最終更新: 2026-09-23
増養殖とは、卵や稚魚を人の手で育てて自然の海に放流し、資源そのものを増やす「栽培漁業」と、出荷できる大きさになるまで人が育て続ける「養殖業」を合わせた総称だ。両者は水産資源を人の手で育てるという点で共通するが、育てた魚介類を自然に戻すかどうかで区別される。養殖業の基本については「養殖業とは?栽培漁業との違いと産出額データを解説」で詳しく解説しているため、この記事ではもう一方の柱である栽培漁業のしくみ、対象魚種、実施体制を中心に掘り下げる。
増養殖とは?栽培漁業と養殖業の位置づけ

| 用語 | 定義 | 育てた魚介類の扱い |
|---|---|---|
| 増養殖 | 栽培漁業と養殖業を合わせた総称。水産資源を人の手で増やす取り組み全体を指す | (栽培漁業・養殖業のいずれか、または両方) |
| 栽培漁業 | 水産動物の減耗が最も激しい卵から稚仔の時期を人の管理下で育て、天然の水域へ放流する取り組み | 放流し、自然の中で育ったものを漁獲する |
| 養殖業 | 卵・稚魚から出荷できる大きさになるまで、すべての期間を人が管理して育てる漁業 | 放流せず、出荷まで人が管理し続ける |
栽培漁業の定義について、公益社団法人全国豊かな海づくり推進協会は「水産動物の減耗が最も激しい卵から稚仔の時期を人間の管理下において種苗を生産し、これを天然の水域へ放流」する事業で、「水産資源の安定化と増大に資すること」を目的とすると説明している(全国豊かな海づくり推進協会「栽培漁業について」、2026年9月確認)。天然漁業・栽培漁業・養殖業の3つを並べて整理すると、次のようになる。
| 項目 | 天然漁業 | 栽培漁業 | 養殖業 |
|---|---|---|---|
| 人の関与 | 漁獲のみ | 卵〜稚魚期のみ育成し、その後放流 | 出荷まで一貫して育成 |
| 資源への影響 | 天然資源をそのまま利用 | 放流により資源を積極的に増やす | 天然資源への依存度が相対的に低い |
| 代表的な対象 | 沖合・遠洋の回遊魚など | ヒラメ、マダイ、アワビ類、ウニ類など | ブリ類、マダイ、クロマグロ、カキ類、ノリ類など |
この3区分は、水産庁や全国豊かな海づくり推進協会の公開資料をもとに編集部で独自に整理したものであり、水産関連の資格試験や進学準備で全体像を把握したい読者にも参考にしてほしい。
栽培漁業のしくみ|卵から放流までの流れ

栽培漁業は、産卵直後の水産動物の多くが捕食されて生存率が極めて低いことに着目し、一定の大きさになるまで人工的に育成してから放流することで資源を積極的に増やす取り組みだ(水産庁「令和2年度水産白書(4)資源を積極的に増やすための取組」、2026年9月確認)。おおまかな流れは次のとおりとなる。
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| 1. 種苗生産 | 各都道府県の栽培漁業センター等で親魚から採卵し、稚魚(種苗)を人工的に育てる |
| 2. 中間育成 | 放流に適した大きさになるまで、いけすや水槽でさらに育てる |
| 3. 放流 | 天然の水域へ稚魚を放流する |
| 4. 資源管理 | 漁獲サイズ制限などの資源管理とあわせて、放流した個体が育った資源を漁獲する |
広域を回遊する魚種の場合は、関係する道府県の行政・漁業協同組合(漁協)・栽培漁業関係法人、そして全国豊かな海づくり推進協会が連携して取り組む体制になっている(同協会「栽培漁業について」、2026年9月確認)。
栽培漁業の対象魚種と資源造成型栽培漁業

水産庁によると、全国で約70種を対象とした水産動物の種苗放流が、地域の実情や海域の特性を踏まえて実施されている(水産庁「令和2年度水産白書」、2026年9月確認)。主な対象種はヒラメ、マダイ、キジハタ、トラフグなどの魚類、クロアワビ・エゾアワビなどのアワビ類、ウニ類などだ。
放流実績の例として、水産庁が令和4年にまとめた資料によると、令和元年度の種苗放流実績はヒラメが約1,705万6千尾、マダイが約913万7千尾、アワビ類が約19万個となっている(水産庁「第7次栽培漁業基本方針の取組状況」令和4年2月、令和元年度実績、2026年9月確認)。この数値は令和元年度時点の実績であり、対象種・放流数は年度や地域の資源状況によって見直される点に注意してほしい。
近年は、放流した種苗をすべて漁獲するのではなく、親魚になったものの一部をあえて獲り残して次世代の再生産を確保する「資源造成型栽培漁業」という考え方も広がっている。ズワイガニの生息海域における保護育成礁・マウンド礁の整備や、内水面(河川・湖沼)でのアユ・ウナギの種苗放流と産卵場整備も、広い意味でこの資源造成の取り組みに含まれる(水産庁「令和2年度水産白書」、2026年9月確認)。
増養殖を支える種苗生産のデータ
栽培漁業と養殖業は、放流するか出荷まで育てるかという違いはあるものの、どちらも「種苗(卵・稚魚)を育てる」工程を土台にしている点が共通する。農林水産省「漁業産出額」統計によると、海面養殖業における種苗生産額(令和5年)は合計191億2,900万円で、魚種別ではぶり類が34億300万円、まだい類が33億4,200万円、ひらめが5億5,000万円、真珠母貝が5億7,800万円となっている(農林水産省「漁業産出額」統計、令和5年、2026年9月確認。出典詳細は本記事末尾の参考情報を参照)。栽培漁業の種苗生産と養殖業向けの種苗生産は実施主体や目的が異なるものの、いずれも「卵・稚魚を育てる技術」という共通基盤の上に成り立っている。
養殖業との違いをもう一度整理する
栽培漁業と養殖業の最大の違いは、育てた魚介類を自然界に戻すかどうかにある。栽培漁業は卵や稚魚という最も弱い時期だけ人工のいけすで守り、その後は自然の海に放流して育ったものを漁獲するのに対し、養殖業は出荷までのすべての期間を人が管理し続ける。養殖業の種類(海面養殖・陸上養殖・内水面養殖)や産出額データについては「養殖業とは?栽培漁業との違いと産出額データを解説」で詳しく解説しているので、あわせて確認してほしい。
増養殖に関わる仕事・キャリア
増養殖の分野で働く道は複数ある。都道府県の栽培漁業センターや全国豊かな海づくり推進協会のような栽培漁業関係法人での種苗生産・研究業務、養殖業者や養殖関連企業への就職、漁協職員として種苗放流事業に関わる働き方などだ。個別の道筋を知りたい方は、次の記事も参考にしてほしい。
増養殖に関するよくある質問
Q1: 増養殖と養殖はどう違いますか?
養殖は出荷まで人が育て続ける方法のみを指しますが、増養殖はそれに加えて、稚魚の時期だけ育てて自然に放流する栽培漁業も含めた総称です。資源を「増やす」栽培漁業と、育てて「出荷する」養殖業の両方を指す言葉として使われます。
Q2: 栽培漁業はどのくらいの魚種を対象にしていますか?
水産庁によると、全国で約70種を対象とした種苗放流が実施されています。主な対象種はヒラメ、マダイ、キジハタ、トラフグなどの魚類やアワビ類・ウニ類などです(令和2年度水産白書時点)。
Q3: 栽培漁業は誰が実施していますか?
各都道府県の栽培漁業センター等が種苗生産と中間育成を担い、放流と資源管理は漁業協同組合が中心になります。広域を回遊する魚種では、関係道府県の行政・漁協・栽培漁業関係法人と全国豊かな海づくり推進協会が連携して取り組みます。
関連記事: スマート養殖とは?IoT・AI・ゲノム編集の最新技術5選
まとめ:増養殖は「増やす」栽培漁業と「育てる」養殖業の総称
- 増養殖は、稚魚を放流して資源を増やす栽培漁業と、出荷まで育てる養殖業を合わせた総称
- 栽培漁業は全国で約70種を対象に、都道府県の栽培漁業センターと漁協、全国豊かな海づくり推進協会が連携して実施
- 近年は放流した個体の一部を獲り残して次世代の再生産を確保する「資源造成型栽培漁業」の考え方も広がっている
- 海面養殖業の種苗生産額は令和5年で合計191億2,900万円と、増養殖を支える基盤になっている
- 養殖業単体の種類・産出額・キャリアについては既存の関連記事もあわせて確認するとよい
水産の資源管理や養殖業への就業に関心がある方は「養殖業とは?栽培漁業との違いと産出額データを解説」もあわせてご覧いただきたい。
参考情報
- 公益社団法人全国豊かな海づくり推進協会「栽培漁業について」(2026年9月確認) https://www.yutakanaumi.jp/saibai/
- 水産庁「令和2年度水産白書(4)資源を積極的に増やすための取組」(2026年9月確認) https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/r02_h/trend/1/t1_3_4.html
- 水産庁「栽培漁業の現状(第7次栽培漁業基本方針の取組状況)」令和4年2月、令和元年度実績(2026年9月確認) https://www.jfa.maff.go.jp/j/council/seisaku/kikaku/attach/pdf/220204-9.pdf
- 農林水産省「栽培(さいばい)漁業と養殖業(ようしょくぎょう)の違いを教えてください」(2026年9月確認) https://www.maff.go.jp/j/heya/kodomo_sodan/0306/04.html
- e-Stat(政府統計の総合窓口)「漁業産出額 主要魚種別の海面養殖業産出額」統計表ID: 0002001226(令和5年、2026年9月確認) https://www.e-stat.go.jp/
この記事は水産ナビ編集部が執筆しました。水産ナビは水産・漁業に特化した専門メディアです。
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