最終更新: 2026-09-21
2025年5月30日、愛知県蒲郡市の三河湾に新しい実習船「愛知丸」が竣工した。総トン数581トン、高性能レーダーとドローン・水中ロボットを備えた最新鋭の船だ(愛知県公式発表)。この船を使って生徒を鍛えているのが、愛知県で唯一の水産専門高校である愛知県立三谷水産高等学校(通称「三谷水産」)だ。
「愛知に水産高校はあるのか」「偏差値はどのくらいか」「学科ごとに何が違うのか」──水産高校を志す中学生や保護者からよく挙がる疑問に、本記事では一気通貫で答える。あさり漁獲量日本一という愛知県水産業の実力と照らし合わせながら読むことで、「なぜここで学ぶ価値があるのか」が具体的にわかるはずだ。
愛知が「隠れた水産県」である理由

愛知県立三谷水産高等学校が蒲郡市に設置されている背景には、伊勢湾・三河湾という内湾が育む愛知県水産業の厚みがある。まず実力を数字で確認しよう。
| 指標 | 数値・内容(2022年) | 出典 |
|---|---|---|
| 海面漁業・養殖業生産量の全国順位 | 全国22位(50,963トン) | 愛知県「水産業の動き2024」 |
| 生産量が全国1位の品目 | くるまえび、がざみ類、あさり類、あゆ養殖 | 愛知県「水産業の動き2024」 |
| 海面漁業漁獲量 | 37,581トン(前年比28.9%減) | 愛知県「水産業の動き2024」 |
| 海面漁業産出額 | 117.1億円(前年比13.1%減) | 愛知県「水産業の動き2024」 |
| 内水面養殖業収獲量の全国順位 | 全国2位 | 愛知県「水産業の動き2024」 |
海面漁業・養殖業の生産量だけを見ると全国22位で、北海道や九州のような「水産大県」のイメージは薄いかもしれない。しかし品目別に見ると話は変わる。くるまえび、がざみ類(ワタリガニの仲間)、あさり類、あゆ養殖の4品目で生産量日本一を誇り、特にあさり類は令和5年(2023年)に2,896トン・全国シェア52.5%で圧倒的な1位を維持している(農林水産省「漁業・養殖業生産統計」)。三河湾の遠浅な干潟がアサリの生育に適していることが背景だ。
漁獲量の内訳を見ても、かたくちいわしが27.9%、しらすが11.3%、あさり類が8.0%を占め(愛知県調べ、2022年)、しらす漁獲量も2019年時点で11,433トン・全国2位(南知多町の篠島・日間賀島・師崎が主産地)と、内湾漁業に強い特徴が明確だ。
こうした「量より品目の強さ」で勝負する愛知の水産業を支える人材を育てているのが、三谷水産高等学校だ。
愛知県立三谷水産高等学校の基本情報

| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | 愛知県立三谷水産高等学校 |
| 通称 | 三谷水産(みやすい) |
| 所在地 | 愛知県蒲郡市三谷町水神町通2番地1 |
| アクセス | JR三河三谷駅より徒歩10分、JR蒲郡駅・名鉄蒲郡駅より徒歩20分 |
| 設置形態 | 県立・共学 |
| 創立 | 1943年(昭和18年)4月1日 |
| 学科 | 海洋科学科・情報通信科・海洋資源科・水産食品科(各定員40名、計160名) |
| 専攻科 | 海洋技術科(2年間、航海・機関・情報通信の3コース) |
| 偏差値 | 37〜39(2026年度、みんなの高校情報調べ) |
| 実習船 | 愛知丸(2025年5月竣工、581トン) |
愛知県には水産・海洋系の専門高校がここ1校しかない。県内で水産の専門教育を受けたい中学生は、実質的にこの学校が唯一の選択肢になる。
創立80年超、愛知の水産教育を支えてきた歴史
三谷水産高等学校は1943年(昭和18年)4月1日に創立された。太平洋戦争末期という時代に、蒲郡の海に面したこの地で水産業の担い手育成が始まったことになる。戦後の学制改革を経て現在の校名・学科体制へと発展し、2016年度(平成28年)には文部科学省のスーパープロフェッショナルハイスクール(SPH)に指定された。地元企業と連携した水産加工品の商品開発など、「6次産業化」(生産・加工・販売を一括で学ぶ取り組み)を先駆的に進めてきた実績が評価されての指定だ。
学科とコースの詳細

三谷水産高等学校は「海洋科学科」「情報通信科」「海洋資源科」「水産食品科」の4学科6分野で構成される。全国の水産高校(46校)の中でも学科の幅広さはトップクラスだ(はたらくネットあいち調べ)。
海洋科学科(定員40名)
「海」と「船」のプロを育てる学科。2年次から2つのコースに分かれる。
- 海洋漁業コース: 航海士・漁師の養成を目的とし、実習船「愛知丸」での乗船実習が中心
- 海洋工学コース: 船舶機関士の育成が目的だが、機械系の基礎力を活かして自動車業界など陸上の製造業に就職する卒業生も多い
情報通信科(定員40名)
全国46校ある水産高校のうち、情報通信科を設置しているのはわずか6校のみという希少な学科だ(はたらくネットあいち調べ)。プログラミング・無線通信・電子機器の扱いを学び、専攻科の情報通信コースに進めば国家試験の一部科目免除といった実利もある。水産高校でありながら、IT・通信系のキャリアを目指せる点が三谷水産の大きな特徴になっている。
海洋資源科(定員40名)
海の資源をどう育て、どう守るかを学ぶ学科。
- 栽培漁業コース: 養殖業の専門知識・技術を学ぶ
- 海洋環境コース: 海洋環境の保全・調査を専攻する
在学中には、うなぎの完全養殖化に関する研究にも取り組んでおり、資源管理・増養殖の視点を早くから養える環境が整っている。
水産食品科(定員40名)
水揚げされた魚介類を「食品」として加工・流通させる技術を学ぶ学科だ。地元企業イチビキ株式会社と共同開発したニギス使用の魚醤油「喜白」など、実際に商品化された加工品を通じて品質管理・食品開発の実践力を身につける。生徒が開発した加工品はモンドセレクションで複数回金賞を受賞しており(2014年・2015年・2020年など、水産・海洋高校缶詰瓶詰図鑑調べ)、教室の学びが実際の商品として世に出る経験ができる学科だ。
専攻科「海洋技術科」(2年間)──上級資格への道
本科を卒業した生徒が対象の2年制課程で、航海・機関・情報通信の3コースがある。修了後は国土交通省や海上保安庁、大手企業への就職実績があるほか、4年制大学の3年次に編入する道も開かれている。海洋科学科の航海・機関コース修了生は三級海技士の受験資格を得られ、情報通信コース修了生は関連の国家試験で科目免除を受けられるなど、本科での学びがそのまま専攻科・資格取得につながる設計になっている。
新実習船「愛知丸」と実習の実態
三谷水産高校のシンボルである実習船「愛知丸」は、2025年5月30日に新造船として竣工した(愛知県公式発表)。総トン数581トンで、常石三保造船株式会社(静岡市清水区)が建造を担当した。先代の愛知丸(2007年3月竣工、299トン、三保造船所建造)と比べて大幅に大型化しており、遠距離まで探知できる海鳥レーダーや、小型船舶の多い海域でも識別しやすい高速旋回レーダーといった最新の航海機器を搭載している。
新しい愛知丸では、年間200日以上の乗船実習を計画しており、内容も多彩だ。
- カツオの一本釣り・ジギングなどの漁業実習
- 船舶通信実習
- ドローンを使った海洋環境調査
- 水中ロボットの運用・海水汚染調査
- 機関実習
なお、先代の愛知丸は全長46.35メートル・定員50名(船員14名、教員1名、生徒35名)で、母港は蒲郡だった。船が新しくなっても、カツオ一本釣りなど愛知の伝統的な漁法を体で学ぶという実習の軸は変わっていない。
偏差値と入試情報
三谷水産高等学校の偏差値は学科ごとに次のように発表されている(2026年度・みんなの高校情報調べ)。
| 学科 | 偏差値(2026年度) |
|---|---|
| 海洋資源科 | 39 |
| 海洋科学科 | 38 |
| 水産食品科 | 38 |
| 情報通信科 | 37 |
募集定員は令和8年度入試で各学科40名、計160名。推薦選抜(第1・第2志願)、特色選抜(各学科若干名)、一般募集(第1・第2志願)の3方式で選抜が行われる(三谷水産高等学校公式サイト)。
偏差値だけを見て「入りやすい学校」と判断するのはもったいない。水産高校は資格取得・実習経験・就職実績にこそ価値がある専門教育機関だ。特に情報通信科は全国でも6校しか設置校がない希少な学科であり、偏差値の数字以上に進路の選択肢が広い点は見逃せない。
なお、水産高校全体の偏差値帯や全国の学校一覧は、全国の水産高校一覧や水産高校の偏差値まとめも参考にされたい。
卒業後の進路・就職先
三谷水産高校の進路は、就職と進学の両方に幅広い道が用意されている。
| 進路分類 | 代表的な就職・進学先 |
|---|---|
| 漁業・水産業 | 愛知県内の漁業関係者、水産加工会社 |
| 海運・船舶 | 内航海運会社、フェリー会社 |
| 官公庁 | 国土交通省、海上保安庁 |
| 陸上製造業 | 自動車関連企業(海洋工学コース卒業生の実績が豊富) |
| IT・通信 | 情報通信科の学びを活かした通信・電子機器関連企業 |
| 進学 | 専攻科(海洋技術科)、4年制大学(専攻科修了後の3年次編入含む) |
海洋工学コースの卒業生が地元・愛知の基幹産業である自動車業界に就職する実績が多いのは、三河地域ならではの特徴だ。水産高校というと漁業関係者への就職を想像しがちだが、機械・電気・情報通信の基礎力を土台に、水産以外の産業でも活躍できる人材を輩出している。
専攻科まで進めば、国土交通省や海上保安庁、大手企業への就職も視野に入る。より高度な資格・キャリアを目指す生徒にとって、本科3年+専攻科2年の計5年間は現実的な選択肢だ。
漁師になる方法全般については漁師になるための完全ガイド、資格の詳細は漁師の資格と種類まとめも参照してほしい。
愛知で水産の仕事を目指す意味
愛知の水産業は、生産量の総量では全国22位という中規模県だが、くるまえび・がざみ類・あさり類・あゆ養殖という4品目で日本一を誇る「専門特化型」の水産県だ。特にあさり類は全国シェアの半分以上を占めており、三河湾の干潟という地の利を活かした漁業がそのまま強みになっている。
三谷水産高校で学ぶことは、こうした愛知特有の内湾漁業・栽培漁業のノウハウを早い段階で吸収できるという意味を持つ。加えて、情報通信科という他県の水産高校にはあまりない学科があることで、水産業以外のキャリア(IT・通信系)にも道が開かれているのが三谷水産の独自性だ。
新造船「愛知丸」による実習環境の刷新は、これから入学する世代にとって大きな追い風になるだろう。
水産高校卒業後の進路をさらに詳しく知りたい方は、水産高校の進路と将来性まとめも参考にしてほしい。
水産高校 愛知 よくある質問(FAQ)
Q1. 愛知に水産高校は何校ある?
愛知県内の水産・海洋系専門高校は愛知県立三谷水産高等学校の1校のみだ。蒲郡市三谷町に設置されており、県内で水産の専門教育を受けたい場合はこの学校一択となる。
Q2. 愛知県立三谷水産高校の偏差値はどのくらい?
2026年度の偏差値は学科によって37〜39(みんなの高校情報)。海洋資源科が39でやや高く、情報通信科が37となっている。数字の差はわずかであり、学科選びは偏差値よりも「何を学びたいか」を優先すべきだ。
Q3. 情報通信科は水産と関係あるの?
プログラミング・無線通信・電子機器の扱いを学ぶ学科で、船舶通信や海洋観測機器の運用にも関わる。全国46校の水産高校のうち設置しているのは6校のみという希少な学科で、水産業界だけでなくIT・通信業界への就職も視野に入る。
Q4. 卒業後、水産業以外の仕事にも就ける?
就ける。特に海洋工学コースの卒業生は、機械系の基礎力を活かして自動車関連企業など愛知の基幹産業に就職するケースが多い。水産高校は「漁師になるための学校」に限らず、機械・電気・情報通信の実務スキルを養う場としても機能している。
Q5. 専攻科に進む場合、さらに何年かかる?
本科3年間+専攻科(海洋技術科)2年間の計5年間だ。専攻科修了後は国土交通省や海上保安庁、大手企業への就職実績があるほか、4年制大学の3年次への編入という道も開かれている。
Q6. 新しい実習船「愛知丸」はどんな船?
2025年5月30日に竣工した総トン数581トンの実習船で、常石三保造船(静岡市清水区)が建造した。海鳥レーダー・高速旋回レーダーなどの最新航海機器を搭載し、年間200日以上の乗船実習でカツオの一本釣りやドローン海洋観測、水中ロボットの運用などを行う計画だ。
Q7. 愛知以外の県出身でも入学できる?
県立高校のため愛知県内の中学校卒業生が基本的な受験資格を持つ。県外からの入学を検討している場合は、学校に直接問い合わせて最新の募集要項を確認することを推奨する。
水産高校シリーズ:他県の情報も参考に
水産高校を選ぶ際は、居住地や目指す仕事・地域の水産業の特性も重要な判断軸だ。他県の水産高校情報も参考にしてほしい。
関連記事: 水産業界の求人|正社員で働ける仕事の種類を徹底解説
まとめ:あさり日本一の海で、愛知の水産のプロになる
愛知県立三谷水産高等学校は、県内で唯一の水産専門高校でありながら、くるまえび・がざみ類・あさり類・あゆ養殖という4品目で生産量日本一を誇る愛知の水産業を支えてきた80年超の歴史校だ。
海洋科学科・情報通信科・海洋資源科・水産食品科の4学科6分野という、全国の水産高校の中でも幅広い学科構成に加え、2025年に竣工した新実習船「愛知丸」による最新の実習環境が強みだ。情報通信科という希少な学科を持つことで、漁業・水産加工だけでなくIT・通信、さらには地元の自動車産業まで、進路の幅が広いのもこの学校の特徴と言える。
偏差値37〜39という数字だけで判断するのはもったいない。大切なのは卒業後に「どんな仕事ができるか」だ。あさり日本一の海で、あるいはその先の陸上の産業で活躍したいなら、三谷水産高校はその選択肢の一つになる。
水産業のキャリアについてより広く知りたい方は、水産大学校の就職先と進路を解説もあわせてご覧いただきたい。
参考情報
- 愛知県立三谷水産高等学校 入試情報: https://miyasuisan-h.aichi-c.ed.jp/nyuushi/index.html
- 愛知県立三谷水産高等学校 Wikipedia: https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%84%9B%E7%9F%A5%E7%9C%8C%E7%AB%8B%E4%B8%89%E8%B0%B7%E6%B0%B4%E7%94%A3%E9%AB%98%E7%AD%89%E5%AD%A6%E6%A0%A1
- 愛知丸(練習船) Wikipedia: https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%84%9B%E7%9F%A5%E4%B8%B8_(%E7%B7%B4%E7%BF%92%E8%88%B9)
- 愛知県「県立三谷水産高等学校新実習船「愛知丸」の竣工について」(2025年): https://www.pref.aichi.jp/soshiki/kotogakko/2025aichimaru.html
- 愛知県「水産業の動き2024」(2022年データ): https://www.pref.aichi.jp/press-release/suisanngyounougoki2024.html
- みんなの高校情報「三谷水産高校(愛知県)の偏差値 2026年度最新版」: https://www.minkou.jp/hischool/school/deviation/149/
- はたらくネットあいち「水産高校 学校紹介」: https://ailabor.or.jp/junior/school04/entry-46568.html
- 水産・海洋高校缶詰瓶詰図鑑「愛知県立三谷水産高等学校」: https://canbin.suisan-shinkou.or.jp/25/
- 地域の入れ物「あさりの漁獲量の都道府県ランキング(令和5年)」(農林水産省「漁業・養殖業生産統計」に基づく集計): https://region-case.com/rank-r5-product-asari/


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