく腐敗が進んでしまいます。迷ったら塩は多めに入れてください。完成後に塩辛すぎると感じた場合は、料理に使う際に量を調整すれば問題ありません。
実際に仕込んでみると…(現場の声)
水産加工の現場で魚醤を製造している石川県能登地方の加工業者によると、「いしるの味を決めるのは原料の鮮度と塩の質」だといいます。漁港に近い加工場では、水揚げされたばかりのイワシをその日のうちに仕込むため、臭みの少ない上質な魚醤に仕上がるそうです。
自家製で挑戦する場合も、スーパーの鮮魚コーナーで当日入荷のものを選ぶだけで仕上がりに差が出ます。実際に自家製魚醤を仕込んだ方の体験談として多いのは、「最初の1か月は独特の臭いが気になるが、3か月を過ぎたあたりから醤油に似た芳香に変わる」という声です。
また、魚醤作りは日本の伝統的な水産加工技術の一つです。干物の作り方や自家製燻製の作り方と並んで、魚を保存食に変える知恵として古くから受け継がれてきました。魚醤を仕込む過程で、魚の構造や発酵のメカニズムを実感できるのも面白さの一つです。
魚醤の使い方|完成後の活用レシピ
せっかく仕込んだ自家製魚醤は、さまざまな料理に活用できます。
| 料理ジャンル | 具体例 | 使い方のポイント |
|---|---|---|
| 和食 | 煮物、鍋物、味噌汁 | 醤油の代わりに少量加えるとうま味が格段にアップ |
| 洋食 | パスタ、ドレッシング | アンチョビの代わりに使える。ペペロンチーノに小さじ1が目安 |
| エスニック | パッタイ、生春巻き | ナンプラーの代用として使用 |
| 漬物・マリネ | 浅漬け、魚のマリネ | 塩の代わりに魚醤を使うとうま味が加わる |
| 隠し味 | カレー、チャーハン | 仕上げに数滴たらすだけで味に深みが出る |
使用量の目安として、醤油の半量程度から試してください。魚醤は塩分濃度が高い(一般的に20〜25%程度)ため、醤油と同量を入れると塩辛くなります。
よくある質問
Q1:魚醤を仕込むのに最適な時期はいつですか?
秋から冬にかけて(10月〜12月)が最適です。気温が低い時期に仕込むとゆっくり発酵が進むため、雑菌の繁殖リスクが低く、まろやかな仕上がりになります。秋はイワシやサンマなど脂ののった魚が手に入りやすい点もメリットです。
Q2:魚醤作りに向かない魚はありますか?
脂肪分が極端に多い魚(マグロのトロ部分など)は酸化しやすく、仕上がりの風味が損なわれる場合があります。また、フグなどの毒を持つ魚は絶対に使用しないでください。基本的には、青魚(イワシ、アジ、サバ)や白身魚(タイ、ハタハタ)が魚醤作りに向いています。
Q3:熟成中に白いカビが生えてしまいました。失敗ですか?
表面に薄く白いカビが生える程度であれば問題ありません。産膜酵母と呼ばれる無害な酵母である可能性が高いです。清潔なスプーンで取り除き、全体をかき混ぜてください。ただし、黒や緑のカビが広範囲に発生している場合は残念ながら廃棄してください。
Q4:完成した魚醤の保存期間はどのくらいですか?
冷蔵庫で保存すれば1年以上もちます。塩分濃度が高いため、常温でも数か月は保存可能ですが、風味の劣化を防ぐには冷蔵保存が望ましいです。開封後は清潔なスプーンや箸を使い、異物が混入しないよう注意してください。
Q5:市販の魚醤と自家製の味の違いは何ですか?
市販品は製造工程が標準化されており、均一な味に仕上がります。一方、自家製は使う魚の種類や鮮度、塩の種類、熟成環境によって味が変わるため、オリジナリティのある風味になります。市販のナンプラーに比べると、自家製は角が取れたまろやかな味わいになることが多いです。
Q6:魚醤と醤油の違いは何ですか?
醤油は大豆と小麦を原料とした発酵調味料で、魚醤は魚を原料とした発酵調味料です。どちらもアミノ酸のうま味が特徴ですが、魚醤は魚由来のイノシン酸を含むため、より複雑で深いうま味を持ちます。水産加工で使われる専門用語については[水産業界の用語集](https://suisan-navi.jp/fish-knowledge/fishery-glossary/)もあわせてご覧ください。
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まとめ:魚醤の作り方のポイント
- 魚醤は「魚+塩」の2つの材料で作れるシンプルな発酵調味料
- 塩分濃度は魚の重量の30〜40%が目安。少なすぎると腐敗リスクが上がる
- 熟成期間は通常法で6か月〜1年、速醸法(麹使用)なら2〜3か月
- 使う魚種によって味わいが大きく変わるため、好みに合わせて選ぶ
- 鮮度の良い魚を使うことが、臭みの少ない魚醤を作る最大のコツ
まずはカタクチイワシと塩で基本の魚醤を仕込んでみましょう。仕込み作業は1時間もかかりません。半年後、瓶の蓋を開けたときの芳醇な香りは、自分で仕込んだからこそ味わえる喜びです。
魚を使った保存食に興味がある方は、明太子の製造方法もぜひ読んでみてください。発酵・熟成を利用した水産加工の奥深さを知ることができます。
参考情報
- 魚食普及推進センター(一般社団法人 大日本水産会)「魚醤ってなに?どうやって作るの?」(https://osakana.suisankai.or.jp/s-preserved/7117)
- 日本醸造協会誌「魚醤の製造プロセスと細菌叢解析」(https://katosei.jsbba.or.jp/view_html.php?aid=1607)
- 長崎県総合水産試験場「魚醤油について」漁連だより2003.3 No.95(https://www.pref.nagasaki.jp/shared/uploads/2018/11/1543305626.pdf)
- e-Stat(政府統計の総合窓口)統計表ID: 0001886486「海面漁業・養殖業産出額」(https://www.e-stat.go.jp/)
- Wikipedia「魚醤」(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%AD%9A%E9%86%A4)


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