日本で流通する食用魚介類は約300種以上。だが、その「旬」を正確に把握している人はどれだけいるだろうか。農林水産省の令和6年統計によれば、2024年の海面漁業漁獲量は278万7,100トン。これだけの魚が水揚げされているのに、スーパーで手に取る魚はいつも同じ——そんな人も多いはずだ。
「旬の魚って結局いつなの?」「カレンダーはネットに山ほどあるけど、どれを信じればいいかわからない」。こうした疑問を持つ方に向けて、この記事では魚の旬を月別に完全網羅したカレンダーを提供する。ただし、よくある「○月は○○が旬です」という羅列だけでは終わらない。
水産業界に携わる立場から、漁法と旬の関係、水揚げ量データから見た実際の旬、漁師が教える本当に美味い食べ方まで踏み込んで解説する。まず「旬」の定義を整理した上で、春夏秋冬の月別カレンダー、漁法との関連、そして実践的な旬の魚の見分け方・食べ方までを一気に伝えていく。
魚の旬とは?3つの意味を正しく理解する
「魚の旬」と聞いて、多くの人は「脂がのって美味しい時期」を思い浮かべるだろう。確かにそれは正しいのだが、実は魚の旬には大きく分けて3つの意味がある。これを理解しないまま旬のカレンダーを眺めても、本質は見えてこない。
味の旬(食べて美味い時期)
最もポピュラーな「旬」の定義だ。魚が産卵に備えてエサを大量に食べ、体に脂肪を蓄える時期がこれにあたる。一般的に産卵期の1〜2か月前が味のピークとされている。
たとえばブリの場合、12月〜2月にかけて日本海を南下する過程で脂がのり、「寒ブリ」として最高の味わいになる。一方、産卵後は「麦わらブリ」と呼ばれ、身が痩せて味が落ちるとされる。
漁獲の旬(大量に獲れる時期)
漁業者にとっての「旬」は、漁獲量が多い時期を指すことが多い。魚食普及推進センター(大日本水産会)も指摘しているように、「獲れていない時期が旬だとしたら誰も食べられない」というのは現場の本音だ。
産卵のために沿岸に近づく魚は、この時期に漁獲しやすくなる。つまり、味の旬と漁獲の旬が重なる魚もあれば、ズレる魚もある。マダイがその典型で、春に漁獲量が増えるが、味の面では卵を産んだ後の夏以降のほうが身に脂がのる。
文化の旬(季節の行事と結びついた時期)
「初鰹」「秋刀魚」「寒ブリ」のように、季節の風物詩として定着した旬もある。これは味や漁獲量だけでなく、日本の食文化や行事と深く結びついている。初鰹は脂が少なくさっぱりしているが、江戸時代から「初物を食べると寿命が延びる」と珍重されてきた。味のピークは秋の戻り鰹だが、「旬」としての文化的価値は初鰹のほうが高いともいえる。
| 旬の種類 | 定義 | 判断基準 | 代表例 |
| 味の旬 | 脂がのり最も美味しい時期 | 産卵前1〜2か月、脂肪含量が高い時期 | 寒ブリ(12〜2月)、戻りガツオ(9〜10月) |
| 漁獲の旬 | 水揚げ量が最も多い時期 | 産卵回遊で沿岸に近づく時期 | 桜鯛(3〜5月)、秋サケ(9〜10月) |
| 文化の旬 | 季節行事・食文化と結びつく時期 | 伝統・風習・歳時記 | 初鰹(4〜5月)、秋刀魚(9〜10月) |
この記事では、味の旬を中心に据えつつ、漁獲の旬や文化的な背景にも触れながら月別カレンダーを構成していく。
【保存版】魚の旬カレンダー|月別一覧表
ここからは、1月から12月まで各月の代表的な旬の魚を一覧で紹介する。各魚について、旬の理由(なぜその月が美味いのか)と、おすすめの食べ方を現場の知見を交えて記載している。
春(3月・4月・5月)の旬の魚カレンダー
春は「走り」と呼ばれる旬の始まりを迎える魚が多い季節だ。水温の上昇とともに魚が活発に動き出し、産卵のために沿岸部へ近づいてくる。
3月は冬の名残と春の走りが交差する月で、まだ脂ののった冬魚と、初物の春魚が同時に楽しめる贅沢な時期でもある。サワラ(鰆)は漢字に「春」が入っているとおり、まさにこの時期から旬を迎える。関西では産卵のために瀬戸内海に入ってくる3〜5月が最盛期だ。
4月はマダイの季節。産卵前の真鯛は体がピンクに染まり「桜鯛」と呼ばれる。初鰹もこの頃から出始め、高知の一本釣りで水揚げされるものは鮮度が格別だ。メバルは「春告魚(はるつげうお)」の代名詞で、煮付けにすると絶品。
5月は初鰹が本格化するほか、イサキやアジが旬に入る。アジは通年獲れる魚だが、産卵前の5〜7月が最も脂がのる時期とされている。
| 月 | 代表的な旬の魚 | 旬の理由 | おすすめの食べ方 |
| 3月 | サワラ、ニシン、シラウオ、ホタルイカ | サワラは産卵のため沿岸へ回遊、ニシンは北海道での春告魚 | サワラの西京焼き、ニシンの塩焼き、ホタルイカの酢味噌 |
| 4月 | マダイ(桜鯛)、初ガツオ、メバル、サヨリ | マダイは産卵前の荒食い期、メバルは浮上・活性化 | 鯛の塩焼き・昆布締め、初鰹のたたき、メバルの煮付け |
| 5月 | 初ガツオ、イサキ、アジ、キス | カツオは黒潮に乗り北上中、イサキは産卵前で脂最大 | 鰹のたたき(薬味たっぷり)、イサキの刺身、キスの天ぷら |
夏(6月・7月・8月)の旬の魚カレンダー
夏は水温上昇に伴い、白身魚や回遊魚が活発になる季節だ。淡白な味わいの魚が多いイメージがあるが、実はこの時期にしか味わえない脂のりの良い魚も存在する。
6月はアユ(鮎)の解禁シーズン。清流の女王とも呼ばれるアユは、苔を食べて育つ独特の香魚だ。スズキもこの時期から旬に入り、洗い(あらい)にすると夏の涼味として格別。アナゴも夏場に脂がのり、江戸前の天ぷらや白焼きが定番だ。
7月はアジの最盛期で、特に相模湾や豊後水道のマアジは脂のりが別格。ウナギは天然物の旬が実はこの時期で、土用の丑の日に食べる文化は理にかなっている。ハモは京都の祇園祭に欠かせない夏の魚で、骨切りの技術が味を左右する。
8月はイワシ(マイワシ)が脂をたっぷり蓄える時期。2024年のマイワシの漁獲量は66万6,700トン(農林水産省 令和6年統計)で全魚種中トップ。シイラやカマスも旬を迎え、特にカマスの塩焼きは「秋カマスは嫁に食わすな」のことわざがあるほど美味い。
| 月 | 代表的な旬の魚 | 旬の理由 | おすすめの食べ方 |
| 6月 | アユ、スズキ、アナゴ、トビウオ | アユは解禁・苔食い期、スズキは産卵前の荒食い | アユの塩焼き、スズキの洗い、アナゴの白焼き |
| 7月 | アジ、ウナギ、ハモ、イカ(スルメイカ) | アジは脂肪含量ピーク、ハモは梅雨を越え脂増加 | アジの刺身・なめろう、ウナギの蒲焼き、ハモの湯引き |
| 8月 | マイワシ、カマス、シイラ、タチウオ | イワシは脂肪蓄積期、カマスは秋に向けて荒食い | イワシの刺身・つみれ汁、カマスの塩焼き、タチウオの塩焼き |
秋(9月・10月・11月)の旬の魚カレンダー
「食欲の秋」は魚にとっても最高の季節だ。夏の間にたっぷりエサを食べた魚たちが脂をまとい、年間を通じて最も多くの魚種が「味の旬」を迎える。
9月はサンマの季節。かつては8月下旬から水揚げが始まっていたが、近年は漁場が遠のき、初水揚げが9月以降にずれ込む年が増えている。戻りガツオもこの時期から出始め、春の初鰹とは別物と言えるほどトロのような脂がのっている。
10月は戻りガツオが最盛期を迎えるほか、秋サケが北海道を中心に大量に水揚げされる。秋サケは産卵のために川に戻る途中の個体で、身が引き締まり脂は控えめだが、イクラ(筋子)を抱えるメスは特に価値が高い。サバもこの時期から脂がのり始める。
11月は脂のりのピークを迎える魚が最も多い月のひとつ。ヒラメは「寒ビラメ」として12月〜2月にかけてさらに旨くなるが、11月から十分に美味い。ズワイガニは毎年11月6日が解禁日で、解禁直後のカニは身入りが良く、年末に向けて価格も高騰していく。
| 月 | 代表的な旬の魚 | 旬の理由 | おすすめの食べ方 |
| 9月 | サンマ、戻りガツオ、イワシ、カワハギ | サンマは南下開始・脂最大、戻りガツオは脂肪蓄積完了 | サンマの塩焼き、戻りガツオの刺身、カワハギの肝和え |
| 10月 | 秋サケ、サバ、カマス、太刀魚 | サケは産卵回遊で漁獲ピーク、サバは脂肪蓄積期に突入 | 秋鮭のちゃんちゃん焼き、しめ鯖、カマスの干物 |
| 11月 | ズワイガニ、ヒラメ、フグ、ブリ | カニは解禁(11/6)、ヒラメは低水温で身が締まる | カニ刺し・茹でガニ、ヒラメの薄造り、ブリしゃぶ |
冬(12月・1月・2月)の旬の魚カレンダー
冬は脂のりが最高潮に達する魚が多く、一年で最も「高級魚が美味い」季節だ。海水温が下がることで魚体に脂が蓄積され、身が締まって旨味が凝縮する。
12月は寒ブリの最盛期。富山湾の「氷見ブリ」は全国的なブランドで、毎年この時期になると初セリのニュースが報じられる。マダラ(真鱈)も冬の味覚の代名詞で、タラちり鍋は東北・北海道では欠かせない冬の食卓だ。フグも12月〜2月が天然物の旬で、下関の河豚は言わずと知れた最高峰。
1月は寒ブリに加えて、アンコウが本格的な旬を迎える。茨城や福島のアンコウ鍋は冬の名物で、「東のアンコウ、西のフグ」とも呼ばれる。金目鯛も脂がのり、伊豆や銚子で水揚げされるものは煮付けの定番だ。
2月は冬の終盤。ヤリイカが旬のピークを迎え、透き通った身の甘さは格別だ。ワカサギも氷上釣りのイメージが強いが、天ぷらにすると冬の味覚を手軽に楽しめる。ニシンは北海道で「春告魚」として知られるが、実際には2月後半から漁が始まることが多い。
| 月 | 代表的な旬の魚 | 旬の理由 | おすすめの食べ方 |
| 12月 | 寒ブリ、マダラ、フグ、ズワイガニ | ブリは南下中の脂最大、タラは産卵前の肥大期 | ブリの刺身・照り焼き、タラちり鍋、てっちり |
| 1月 | 寒ブリ、アンコウ、金目鯛、ノドグロ | アンコウは低水温で肝肥大、金目鯛は脂肪蓄積ピーク | あんこう鍋・どぶ汁、金目鯛の煮付け、ノドグロの塩焼き |
| 2月 | ヤリイカ、ワカサギ、ニシン、ハタハタ | ヤリイカは産卵前で身に甘みが凝縮、ニシンは回遊開始 | ヤリイカの刺身、ワカサギの天ぷら、ニシンの昆布巻き |
漁法と旬の深い関係|漁師が知る「獲り方で変わる味」
ここからは、他の旬カレンダー記事ではまず触れない漁法と旬の関係について掘り下げていく。実は、同じ魚でも漁法によって鮮度・味・価格が大きく変わる。水産業界にいれば常識だが、一般にはあまり知られていない話だ。
定置網漁と旬の関係
定置網漁(ていちあみりょう)は、魚の通り道に網を固定して設置し、回遊してくる魚を待ち受ける漁法だ。漁港から数kmの近海に設置されるため、水揚げから消費者に届くまでの時間が短く、鮮度が抜群に良い。
定置網の特筆すべき点は、季節ごとに獲れる魚が自然に変わることだ。春はサワラやマダイ、夏はアジやスズキ、秋はブリやサバ、冬はブリやタラと、旬の回遊魚がそのまま網に入ってくる。定置網漁師に言わせれば「旬のカレンダーなんて、網に入る魚を見てればわかる」というわけだ。
定置網漁の仕組みや歴史について詳しく知りたい方は、定置網漁の仕組みを徹底解説した記事も参考にしてほしい。
まき網漁と大量水揚げの旬
まき網漁(まきあみりょう)は、魚群探知機で魚の群れを見つけ、その周囲を巨大な網で囲い込んで一気に漁獲する方法だ。マイワシ、サバ、アジなどの大衆魚は、この漁法で大量に水揚げされる。
2024年の漁獲量データを見ると、マイワシ(66万6,700トン)とサバ類(25万6,000トン)が上位を占めるが、これらはいずれもまき網漁が主力だ。まき網の水揚げ量が増える時期=漁獲の旬であり、この時期は市場価格も下がるため、消費者にとってはコスパの良い「買い時」でもある。
一本釣り・延縄と「味の旬」
一本釣りや延縄(はえなわ)は、魚を一尾ずつ丁寧に釣り上げる漁法だ。魚体に傷がつきにくく、ストレスも少ないため、身の質が良いのが特徴。高知の初鰹の一本釣りや、大間のマグロの延縄はその代表格だ。
こうした漁法で獲れる魚は市場でも高値がつきやすく、「味の旬」を最大限に引き出せる獲り方といえる。ただし、漁獲量は限られるため、旬の短い時期に集中して水揚げされることが多い。
| 漁法 | 主な対象魚 | 旬との関係 | 鮮度・品質 | 価格帯 |
| 定置網 | ブリ、サワラ、マダイ、アジ | 回遊魚の季節変化がそのまま旬 | 高い(近海・短時間で水揚げ) | 中〜高 |
| まき網 | マイワシ、サバ、アジ | 大量回遊=漁獲の旬、コスパが良い | 中程度(大量処理のため) | 低〜中 |
| 一本釣り | カツオ、マグロ、タイ | 味の旬に合わせた操業が多い | 非常に高い(魚体損傷が少ない) | 高 |
| 延縄 | マグロ、金目鯛、ノドグロ | 深場の高級魚を旬に合わせて狙う | 非常に高い | 高〜非常に高 |
| 刺し網 | ヒラメ、カレイ、エビ類 | 底魚の旬(冬場)に漁獲量増 | 高い | 中〜高 |
水揚げ量データから見る「本当の旬」
テレビや雑誌で紹介される「旬の魚」と、実際に市場で大量に流通する魚には、しばしばギャップがある。ここでは農林水産省の統計データを基に、水揚げ量の面から「本当の旬」を読み解いてみたい。
2024年 主要魚種の漁獲量ランキング
農林水産省が公表した令和6年(2024年)漁業・養殖業生産統計によると、海面漁業の漁獲量は278万7,100トン(前年比4.8%減)だった。主要魚種の漁獲量は以下のとおりだ。
| 順位 | 魚種 | 漁獲量(2024年) | 前年比 | 主な旬の時期 |
| 1位 | マイワシ | 66万6,700トン | ▲3.8% | 6月〜10月 |
| 2位 | ホタテガイ | 31万6,700トン | ▲4.2% | 通年(冬が味のピーク) |
| 3位 | サバ類 | 25万6,000トン | — | 10月〜2月 |
| 4位 | カツオ | 24万3,100トン | +26.5% | 4〜5月(初鰹)、9〜10月(戻り) |
| 5位 | スケトウダラ | 12万3,600トン | — | 1月〜3月 |
(出典:農林水産省「令和6年漁業・養殖業生産統計」2025年公表)
注目すべきはカツオの前年比26.5%増だ。2024年はカツオの漁獲量が大幅に回復し、24万3,100トンを記録した。カツオは初鰹(4〜5月)と戻り鰹(9〜10月)の年2回旬があるが、漁獲量が多い年は市場価格も下がり、消費者にとっては手頃に楽しめるチャンスとなる。
水揚げ量と「味の旬」のズレに注意
マイワシは漁獲量で圧倒的な1位だが、味の旬は6〜10月。流通量が最も多いのは夏場の巻き網漁期で、この時期は脂がのったイワシを安価に手に入れることができる。一方、冬場のイワシは漁獲量こそ減るものの、寒さで身が締まり、刺身で食べると別格の美味さがある。
水産業界で20年以上のキャリアを持つ仲卸業者に話を聞くと、「旬のカレンダーに載っている時期と、自分が本当に美味いと思う時期はけっこうズレる。同じサバでも、10月の初物より1月の脂がガッツリのったやつのほうが刺身では格上」と語る。こうした現場の感覚こそが、カレンダー情報だけでは得られない「本当の旬」の知識だ。
漁師が教える|旬の魚を見極める5つのポイント
旬のカレンダーを知っていても、実際にスーパーや魚屋で「この魚は本当に旬なのか?」と迷う場面は多い。ここでは、漁師や市場関係者が実際に使っている鮮度と旬を見極めるポイントを紹介する。
1. 目の透明度
新鮮で旬の魚は目が澄んで透明感がある。白く濁っている場合は鮮度が落ちているサインだ。ただし、深海魚は水揚げ時に目が白くなることがあるので、金目鯛やノドグロなどは例外的に目だけでは判断しにくい。
2. エラの色
エラをめくって鮮やかな赤色であれば新鮮。茶色や黒ずんでいたら鮮度が落ちている。旬の時期の魚はエラの色が特に鮮やかで、これは血行が良く栄養状態が良い証拠でもある。
3. 体表のツヤと張り
旬の魚は体表にツヤがあり、触るとピンと張りがある。これは皮下脂肪が十分に蓄積されている証拠だ。特にサンマは「下あごの先端が黄色い」ものが脂のりが良いとされ、漁師の間では常識となっている。
4. 腹の硬さ
お腹を指で軽く押してみて、硬くパンと張っているものは内臓が新鮮で、旬の時期特有の脂がのった状態だ。腹がぶよぶよしているものは内臓が傷み始めている可能性がある。
5. 体型の丸み
旬を迎えた魚は、脂肪の蓄積によって体全体が丸みを帯びる。ブリやサバは横から見て背中が盛り上がっているものが脂のりが良い。逆に痩せて平べったい個体は旬を外れている可能性が高い。
旬の魚をもっと美味しく食べるための実践知識
旬の魚を手に入れたら、次に大切なのは「どう食べるか」だ。同じ魚でも、食べ方ひとつで旬の美味さを100%引き出せるかどうかが変わってくる。
旬の前半と後半で食べ方を変える
魚の旬は通常2〜3か月続くが、前半(走り)と後半(名残り)では味の特徴が異なる。
- **走り(旬の前半)**:身が締まってさっぱりしている。刺身やたたき、酢締めなど、素材の味をストレートに味わう食べ方が合う
- **盛り(旬の真っ最中)**:脂と旨味のバランスが最高。刺身でも加熱でも何でも美味い黄金期
- **名残り(旬の後半)**:脂が十分にのっている。焼き物、煮付け、鍋など加熱調理で脂の旨味を引き出す食べ方が合う
自宅での下処理が旬の味を左右する
魚の旬の美味さを最大限に活かすには、できるだけ丸ごと一尾を買って自分で処理するのがベストだ。切り身で買うよりも鮮度が保たれやすく、骨や頭からダシも取れる。
「魚を捌いたことがない」「ハードルが高い」と感じる方は、まずはアジから始めるのがおすすめだ。アジは通年手に入りやすく、サイズも手頃で、三枚おろしの練習に最適。初心者向けの魚の捌き方完全ガイドも参考にしてほしい。
保存で旬を長く楽しむ
旬の時期に大量に手に入る魚は、干物や漬け、冷凍保存で旬の味を長く楽しむことができる。特に干物は水分を飛ばすことで旨味が凝縮され、焼くだけで立派なおかずになる。
魚の旬カレンダーに関するよくある質問
Q1: 旬の魚はなぜ美味しいのですか?
旬の魚が美味しい理由は、主に脂肪含量の増加とアミノ酸(旨味成分)の蓄積にある。魚は産卵に備えてエサを大量に摂取し、体内に脂肪やグリコーゲンを蓄える。この栄養蓄積がピークに達する産卵前1〜2か月が「味の旬」だ。脂肪が増えると舌触りが滑らかになり、イノシン酸やグルタミン酸などの旨味成分も豊富になるため、食べたときの満足感が格段に高まる。
Q2: 養殖の魚にも旬はありますか?
養殖魚にも旬は存在するが、天然魚ほど明確ではない。養殖では餌の量や水温を人工的にコントロールできるため、年間を通じて一定の品質を保つことが可能だ。ただし、水温の影響は完全には排除できず、冬場に身が締まるブリ養殖など、季節による品質差は発生する。なお、日本のサーモン養殖は近年急速に拡大しており、養殖サーモンは通年で安定した脂のりを実現している。
Q3: 同じ魚でも産地によって旬が違うのはなぜですか?
日本列島は南北に約3,000km伸びており、海水温の差が大きい。同じブリでも、九州では11月頃から旬を迎えるのに対し、北陸の氷見ブリは12月〜1月がピーク。これは暖流(黒潮)と寒流(親潮)の影響や、魚の回遊ルートの違いによるものだ。サンマも以前は北海道の8月から始まり、南下とともに東北・関東の9〜10月が旬だったが、近年は漁場自体が沖合に移動しているため、従来の産地別カレンダーが通用しにくくなっている。
Q4: 旬を外れた魚は食べない方がいいですか?
旬を外れた魚がまずいとは限らない。脂のりが少ない時期でも、締め方や調理法で十分に美味しく食べられる。例えば夏のブリ(麦わらブリ)は脂が少ないが、フライや竜田揚げにすれば淡白な身が活きる。旬の魚を知っておくことは大切だが、「旬以外の魚は価値がない」という考え方は食材を無駄にしかねない。むしろ、旬を外れた時期の安い魚を上手に調理するのも、魚を楽しむひとつのスキルだ。
Q5: 近年、旬の時期がズレてきていると聞きますが本当ですか?
海水温の上昇により、一部の魚種で旬の時期がズレてきているのは事実だ。代表的なのがサンマで、かつては8月下旬に北海道で初水揚げされていたが、近年は漁場が日本のEEZ(排他的経済水域)の外側に移り、初水揚げが9月以降にずれ込むケースが増えている。ブリは逆に、水温上昇の影響で北海道での漁獲量が増加傾向にある。旬のカレンダーはあくまで「目安」であり、毎年の海況を確認することが大切だ。
Q6: 魚の旬カレンダーはスーパーの品揃えにも反映されていますか?
大手スーパーの鮮魚コーナーは、おおむね旬のカレンダーに沿った品揃えになっている。ただし、養殖魚や輸入魚が増えた結果、「通年で同じ魚が並ぶ」傾向も強まっている。旬の天然魚を確実に手に入れたいなら、地元の鮮魚店や市場の方が品揃えが豊富だ。豊洲市場をはじめとする中央卸売市場では、その日に水揚げされた旬の魚が朝一番で並ぶため、旬を肌で感じることができる。
Q7: 子ども向けに旬の魚を食べさせるならどの魚がおすすめですか?
骨が少なく、臭みが少ない魚から始めるのがおすすめだ。春ならサワラ(西京焼き)、夏ならアジ(フライ)、秋ならサケ(ムニエル)、冬ならタラ(鍋)がとっつきやすい。いずれも旬の時期に買えば鮮度が良く臭みが少ないため、魚嫌いの子どもでも食べやすい。旬の魚は栄養価も高く、DHA・EPAなどの不飽和脂肪酸を効率よく摂取できるメリットもある。
まとめ:魚の旬カレンダーを暮らしに活かすポイント
この記事では、魚の旬を月別カレンダーで網羅的に紹介しつつ、水産業界の視点から「本当の旬」の意味を掘り下げて解説した。最後に、押さえておきたいポイントを整理しよう。
- **魚の旬には「味の旬」「漁獲の旬」「文化の旬」の3つがある**。カレンダーを見るときは、どの旬を指しているかを意識すると選び方が変わる
- **漁法によって同じ魚でも鮮度・味・価格が変わる**。定置網や一本釣りの魚は鮮度が高く、まき網の魚はコスパが良い
- **水揚げ量データを見れば「買い時」がわかる**。漁獲量が多い時期は価格が下がり、旬の魚を手頃に楽しめるチャンスだ
- **旬の前半・後半で食べ方を変えると、より美味しく味わえる**。走りは刺身、名残りは加熱調理が基本
- **近年は海水温の変化で旬のズレが生じている**。カレンダーはあくまで目安として、毎年の入荷情報をチェックする習慣をつけたい
旬の魚を自分で選び、自分で捌いて食べる——その一連の流れには、スーパーの切り身パックでは得られない豊かさがある。まずは今月の旬の魚をひとつ選んで、丸ごと一尾買ってみることから始めてはいかがだろうか。
旬の魚を「獲る側」の視点を知ることで、食卓に並ぶ一尾一尾への見方がきっと変わるはずだ。
参考情報
- 農林水産省「令和6年漁業・養殖業生産統計」(https://www.maff.go.jp/j/tokei/kekka_gaiyou/gyogyou_seisan/gyogyou_yousyoku/r6/index.html)
- 魚食普及推進センター(一般社団法人 大日本水産会)「魚の旬とは?」(https://osakana.suisankai.or.jp/s-growth/5161)
- 全国漁業就業者確保育成センター「漁業の紹介」(https://ryoushi.jp/gyogyou/)
- WWFジャパン「さまざまな漁法の解説」(https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/2140.html)
- 旬の食材百科「月別旬の魚」(https://foodslink.jp/syokuzaihyakka/syun/monthly/)


コメント