最終更新: 2026-10-05
MSC認証とは、国際NPOのMSC(Marine Stewardship Council、海洋管理協議会)が運営する、持続可能な漁業を認める国際的な認証制度です。認証を取得した漁業で獲られた水産物には、青地に白い魚のロゴが入った「海のエコラベル」が付けられます。スーパーの鮮魚コーナーや回転寿司のメニューで見かけることが増えてきたこのラベルですが、実際にどんな基準で、どんな手続きを経て付いているのかは、消費者はおろか漁業関係者の間でも意外と知られていません。この記事では、MSC認証の仕組みと、国内での普及状況、そして現場の漁業者が認証を取る際に実際にぶつかるコストとハードルを、できるだけ具体的に整理します。
MSC認証(海のエコラベル)とは何か

MSC認証には、対象が異なる2つの認証が存在します。
| 認証名 | 対象 | 目的 |
|---|---|---|
| MSC漁業認証 | 漁業そのもの(漁船・漁業団体) | 資源管理・生態系への影響・管理体制が持続可能であることを認証する |
| MSC CoC認証 | 加工・流通・販売の各事業者 | 認証水産物と非認証水産物を混ぜずに流通させていることを認証する |
MSC漁業認証の審査では、第三者の審査機関が次の3つの原則に基づいて評価します(MSC公式サイト「MSC認証の概要」、2026年10月時点の説明)。
- 資源の持続可能性(獲りすぎていないか)
- 漁業が生態系に与える影響(他の生物や環境への影響)
- 漁業の管理システム(ルールが機能しているか)
一方のCoC認証は、漁獲後の加工・保管・輸送・販売のどこかで認証水産物と非認証の水産物が混ざってしまえば「海のエコラベル」を名乗れなくなるため、流通の各段階の事業者が個別に取得する必要があります。つまり「海のエコラベル」が最終商品に付くまでには、漁業者だけでなく加工業者や卸、スーパー・外食チェーンまで、サプライチェーン全体の認証が連なっている仕組みです。
毒物や爆発物を使うような破壊的な漁法、また過去2年以内に強制労働で有罪判決を受けた漁業は、そもそも申請自体が認められません(MSC公式サイト「MSC漁業認証 取得ガイド」、2026年10月時点の説明)。
なぜ水産業界・漁業関係者にとって重要なのか

MSC認証が業界側にとって重要なのは、「環境に良いことをしている」というイメージの話だけではありません。実務的には次の2つの意味があります。
1つ目は、大手の調達基準になっている点です。イオンや日本マクドナルドのように、MSC認証水産物の取り扱いを継続的な方針として掲げている小売・外食チェーンが増えており、認証を取っていない漁業は将来的にこうした大口の販路から外れるリスクがあります。
2つ目は、資源管理そのものが漁業の継続性に直結する点です。認証審査では漏れなく資源状況のデータ管理や漏獲防止の取り組みが問われるため、認証取得のプロセス自体が「この先何十年も獲り続けられる漁業かどうか」を見直すきっかけになります。小規模な漁業者にとっては負担の大きい作業ですが、裏を返せば審査に通る体制を作ること自体が、資源の枯渇という漁業全体のリスクへの備えにもなります。
日本での普及状況:MSCジャパン・アワード2026の事例

日本での「海のエコラベル」普及の動きを示す直近の出来事として、2026年9月10日に一般社団法人MSCジャパンが「MSCジャパン・アワード2026」の授賞式を開催しました(MSCジャパン公式発表、PR TIMES配信、2026年9月時点)。これはMSC「海のエコラベル」付き水産物の普及に貢献した事業者を表彰するもので、今回は次の4社が受賞しています。
| 部門 | 受賞企業 | 主な取り組み |
|---|---|---|
| 小売部門 | イオン | 2006年から海のエコラベル付き商品を販売し、約20年の取り扱い実績。「フィッシュバトン」コーナーなどで展開し、3年連続の受賞 |
| メーカー部門 | ニッスイ | 2030年ビジョン「GOOD FOODS 2030」の中で、MSC認証水産物の取扱い魚種数を拡大 |
| フードサービス部門 | 日本マクドナルド | 2019年からMSCラベル付きフィレオフィッシュを販売 |
| コミュニケーション部門 | Umios | 親子料理教室やメディア「サカナクロス」「umito.」を通じた情報発信 |
MSCジャパンによると、MSC認証水産物の2025年度の販売重量は約2万トンにのぼり、スーパー・コンビニ・外食店など、消費者が日常的に接する場で購入・利用できる商品が広がっています(MSCジャパン公式発表、2026年9月時点)。
国内のMSC認証漁業:京都の底引き網漁が「アジア初」だった

日本国内でもMSC漁業認証を取得している漁業は存在します。最初に取得したのは京都府機船底曳網漁業連合会で、ズワイガニとアカガレイを対象にした底引き網漁業が2009年8月にMSC漁業認証を取得しました。これは日本国内だけでなくアジアで初めてのMSC漁業認証取得でした(MSC公式発表、取得当時の報道より)。禁漁区域や禁漁期間の設定といった資源管理の取り組みが評価された結果とされています。
その後、北海道のホタテガイ漁業(垂下式・桁網漁業)、カツオ・マグロ類の一本釣り・はえ縄・まき網漁業、カキの養殖に類する漁業など、複数の漁業・漁業団体が認証を取得しています(MSC公式サイト「日本のMSC漁業認証取得漁業」、2026年10月時点の掲載内容)。ただし母数で見ると、世界全体のMSC認証漁業数に対して日本の件数はまだ少数にとどまっています。
漁業者が実際に取得するときのハードルとコスト

ここが競合の解説記事では意外と触れられていない部分です。MSC認証は「取ればブランド価値が上がる」という説明で終わりがちですが、現場の漁業者からすると最初に気になるのはコストと期間です。
MSC公式サイトの「MSC漁業認証 取得ガイド」によると、審査費用は漁業の規模や複雑さ、関係者(ステークホルダー)の多さによって15,000米ドルから120,000米ドル程度までと幅があり、この費用は申請側が審査機関に直接支払う仕組みです(MSC公式サイト、2026年10月時点の説明)。審査にかかる期間は予備審査を含めず本審査だけで平均12〜18ヶ月とされ、認証後も毎年の監査と5年ごとの再審査が必要になります。
この費用・期間の構造が、日本の漁業にとって特に重くなりやすい理由があります。欧米の大規模漁業と比べ、日本の沿岸漁業は漁業協同組合や個々の漁船単位での規模が小さいケースが多く、審査費用を分担する母体が小さいほど一事業者あたりの負担は重くなります。さらに、国内では「海のエコラベル」自体の消費者認知がまだ欧米ほど高くないため、認証を取っても販売価格にすぐ反映されるとは限らず、投資対効果が見えにくいという悩みも指摘されています。
実務的に認証取得を検討する漁業団体にとっての判断材料は、次のような点になります。
- 審査費用をどの単位(個人・漁船・漁協・産地全体)で負担するか
- 資源データや漁獲記録を審査基準に沿って整理・提出できる体制があるか
- 認証取得後、販路(卸・小売・外食)側がその価値を買い手として評価してくれるか
- 年次監査・5年ごとの再審査まで維持するコストを継続的に負担できるか
「資源管理をしっかりやっている漁業ほど通りやすい」制度である一方、「審査体制を整える人手とお金がある漁業ほど挑戦しやすい」制度でもあるのが実情です。
ASC認証との違い
水産物の認証でMSCと並んでよく名前が出るのがASC認証(Aquaculture Stewardship Council、水産養殖管理協議会)です。両者は対象がはっきり分かれています。
| MSC認証 | ASC認証 | |
|---|---|---|
| 対象 | 天然の漁業で獲られた水産物 | 養殖された水産物 |
| 主な審査観点 | 資源の持続可能性・生態系への影響・管理体制 | 環境負荷の低減・地域社会への配慮 |
天然もの中心の漁業関係者であればMSC、養殖業者であればASCが基本的な対象になります。ブリ・マダイ・サーモンなど養殖魚種を扱う事業者がMSC認証を目指すケースは基本的に発生しない点は、混同しやすいので押さえておくとよいポイントです。
まとめ:MSC認証を知っておくべき理由
- MSC認証は国際NPOのMSCが運営する、持続可能な漁業を認証する国際的な制度で、天然の漁業が対象(養殖はASC認証)
- 「海のエコラベル」が最終商品に付くまでには、漁業者のMSC漁業認証と、加工・流通・販売側のCoC認証の両方が必要
- 2026年9月のMSCジャパン・アワード2026では、イオン・ニッスイ・日本マクドナルド・Umiosの4社が普及への貢献で表彰され、2025年度の販売重量は約2万トンに達している
- 日本では2009年に京都府機船底曳網漁業連合会がアジア初のMSC漁業認証を取得して以降、ホタテガイやカツオ・マグロ漁業などで広がっているが、件数はまだ少数
- 審査費用は15,000〜120,000米ドル程度、審査期間は平均12〜18ヶ月と、小規模漁業ほど負担が重くなりやすい制度でもある
水産業界への就職・転職を考えている方にとっては、認証の有無が漁業の経営方針や取引先を知る手がかりにもなります。資源管理の仕組みをもう少し広く知りたい方は、水産業の課題も合わせてご覧ください。水産物の流通段階での品質管理に関心がある方は、水産物トレーサビリティの記事も参考になります。漁業・水産業の用語をまとめて確認したい場合は、水産業界用語集もご活用ください。
この記事は水産ナビ編集部が執筆しました。水産ナビは水産業界に特化した専門メディアです。
参考情報
- MSC(Marine Stewardship Council)公式サイト「MSC認証の概要」(https://www.msc.org/jp/standards-and-certification/summary-of-MSC-certification-JP)— 2026年10月時点の制度説明として確認
- MSC公式サイト「MSC漁業認証 取得ガイド」(https://www.msc.org/jp/for-businesses-JP/fishery-JP/fishery-certification-guide-JP)— 2026年10月時点の費用・審査期間・ステップの説明として確認
- MSC公式サイト「日本のMSC漁業認証取得漁業」(https://www.msc.org/jp/what-we-are-doing/Japan-MSC-certified-fisheries)— 2026年10月時点の掲載漁業一覧として確認
- MSC公式プレスリリース「京都府機船底曳網漁業連合会が日本で初のMSC漁業認証を取得」(https://www.msc.org/jp/what-you-can-do/media-centre/press-releases/%E4%BA%AC%E9%83%BD%E5%BA%9C%E6%A9%9F%E8%88%B9%E5%BA%95%E6%9B%B3%E7%B6%B2%E6%BC%81%E6%A5%AD%E9%80%A3%E5%90%88%E4%BC%9A%E3%81%8C%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%A7%E5%88%9D%E3%81%AEmsc%E6%BC%81%E6%A5%AD%E8%AA%8D%E8%A8%BC%E3%82%92%E5%8F%96%E5%BE%97)— 2009年8月の取得発表として確認
- PR TIMES「MSC『海のエコラベル』付き水産物の普及に貢献いただいた事業者を表彰する『MSCジャパン・アワード 2026』授賞式を開催」(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000140.000059178.html)— 2026年9月の授賞式発表として確認
- フードウイークリーWEB「持続可能な水産業推進へ4社表彰/第3回MSCジャパン・アワード」(https://f-weeklyweb.com/topics20260911-2/)— 2026年9月時点の報道として確認


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