遠洋漁業の種類が気になるあなたへ──まず知っておきたい全体像
「遠洋漁業って、マグロ漁船のことでしょ?」──半分正解で、半分不正解です。
遠洋漁業にはマグロはえ縄だけでなく、カツオ一本釣り、海外まき網、トロール(底びき網)、遠洋イカ釣りなど、複数の漁法が存在します。それぞれ対象魚種も船の大きさも航海期間もまるで違います。
この記事では、遠洋漁業の種類を主要6漁法に分類し、漁法ごとの仕組み・対象魚種・船のスペック・働き方まで一気に解説します。「遠洋漁業に興味があるけど、どの漁法が自分に合うのかわからない」という方にも、判断材料になる情報をまとめました。
なお、沿岸漁業や沖合漁業との違いを先に整理したい方は、「沿岸漁業と沖合漁業の違いを徹底比較」もあわせてご覧ください。
遠洋漁業とは?──沿岸・沖合漁業との違いを30秒で整理
まず前提を押さえましょう。日本の漁業は操業する海域によって、大きく3つに区分されます。
| 区分 | 主な操業海域 | 船の大きさ | 航海期間 |
|---|---|---|---|
| 沿岸漁業 | 日帰りできる沿岸部 | 10トン未満が中心 | 日帰り〜数日 |
| 沖合漁業 | 日本近海(EEZ内) | 10〜200トン級 | 数日〜数週間 |
| 遠洋漁業 | 外国のEEZや公海 | 200トン以上が中心 | 1か月〜1年半 |
遠洋漁業の特徴を一言でまとめると、「大型船で外国の排他的経済水域(EEZ)や公海に出て、長期間操業する漁業」です。
農林水産省の定義では、遠洋底びき網漁業、遠洋マグロはえ縄漁業、遠洋カツオ一本釣漁業、遠洋イカ釣漁業、海外まき網漁業などが遠洋漁業に分類されます。
遠洋漁業の歴史をざっくり振り返る
日本の遠洋漁業は、1973年(昭和48年)にピークを迎え、漁獲量は約400万トンに達しました。これは当時の日本の漁船漁業全体の約4割に相当します(水産庁「水産白書」による)。
ところが1977年(昭和52年)、アメリカやソ連が相次いで200海里水域を設定。日本の遠洋漁船は多くの漁場から撤退を余儀なくされました。さらに1992年(平成4年)末には公海上での大規模流し網漁業が禁止され、遠洋漁業の規模は急激に縮小します。
2022年(令和4年)時点の遠洋漁業の生産量は約30万トン前後で、漁船漁業全体の約1割にまで落ち込んでいます(農林水産省「海面漁業生産統計調査」令和4年確報)。それでも、マグロ・カツオなど高単価の魚種を扱うため、金額ベースでの存在感は依然として大きいのが現状です。
遠洋漁業の種類一覧──主要6漁法を比較
ここからが本題です。現在の日本で操業されている遠洋漁業の主な種類を、6つの漁法に分けて整理します。
| 漁法 | 対象魚種 | 船のトン数 | 乗組員数 | 主な操業海域 | 1航海の期間 |
|---|---|---|---|---|---|
| 遠洋マグロはえ縄 | クロマグロ、メバチ、キハダ、ビンナガ | 350〜499トン | 20〜25人 | 太平洋、インド洋、大西洋 | 10か月〜1年半 |
| 遠洋カツオ一本釣り | カツオ、ビンナガ | 100〜500トン | 25〜30人 | 中西部太平洋 | 1〜3か月 |
| 海外まき網 | カツオ(主)、キハダ | 700〜1,100トン積載 | 25〜30人 | 中西部太平洋(パラオ、ミクロネシア等のEEZ) | 40〜60日 |
| 遠洋トロール(底びき網) | タラ類、カレイ類、エビ類 | 500トン以上 | 30〜40人 | 北太平洋、ベーリング海など | 2〜6か月 |
| 遠洋イカ釣り | アカイカ、スルメイカ | 100〜200トン | 10〜15人 | 北太平洋、南米沖 | 6か月〜1年 |
| 海外旋網(大型)※ | カツオ、マグロ類 | 1,000トン超 | 30人前後 | 太平洋島嶼国周辺 | 40〜90日 |
※海外旋網は海外まき網と同義で使われることもありますが、近年は超大型船による操業形態を指すことが増えています。
では、それぞれの漁法を詳しく見ていきましょう。
遠洋マグロはえ縄漁──「花形」と呼ばれる理由
漁法の仕組み
遠洋マグロはえ縄漁は、遠洋漁業のなかでもっとも知名度が高い漁法です。長さ約100〜200kmにもおよぶ幹縄(みきなわ)に、約3,000本の枝縄(えだなわ)を付け、その先に付いた釣り針でマグロを釣り上げます。
操業の流れは以下のとおりです。
1. 投縄(とうなわ):早朝から幹縄と枝縄を海中に投入(約5〜6時間)
2. 待ち時間:数時間、縄を海中に漂わせる
3. 揚縄(あげなわ):縄を巻き取りながら、かかったマグロを船上に引き上げ(約10〜14時間)
4. 処理:マグロをエラ・内臓除去後、マイナス60度で急速凍結。マイナス55度の超低温冷凍庫で保管
この超低温冷凍技術があるからこそ、1年以上の航海でも刺身品質を維持できるわけです。
対象魚種と操業海域
クロマグロ(本マグロ)、メバチマグロ、キハダマグロ、ビンナガマグロが主なターゲット。操業海域は太平洋・インド洋・大西洋と文字どおり世界中に広がります。
現場のリアル:体験ベースの視点
元遠洋マグロはえ縄漁の乗組員経験者の話によると、「最初の1か月は船酔いとの戦い。でも慣れると、水平線しか見えない海で黙々と作業する時間が意外と心地いい」とのこと。一方で、「投縄から揚縄まで18時間以上の作業が連日続くことも珍しくない」という厳しさもあります。寄港は数か月に一度で、航海期間は10か月から最長1年半に及びます。
遠洋マグロはえ縄漁の主要基地は焼津港(静岡県)、三崎港(神奈川県)、気仙沼港(宮城県)などです。
遠洋カツオ一本釣り漁──職人技が光る伝統漁法
漁法の仕組み
遠洋カツオ一本釣りは、日本の伝統的な漁法が遠洋にまで拡大したものです。基本原理はシンプルで、カツオの群れを見つけたら、活きたイワシ(活餌)を撒いて興奮させ、竿と擬餌針で1匹ずつ釣り上げます。
具体的な操業手順は以下のとおりです。
1. 鳥山やソナーで魚群を探索
2. 魚群を発見したら散水機で海面にシャワーを噴射(小魚が逃げる様子を再現)
3. 活餌のイワシを投入してカツオを興奮状態にする
4. 鳥の羽や化学繊維で作った擬餌針を投入
5. 乗組員が一斉に竿を振り、1匹ずつカツオを甲板に放り上げる
熟練の漁師になると、1分間に10匹以上を釣り上げることもあります。一本釣りの詳細については「一本釣り漁法の仕組みと魅力」で詳しく解説しています。
沿岸の一本釣りとの違い
沿岸のカツオ一本釣りは日帰り〜数日の操業ですが、遠洋カツオ一本釣りは中西部太平洋まで足を延ばし、1航海1〜3か月におよびます。船のサイズも100〜500トン級と大型です。
海外まき網漁業──大量漁獲を支える主力漁法
漁法の仕組み
海外まき網漁業は、現在の遠洋漁業のなかでもっとも漁獲量が多い漁法のひとつです。魚群を魚群探知機やソナーで発見し、巨大な網で一気に包囲して漁獲します。
操業の流れはこうです。
1. 魚群探知機・ソナー・目視(鳥付き群など)で魚群を発見
2. 船に搭載した長さ1,500〜2,000mの巨大な網を円形に投入
3. 網の底を締め上げて袋状にする(巾着網の原理)
4. 網ごと魚を船上に引き揚げ
5. 船内のブラインフリーザーで急速冷凍
1回の操業で0〜200トンの漁獲があり、カツオを主体にキハダマグロなども混獲されます。
操業海域と規模
主にパラオ、ミクロネシア連邦、パプアニューギニア、キリバス、マーシャル諸島、ナウル、ソロモン諸島、ツバルなどの排他的経済水域(EEZ)内で操業します。各国に入漁料を支払って操業許可を得る必要があり、国際交渉の影響を大きく受ける漁業です。
船は魚を700〜1,100トン積載できる超大型で、乗組員は25〜30人。1航海は40〜60日程度で、遠洋漁業のなかでは比較的短い部類に入ります。
遠洋トロール漁業──深海の底魚を狙う大規模漁法
漁法の仕組み
トロール漁業は、大きな袋状の網を船で曳(ひ)いて魚を捕獲する漁法です。長さ約25メートルの三角形の袋網の両側に袖網を付け、これを海底付近で曳航することで、底生の魚介類を一網打尽にします。
網の構造のポイントは以下のとおりです。
- **上部**:浮き(アバ)で網口を持ち上げる
- **下部**:グランドロープに沈子(チンシ)を付けて海底に密着させる
- **袋部分**:ファスナー付きで、船上に引き揚げた後に開けて漁獲物を取り出す
対象魚種と操業海域
タラ類(スケトウダラ、マダラ)、カレイ類、エビ類(甘エビなど)が主なターゲットです。北太平洋、ベーリング海などの冷水域が主な操業海域になります。
漁獲物は船内の加工場で即座に選別・加工・冷凍保存されるため、「海の工場」とも呼ばれます。
注意点:環境負荷の議論
トロール漁業は海底生態系への影響が国際的に議論されている漁法でもあります。底びき網が海底を「耕す」ことで生態系を撹乱するという指摘があり、操業海域や方法に関する規制が年々強化されています。
遠洋イカ釣り漁業──集魚灯が照らす夜の海
漁法の仕組み
遠洋イカ釣り漁業は、夜間に強力な集魚灯でイカを船の近くに誘き寄せ、自動イカ釣り機で漁獲する漁法です。
1. 夕方から集魚灯(メタルハライドランプなど)を点灯
2. 光に集まったプランクトンを追ってイカが集合
3. 船の両舷に設置された自動イカ釣り機(1隻あたり数十台)が稼働
4. 擬餌針付きの仕掛けを上下させてイカを自動的に釣り上げ
5. 朝まで操業を続け、漁獲物は船内で急速冷凍
対象魚種と操業海域
アカイカ(ムラサキイカ)、スルメイカが主なターゲット。北太平洋や南米沖(ペルー沖、アルゼンチン沖)などが操業海域です。
遠洋イカ釣り漁業は、かつては日本の遠洋漁業の重要な柱でしたが、資源量の減少や国際規制の強化により、近年は操業隻数が大幅に減少しています。
遠洋漁業の種類別・働き方と年収の比較
遠洋漁業に興味がある方にとって、気になるのは「実際に働いたらどうなのか」でしょう。漁法別の働き方と年収の目安を整理します。
| 漁法 | 1航海の期間 | 年間の在宅期間目安 | 年収目安(乗組員) | 未経験からの就業 |
|---|---|---|---|---|
| 遠洋マグロはえ縄 | 10か月〜1年半 | 1〜3か月 | 400〜800万円 | 可能(要体力) |
| 遠洋カツオ一本釣り | 1〜3か月 | 比較的多い | 350〜600万円 | 可能 |
| 海外まき網 | 40〜60日 | 比較的多い | 400〜700万円 | 可能 |
| 遠洋トロール | 2〜6か月 | 2〜4か月 | 400〜650万円 | 要相談 |
| 遠洋イカ釣り | 6か月〜1年 | 2〜4か月 | 350〜550万円 | 可能 |
※年収は2025年時点の求人情報・業界ヒアリングに基づく概算値です。歩合制が多く、漁獲量によって大きく変動します。
船上では食費・住居費・光熱費がかからないため、手取りのほぼ全額を貯蓄に回せるという点は、陸上の仕事にはない大きなメリットです。漁師の年収について詳しくは「漁師の年収を徹底解説」もご覧ください。
資格について
遠洋漁業の乗組員になるのに、最初から特別な資格は必須ではありません。ただし、キャリアアップを目指すなら海技士免許(航海・機関)の取得が推奨されます。1等航海士クラスになると年収600万円以上も現実的なラインです。
漁師としてのキャリアパスに興味がある方は「漁師になるには?未経験からのロードマップ」が参考になります。
遠洋漁業が直面する3つの課題と今後の展望
遠洋漁業は日本の水産業にとって重要な位置を占め続けていますが、いくつかの構造的な課題を抱えています。
課題1:国際規制の強化
マグロ・カツオなどの資源管理は、WCPFC(中西部太平洋まぐろ類委員会)やICCAT(大西洋まぐろ類保存国際委員会)などの地域漁業管理機関(RFMO)が担っています。漁獲枠の設定や操業日数の制限が年々厳しくなっており、「獲りたくても獲れない」状況が増えています。
課題2:乗組員の確保
遠洋漁業の就業者数は長期的に減少傾向にあります。水産庁の「水産白書」(令和5年度版)によると、沖合・遠洋漁業の就業者数は減少が続いており、高齢化も進行しています。長期の航海による家族との分離、過酷な労働環境などが若年層の参入を阻んでいます。
課題3:燃油コストの高騰
大型船を長期間運航する遠洋漁業にとって、燃油コストは経営を左右する重大な要因です。燃油価格の高騰は出漁を断念する直接的な原因にもなります。
今後の展望
一方で、IUU(違法・無報告・無規制)漁業への国際的な取り締まり強化は、ルールを守る日本の遠洋漁業にとってプラスに働く可能性があります。また、AIやIoTを活用した操業効率化、冷凍技術のさらなる進化など、テクノロジーによる巻き返しにも期待がかかります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 遠洋漁業と沖合漁業の違いは何ですか?
主な違いは操業海域と航海期間です。沖合漁業は日本のEEZ内で数日〜数週間の操業が中心ですが、遠洋漁業は外国のEEZや公海で1か月〜1年半の長期航海を行います。船のサイズも遠洋漁業のほうが大型(200トン以上が中心)です。詳しくは「[沿岸漁業と沖合漁業の違い](https://suisan-navi.jp/fishing/coastal-vs-offshore-fishing/)」をご覧ください。
Q2. 遠洋漁業で一番多い漁法はどれですか?
漁獲量ベースでは海外まき網漁業が最大です。1回の操業で最大200トンの漁獲が可能で、カツオ・マグロの大量供給を支えています。一方、隻数ベースでは遠洋マグロはえ縄漁が依然として多い漁法のひとつです。
Q3. 遠洋漁業の乗組員になるには資格が必要ですか?
入門段階では特別な資格は不要です。未経験から乗船できる求人も存在します。ただし、幹部船員を目指す場合は海技士免許(航海・機関)が必要で、水産系の学校や海技教育機構での取得が一般的です。
Q4. 遠洋漁業の年収はどれくらいですか?
漁法や経験年数によって大きく異なりますが、新人の乗組員で年収360〜410万円程度、経験2年以上で450〜510万円程度、海技士免許を持つ上級乗組員で580〜650万円以上が目安です(2025年時点の求人情報に基づく)。船長クラスになると年収1,000万円を超えるケースもあります。
Q5. 遠洋漁業の漁獲量はなぜ減ったのですか?
最大の要因は1977年の200海里体制の導入です。アメリカやソ連が排他的経済水域を設定したことで、日本の遠洋漁船は多くの漁場から撤退しました。その後も公海での大規模流し網漁業の禁止(1992年)、国際的な漁獲枠の縮小など、規制強化が続いています。
Q6. 遠洋漁業は今後なくなるのですか?
完全になくなる可能性は低いです。マグロ・カツオなど高単価魚種の需要は国内外で根強く、日本の遠洋漁業は資源管理型への転換を進めています。ただし、操業隻数や就業者数は今後も縮小傾向が続くと見られています。
Q7. 定置網漁も遠洋漁業の一種ですか?
いいえ、定置網漁は沿岸漁業に分類されます。海中に固定した網に魚が入るのを待つ受動的な漁法で、遠洋漁業のように船で遠方に出向くものではありません。定置網漁の仕組みについては「[定置網漁の仕組みを徹底解説](https://suisan-navi.jp/fishing/fixed-net-fishing/)」で詳しく説明しています。
まとめ:遠洋漁業の種類を理解して、次の一歩を
遠洋漁業には、マグロはえ縄、カツオ一本釣り、海外まき網、トロール、イカ釣りなど複数の種類があり、それぞれ対象魚種・操業海域・航海期間・働き方がまったく異なります。
「遠洋漁業=マグロ漁船」というイメージだけで判断すると、自分に合った選択肢を見逃してしまいます。たとえば、長期航海が不安なら40〜60日で帰港できる海外まき網漁業、職人技を磨きたいならカツオ一本釣りなど、漁法によってライフスタイルは大きく変わります。
200海里体制以降、規模は縮小したものの、遠洋漁業は今も日本の食卓に高品質なマグロやカツオを届け続けている重要な産業です。興味を持った方は、まず漁業就業支援フェアや全国漁業就業者確保育成センター(漁師.jp)などの窓口で情報収集してみてください。
参考情報
- [農林水産省「遠洋漁業について教えてください」](https://www.maff.go.jp/j/heya/kodomo_sodan/0106/17.html)
- [水産庁「漁業生産の状況の変化」(令和元年度水産白書)](https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/r01_h/trend/1/t1_f1_1.html)
- [水産庁「遠洋漁業等をめぐる国際情勢」(平成28年度水産白書)](https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/h28_h/trend/1/t1_1_2_1.html)
- [農林水産省「海面漁業生産統計調査」](https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/kaimen_gyosei/)
- [全国漁業就業者確保育成センター「漁業の紹介」](https://ryoushi.jp/gyogyou/)
- [焼津漁業協同組合「遠洋漁船と漁法」](https://www.yaizu-gyokyo.or.jp/gyokyo/fishing-method/)
- [日本かつお・まぐろ漁業協同組合「遠洋かつお・まぐろの漁法」](https://www.japantuna.net/know/dictionary/?id=1555576490-768121)
- [福一漁業株式会社「海外まき網漁業ってどんな漁業」](https://fukuichi.gr.jp/whatispurseseinefishery/)


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