栽培漁業とは?養殖業との違い・対象魚種・放流から漁獲までの仕組み

栽培漁業とは?養殖業との違い・対象魚種・放流から漁獲までの仕組み 漁業・漁法

最終更新: 2026-10-05

栽培漁業とは、卵から稚魚になるまでの最も死亡率が高い時期だけを人の手で育て、その後は自然の海や川に放流して、天然の環境で大きくなった個体を漁獲する漁業のことです。出荷まで一貫して人が育て続ける養殖業とは、「途中で自然に戻すかどうか」という点で区別されます。全国の都道府県が設置する栽培漁業センターなどを中心に、ヒラメやマダイ、クルマエビ、アワビ類など約70種を対象に実施されています(水産庁「令和2年度水産白書」、2026年10月確認)。

増養殖全体の産出額データや、養殖業との詳細な比較表を見たい方は「増養殖とは?栽培漁業のしくみと対象魚種、養殖業との違いを解説」で整理しています。本記事では、栽培漁業という仕組みそのものに絞り、誰が担っているのか、放流した魚はどれくらい海に残るのか、関連する仕事はあるのかまで掘り下げます。

栽培漁業とは何か|結論

2026 10 05 saibai gyogyo towa h2 00

栽培漁業は、次の4段階で進みます。

段階 内容 担い手
1. 種苗生産 親魚から卵を採り、死亡率が最も高い仔魚期を人工的な水槽で育てる 都道府県の栽培漁業センターなど
2. 中間育成 放流に適した大きさまで、いけすや水槽でさらに育てる 栽培漁業センター、漁業協同組合
3. 放流 自然環境に適応できる大きさになった種苗を、海や川に放流する 行政・漁協が連携して実施
4. 資源管理・漁獲 放流した個体も含めた資源を、漁獲サイズ制限などのルールの下で漁獲する 漁業者

このプロセスは、産卵直後の水産動物の多くが外敵に捕食されて生き残れないことに着目し、最も弱い時期だけを人の管理下に置くことで資源を積極的に増やす取り組みです(水産庁「令和2年度水産白書」、2026年10月確認)。香川県の説明でも、種苗生産・中間育成・放流・資源管理という同様の流れが示されています(香川県公式サイト「栽培漁業とは」、2020年12月10日公開、2026年10月確認)。

栽培漁業と養殖業の違い

2026 10 05 saibai gyogyo towa h2 01

栽培漁業と養殖業は「稚魚を育てる」という前半の工程は似ていますが、その後が大きく異なります。

項目 栽培漁業 養殖業
稚魚を育てた後 自然の海・川に放流する いけすなどで出荷まで育て続ける
出荷される個体 放流後、天然の環境で育った個体を漁獲 人が育てた個体をそのまま出荷
資源への位置づけ 天然資源そのものを増やす取り組み 天然資源への依存度は相対的に低い
市場での扱い 漁獲された天然の魚として扱われ、養殖と明確に区別されることは少ない 養殖と明記して流通することが多い

マダイやヒラメのように、栽培漁業と養殖業の両方で扱われている魚種もあります。養殖の仕組みを個別に知りたい場合は「マダイ養殖の仕組みとは」や「ヒラメの旬はいつ?天然・養殖の違い」も参考になります。

代表的な対象魚種|サケは栽培漁業に含まれるのか

2026 10 05 saibai gyogyo towa h2 02

栽培漁業の対象は、水産庁によると全国で約70種にのぼり、代表的なものは次のとおりです(水産庁「令和2年度水産白書」、2026年10月確認)。

分類 代表的な魚種
魚類 ヒラメ、マダイ、トラフグ、キジハタなど
甲殻類 クルマエビ、ガザミなど
貝類 アワビ類、ホタテガイ、アサリなど
ウニ類 エゾバフンウニなど

一方で、サケ(シロサケ)の放流事業は、栽培漁業と同じ「人工的に育ててから放流し、育った個体を漁獲する」という考え方に基づいていますが、日本国内では栽培漁業よりも古い歴史を持ち、事業の規模や実施体制が異なるため、栽培漁業の対象魚種として一律に整理されているわけではないという説明もあります(出典: 日本語版ウィキペディア「栽培漁業」記事、2026年10月5日時点の記載)。この点は公的機関の資料でも扱いに幅があり、サケの増殖事業を広い意味での資源を増やす取り組みとして紹介する資料もあります(水産庁「令和2年度水産白書」、2026年10月確認)。「サケの放流は栽培漁業そのものだ」と単純化せず、制度上は別枠で管理されている事業だと理解しておくと誤解が少なくなります。

誰が担っているのか|国・都道府県・栽培漁業センターの役割

2026 10 05 saibai gyogyo towa h2 03

栽培漁業は、1962年に香川県屋島と愛媛県伯方島に国内初の事業場が設置されたことから始まり、1979年に日本栽培漁業協会として全国展開が進みました。その後、2003年10月に日本栽培漁業協会は当時の水産総合研究センター(現・国立研究開発法人水産研究・教育機構)に統合され、現在は同機構と各都道府県の栽培漁業センターが種苗生産・技術開発を担う体制になっています(総務省公開資料「独立行政法人水産総合研究センター」関連情報、https://www.soumu.go.jp/main_content/000315960.pdf、2026年10月確認)。水産研究・教育機構の役割や組織については「水産研究・教育機構とは?役割・組織・入るための4つのルート」で詳しく解説しています。

広域を回遊する魚種については、関係する複数の道府県の行政・漁協・栽培漁業関係法人が連携して取り組む体制になっており、地域ごとの資源の実情に応じて対象魚種や放流場所が決められています。

現場での普及活動の例

このような取り組みを地域住民に伝える動きも各地で続いています。2026年10月4日付の釧路新聞電子版によると、根室市水産研究所の工藤良二所長が根室市総合文化会館で開かれた根室市民大学で「未来へつなぐ根室の水産業―栽培漁業・養殖業の取り組みと展望」と題した講演を行いました(釧路新聞電子版、2026年10月4日掲載、2026年10月5日確認)。記事本文は会員限定のため講演で紹介された具体的な魚種までは確認できませんが、水産研究所の所長自らが市民向けに栽培漁業・養殖業の意義を説明する機会が設けられている点は、栽培漁業が「研究機関や漁業者だけのもの」ではなく、地域全体で資源を支える仕組みだと理解するうえで参考になります。

放流した魚はどれくらい海に残るのか|効果測定の難しさ

2026 10 05 saibai gyogyo towa h2 04

栽培漁業には、見落とされやすい課題があります。放流した種苗がどの程度生き残り、実際にどれだけの効果を生んでいるのかを正確に測ることが簡単ではないという点です。

水産研究・教育機構(水研機構)は、従来の栽培漁業の事業効果評価が「産地市場での水揚げ金額」を効果、放流・調査にかかるコストを費用とする費用対効果分析にとどまっていたことを課題として挙げています。実際には水揚げ金額以外にも、関連産業への経済波及効果、遊漁(釣り人が放流魚を釣る効果)、そして放流した個体が再び産卵して資源を再生産する効果なども発生しているため、これらを合わせて評価する新しい手法が示されています。評価の方法としては、産業連関分析法、旅行費用から効果を推計するトラベルコスト法(TCM)、仮想的な市場を想定して効果を尋ねる仮想的市場評価法(CVM)などが使われています(水産研究・教育機構「栽培漁業の事業効果評価マニュアル」、2026年10月確認)。

また、水産庁は海洋環境の変化によって回帰率(放流した個体が実際に漁獲される割合)が低下している地域があることや、水揚げ金額の減少にともない、ふ化・放流にかかる経費の安定確保が課題になっていることも指摘しています。そのため、近年は闇雲に放流数を増やすのではなく、資源造成効果の高い対象種・適地を選んで重点的に放流する方向に進んでいます(水産庁関連資料、2026年10月確認)。

つまり栽培漁業は「放流すれば必ず資源が増える」という単純な仕組みではなく、どの魚種をどこに放流すれば効果が出やすいかを検証しながら進める、地味で長期的な事業だという理解が実情に近いといえます。

栽培漁業に関わる仕事はある?

漁師として船に乗る以外に、栽培漁業の現場で働くという選択肢もあります。各都道府県の栽培漁業センターや関連公社では、次のような業務で職員を募集することがあります。

  • 種苗生産・中間育成の現場作業(餌やり、水槽や水槽設備の清掃、水温・酸素濃度などのデータ測定)
  • 放流前の健康チェックや出荷作業
  • 環境調査・分析業務

例えば沖縄県栽培漁業センターでは、会計年度任用職員として魚介類の飼育管理や施設管理を担う人材を募集しており、未経験でも応募できる案件があります(沖縄県公式サイト、2026年10月確認)。北海道では公益社団法人北海道栽培漁業振興公社が種苗生産・環境調査・分析などの職種で正職員・アルバイトを採用しており、和歌山県栽培漁業協会のように水産技術職として正規職員を採用している団体もあります(各団体公式サイト、2026年10月確認)。

ただし、これらは船に乗って魚を獲る漁師の仕事とは異なり、施設内での飼育管理やデータ収集が中心の仕事です。「漁師になりたい」という志向と「栽培漁業センターで働きたい」という志向は似ているようで実際の業務内容はかなり違うため、求人を探す際は職務内容をよく確認することをおすすめします。漁師としての求人の探し方は「漁師の求人はどこで探す?」、行政側で水産業を支える仕事については「水産業普及指導員とは?」で解説しています。

よくある質問

Q1: サケの放流は栽培漁業に含まれますか?

サケの放流事業は栽培漁業と同じ「育ててから放流し、育った個体を漁獲する」という考え方に基づいていますが、国内では栽培漁業より古い歴史を持ち、実施体制も異なるため、栽培漁業の対象魚種として一律に扱われているわけではないという説明があります。資料によって扱いに幅があるため、「サケの放流=栽培漁業」と単純に言い切らない方が安全です。

Q2: 栽培漁業で育った魚は、天然の魚と区別して売られますか?

栽培漁業の定義上、放流後は自然の海で育った個体を漁獲するため、漁獲された時点では天然資源の一部として扱われます。そのため、市場や店頭で「これは栽培漁業由来です」と明記されて区別されることは基本的にありません。養殖業のように人が出荷まで育て続けた魚とは、この点で扱いが異なります。

まとめ:栽培漁業を理解する3つのポイント

  • 栽培漁業は、死亡率の高い卵〜稚魚期だけを人が育て、その後は自然に放流して漁獲する仕組みで、出荷まで育て続ける養殖業とは区別される
  • 都道府県の栽培漁業センターと国立研究開発法人水産研究・教育機構が技術開発・種苗生産の中心的な担い手であり、対象は全国で約70種にのぼる
  • 放流した資源がどれだけ効果を生んでいるかの測定は簡単ではなく、水揚げ金額だけでなく経済波及効果や再生産効果まで含めた評価手法が検討されている段階にある

栽培漁業と養殖業の産出額データをあわせて知りたい方は「増養殖とは?栽培漁業のしくみと対象魚種、養殖業との違いを解説」、個別の魚種の養殖事情を知りたい方は「マダイ養殖の仕組みとは」も合わせてご覧ください。

この記事は水産ナビ編集部が執筆しました。水産ナビは水産業界に特化した専門メディアです。

参考情報

  • 水産庁「令和2年度水産白書 (4)資源を積極的に増やすための取組」(https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/r02_h/trend/1/t1_3_4.html)— 2026年10月確認
  • 香川県公式サイト「栽培漁業とは」(https://www.pref.kagawa.lg.jp/suisan/gyogyo/tsukuru/saibai.html)— 2020年12月10日公開、2026年10月確認
  • 日本語版ウィキペディア「栽培漁業」(https://ja.wikipedia.org/wiki/栽培漁業)— 2026年10月5日時点の記載を確認
  • 国立研究開発法人水産研究・教育機構「栽培漁業の事業効果評価マニュアル」(https://www.fra.go.jp/saibai_manual.html)— 2026年10月確認
  • 釧路新聞電子版「栽培漁業や養殖紹介 市水産研究所・工藤所長が講演 根室市民大学【根室市】」(https://kushironews.jp/2026/10/04/706802/)— 2026年10月4日掲載、2026年10月5日確認
  • 沖縄県公式サイト「非常勤職員の仕事内容(沖縄県栽培漁業センター)」(https://www.pref.okinawa.lg.jp/kensei/jinji/1016520/1022585/1016590.html)— 2026年10月確認
  • 総務省公開資料「独立行政法人水産総合研究センター」(https://www.soumu.go.jp/main_content/000315960.pdf)— 2026年10月確認




コメント

タイトルとURLをコピーしました