海藻養殖とは、のり・わかめ・こんぶなどの海藻を人の手で育成し収穫する養殖のことだ。日本の漁業生産額のうち海藻養殖・採藻業が占める割合は約1割にのぼり、魚類養殖と並ぶ重要な分野だが、一般にはその仕組みがあまり知られていない。2026年8月には、宮城県南三陸町で希少な海藻「マツモ」「タオヤギソウ」を陸上の施設で養殖する取り組みが始まり、国内初の取り組みとして報じられた。本記事では、海藻養殖の基本的な分類・方式と、最新の陸上養殖の事例、国の統計データをあわせて解説する。
海藻養殖とは?基本の仕組みと主な種類

海藻は色素の違いによって緑藻・褐藻・紅藻の3つに大きく分類される。食用として養殖される海藻は、こんぶに代表される褐藻類が中心で、全体では食用にされる海藻が約50種程度あるとされる(日本藻類学会関連資料、2026年確認)。代表的な養殖対象は次のとおりだ。
| 海藻 | 分類 | 主な産地 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| のり | 紅藻 | 有明海沿岸、瀬戸内海、三陸など | 板のり、佃煮など |
| わかめ | 褐藻 | 三陸、鳴門など | 生わかめ、乾燥わかめ |
| こんぶ | 褐藻 | 北海道が中心 | だし昆布、加工品 |
| ひじき | 褐藻 | 三重・千葉など | 乾燥ひじき |
水産庁の資料によると、海藻養殖(藻類養殖)は種苗(たね)の確保から育成、収穫までを人の手で管理する点が特徴で、天然の海藻を採る「採藻業」とは区別される(水産庁「養殖業事業性評価ガイドライン~藻類養殖~」、2026年確認)。
海藻養殖の方式:海面養殖と陸上養殖

海藻養殖の方式は大きく「海面養殖」と「陸上養殖」の2つに分けられる。
海面養殖方式
海面養殖は、海そのものを使って海藻を育てる従来からの方法だ。方式は対象や地域によって異なる。
| 方式 | 特徴 | 主な対象・産地 |
|---|---|---|
| 支柱式 | 海底に支柱を立て、網を張って養殖する | のり(有明海沿岸など) |
| 浮き流し式 | 海面に浮かせた網・ロープに種苗を付けて育てる | のり(広い海域) |
| 中層延縄(はえ縄)式 | ロープを海中に張り、種苗を付けて垂らして育てる | こんぶ、わかめ |
陸上養殖方式
陸上養殖は、海から離れた陸上の施設で、海水を引き込んだタンクなどを使って育てる方法だ。海洋深層水を使ったタンク養殖のように、清浄で低温・富栄養な水を安定して使える点がメリットとされる(化学と生物誌「陸で海藻を育てる」、2026年確認)。海況や天候に左右されず、都市部や内陸でも生産できる可能性がある一方、設備投資や水質管理のコストがかかる。
最新事例:宮城県南三陸町の希少海藻の陸上養殖

陸上養殖の最新事例として、2026年8月に宮城県南三陸町で始まった取り組みがある。海藻専門店「SEASON」を運営する株式会社阿部伊組が、同町歌津地区に陸上養殖施設を稼働させた。対象は、三陸地方で古くから食べられてきた希少な海藻「マツモ」と、全国に自生するが養殖例が少ない「タオヤギソウ」の2種だ(フードウイークリーWEB、2026年確認)。
マツモはかつて年間300キログラム程度の採取量があったが、近年は数十キログラムまで激減していた品目だという。施設では、マツモ(12月〜3月収穫)とタオヤギソウ(5月〜11月収穫)を組み合わせることで、年間を通じた二毛作的な生産を目指している。技術面では「半閉鎖循環式」という方式を採用し、伊里前湾から汲み上げた海水を浄化装置でタンク内に循環させながら、一部のみを海に戻すことで、水質を一定に保ちながら排水量を減らす設計になっている。この取り組みは大学・企業との協力のもと6年の研究・開発を経て実現した(フードウイークリーWEB、2026年確認)。
このように、特定の海藻の減少を陸上養殖という技術で補う動きは、スマート養殖で紹介した閉鎖循環式陸上養殖(RAS)の考え方と共通する部分がある。スマート養殖の記事では主に魚類を対象とした技術を紹介したが、海藻の陸上養殖も同じ「海況に左右されない安定生産」という方向性を持つ取り組みといえる。
のり類の生産データ(国の統計)

海藻養殖の規模を示すデータとして、農林水産省の海面漁業生産統計調査(令和3年確報)には、都道府県別のり類収獲量のデータがある。全国の板のり生産量(暦年1〜12月、くろのり・まぜのり・あおのりなど製品形態別の合計)は約61億9,000万枚にのぼり、宮城県だけでも約3億4,500万枚(暦年)を生産している(農林水産省「海面漁業生産統計調査」令和3年確報、2026年確認)。この数値は令和3年(2021年)の確報値であり、最新年の実績とは異なる点に注意してほしい。
北海道立総合研究機構の資料では、2020年の国内海藻養殖業・採藻業の生産額は約1,488億円で、日本の漁業生産額全体の約10パーセントを占めると紹介されている(北海道立総合研究機構だより、2026年確認)。魚類養殖に比べると注目されにくい分野だが、食文化を支える一定規模の産業であることがうかがえる。
海藻養殖が抱える課題

海藻養殖は、海面養殖でも陸上養殖でも、安定した水温・水質の確保が課題になる。赤潮と養殖業への被害で解説したように、養殖業全体が海洋環境の変化による被害を受けやすくなっている。海藻養殖でも、秋の高水温によってのりの生産開始が遅れたり収穫量が減少したりする影響が報告されている。南三陸町の陸上養殖のように、環境変化の影響を受けにくい生産方式を模索する動きは、こうした課題への一つの対応と位置づけられる。
養殖業全体の基本的な仕組みや、天然資源を育てて放流する栽培漁業との違いについては、養殖業とは?栽培漁業との違いと産出額データを解説で詳しく解説している。
まとめ
海藻養殖は、のり・わかめ・こんぶなどを海面や陸上の施設で育成する養殖方法で、日本の漁業生産額の約1割を占める分野だ。従来の海面養殖に加えて、宮城県南三陸町の希少海藻の陸上養殖のように、海況に左右されない生産方式を模索する動きが始まっている。海水温の上昇という共通の課題がある中で、海藻養殖の技術も今後変化していく可能性がある。
水産業界の最新統計は水産ナビのデータハブにまとめている。養殖業全体の基本については養殖業とは?栽培漁業との違いと産出額データを解説、先端技術についてはスマート養殖とは?IoT・AI・ゲノム編集の最新技術5選もあわせて参考にしてほしい。
参考情報
- 水産庁「養殖業事業性評価ガイドライン~藻類養殖~」令和3年(確認日2026年10月7日):https://www.jfa.maff.go.jp/j/saibai/yousyoku/attach/pdf/jigyoseihyoka-23.pdf
- 化学と生物「陸で海藻を育てる」日本農芸化学会(確認日2026年10月7日):https://katosei.jsbba.or.jp/view_html.php?aid=1732
- フードウイークリーWEB「『マツモ』『タオヤギソウ』の陸上養殖でクラファン/SEASON」(確認日2026年10月7日):https://f-weeklyweb.com/topics20260915-4/
- PR TIMES「海藻専門店SEASON|希少海藻『マツモ』『タオヤギソウ』の陸上養殖を通じ、海藻を楽しむ仲間を増やすクラウドファンディングを開始」(確認日2026年10月7日):https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000010.000071236.html
- 北海道立総合研究機構だより第1062号「海藻養殖業の生産額に関する資料」(確認日2026年10月7日):https://www.hro.or.jp/upload/41452/dayori1062_kaisou.pdf
- 農林水産省「海面漁業生産統計調査」確報 令和3年漁業・養殖業生産統計(e-Stat、確認日2026年10月7日):https://www.e-stat.go.jp/


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