赤潮とは?養殖業への被害と対策・予兆検知の最新動向

赤潮とは?養殖業への被害と対策・予兆検知の最新動向 養殖

最終更新: 2026-10-03

赤潮とは、海水中の植物プランクトンが異常に増殖し、海の色が赤褐色などに変わる現象のことです(東京都環境局、2026年9月時点の解説)。養殖業にとっては、増殖したプランクトンが魚のえらを傷つけたり海中の酸素を奪ったりすることで、魚介類が短期間に大量死する深刻なリスクとなります。2026年7月には熊本県天草市など3市町で、八代海の赤潮によって出荷前のカンパチ・ブリなど約38万6,000匹が死亡し、被害額は10億8,000万円以上に達したと報じられました(日本経済新聞、2026年7月2日時点の報道)。この記事では、赤潮が発生する原因、養殖現場で実際に行われている緊急対応、水産庁や大学が進める予兆検知の最新研究、そして被害に備える共済制度までを一次資料に基づいて解説します。

赤潮とは?発生の仕組みと原因

項目 内容
定義 海水中のプランクトン(主に植物プランクトン)が異常増殖し、海水の色が変化する現象
主な原因 水温上昇、窒素・リンによる富栄養化、海水の流動性低下などが複合的に関与(発生機構自体は完全には解明されていない)
発生しやすい時期 気温が上昇し日照時間が長くなる春から夏
発生しやすい海域 瀬戸内海・八代海・大村湾など、水の出入りが少ない閉鎖性海域

水産庁の令和6年度水産白書によると、我が国近海の平均海面水温は過去およそ100年間で約1.33℃上昇しており、令和6(2024)年は統計開始以降最も高い値を記録しました(水産庁「令和6年度水産白書」2024年時点のデータ)。水温の上昇は赤潮を含む海洋環境の変化要因の一つとされ、近年は過去には見られなかった種類のプランクトンによる赤潮も報告されています。

養殖業そのものの基本的な仕組みについては、養殖業とは?栽培漁業との違いと産出額データを解説で詳しく解説しています。

赤潮による養殖被害の実態:経済規模から見るリスク

発生年 主な被害海域 被害を受けた主な魚種 被害額
令和4(2022)年 八代海 – 約20億円(熊本県・鹿児島県)
令和5(2023)年 八代海・橘湾 – 約27億円(長崎県・熊本県・鹿児島県)
令和6(2024)年5〜8月 八代海・橘湾 カンパチ・シマアジ・ブリ・トラフグ等 約31.3億円(長崎・熊本・鹿児島、2025年3月末時点)
2026年7月 八代海(熊本県天草市等) カンパチ・ブリ等 10億8,000万円以上(熊本県分、熊本県発表)

出典: 水産庁「令和6年度水産白書」トピックス3(各県調べ、令和7年3月末時点)、日本経済新聞(2026年7月2日時点の報道)

赤潮の被害が大きいのは、魚類だけでなく貝類・海藻類の養殖にも及ぶためです。農林水産省「漁業産出額」(令和2年漁業産出額、2023年2月確報公開)によると、海面養殖業の産出額は全国で4,357億円に達し、このうちぶり類が1,065億円、まだい類が443億円、かき類が324億円、のり類が1,043億円を占めています。赤潮による大量死は、こうした地域経済を支える産業の売上をまとめて失わせるリスクになります。

ブリなど魚類養殖のコスト構造についてはブリ養殖の費用はどれくらい?、カキなど貝類養殖の工程はカキ養殖の方法、のり養殖の特徴は海苔養殖とはで、それぞれ詳しく解説しています。

赤潮が起きたとき、養殖の現場では何をするのか

赤潮が発生または接近した際、養殖現場では主に次の2つの緊急対応が行われます(環境行政の解説資料、2026年時点の整理)。

対応 内容
餌止め(耐える) プランクトンの増殖要因となる海水中の栄養塩を増やさないよう、一時的に餌の投与を止める
いけすの移動(逃げる) 生け簀を鉛直方向(深い層)または水平方向(別の海域)に移動させ、プランクトン濃度の高い水域から魚を遠ざける

これに加え、水産庁は高濃度酸素を用いてブリ類を救命する手法の開発にも取り組んでおり、酸欠状態になった魚に酸素を供給して被害を抑える技術が研究されています(水産庁「令和6年度水産白書」トピックス3)。長期的な備えとしては、適正な放養密度を守ることや、海底の栄養物質・汚染物質を取り除く浚渫・海底耕耘といった漁場環境の改善も、赤潮の発生リスクを下げる取り組みとして位置づけられています。

漁師転職を考える方にとって気になるのは、こうした緊急対応の判断を誰が行うのかという点です。餌止めやいけすの移動は、養殖業者自身が自治体や研究機関が発信する水質・プランクトン情報を日常的に確認しながら判断するのが基本で、海水の色や魚の食欲・遊泳行動のわずかな変化を見逃さない地道な観察の積み重ねが欠かせません。海洋環境をリアルタイムに把握する技術の一つであるウミトロン「UMITRON PULSE」は、こうした赤潮リスクの早期察知にも使われています。詳しくはスマート養殖とは?IoT・AI・ゲノム編集の最新技術5選で解説しているとおり、スマート養殖の広がりとともに、経験や観察に頼っていた判断の一部をセンサーやアプリが補助する動きも広がっています。

赤潮の予兆をどう察知するか:モニタリングと最新研究

水産庁は、九州及び瀬戸内海の水産関係機関が収集した水質データや赤潮プランクトンの分布情報を「赤潮ネット」として取りまとめ、関係者に提供しています(水産庁、2026年時点の取り組み)。あわせて、赤潮発生のモニタリング技術の開発・実証や、発生メカニズムの解明による予察手法の開発にも継続的に取り組んでいます(水産庁「令和6年度水産白書」トピックス3)。

民間・大学の取り組みとしては、2024年10月に国立大学法人九州大学と双日株式会社が、長崎県・佐賀県にまたがる伊万里湾を対象に、内湾・沿岸域の海況を高度に再現する技術を初めて活用した赤潮予測アプリの実証を開始しました。九州大学が開発した高解像度の海域再現モデル「UCHI」を使い、有害プランクトン「カレニア・ミキモトイ」による赤潮の発生・挙動を最大1週間先まで予測できるとしています(双日株式会社、2024年10月7日発表)。これに先立つ2022年11月には、鹿児島県の八代海を対象に、衛星データプラットフォーム「Tellus」を使った赤潮AI予報アプリの実証実験も行われています(双日株式会社、2022年11月11日発表)。

海外の研究では、2026年4月に広島大学・水産研究・教育機構などの国際共同研究グループが、チリ・パタゴニア地域の有害藻類ブルームを対象に、海流シミュレーション・AI(LSTM)・長期データ分析を組み合わせた予測手法を開発したと発表しました(広島大学、2026年4月7日発表)。チリ沿岸向けに開発されたモデルで日本の海域への直接適用はまだ示されていませんが、水産研究・教育機構が参加していることもあり、同様の手法が国内の赤潮予察技術にも応用されていく可能性がある分野です。

赤潮被害への備え:養殖共済(赤潮特約)という選択肢

養殖業者にとって、どれだけ対策を講じても赤潮による被害を完全に避けることは難しいのが実情です。こうした経営リスクに備える制度として、漁業共済組合・全国漁業共済組合連合会が運営する養殖共済があります。養殖中の生物が死亡・流失等で受けた損害を補償する仕組みで、赤潮による被害に備える「赤潮特約」も用意されており、長期継続申込特約を結ぶことで純共済掛金が割引される仕組みもあります(全国漁業共済組合連合会「養殖共済」パンフレット、2019年時点の資料)。共済金は、漁業共済組合が基準に基づき調査認定した実損害額に対して、契約内容に応じて支払われます。

赤潮に関するよくある質問

Q1: 赤潮が起きた海域の魚や貝は食べても安全ですか?

魚類養殖で問題になる赤潮の多くは、プランクトンが魚のえらを傷つけたり酸素を奪ったりすることで魚を大量死させるタイプで、これは人の健康への直接的な影響とは別の問題です。一方、カキやホタテなど二枚貝は、有毒なプランクトンを食べることで体内に毒素を蓄積し、麻痺性貝毒・下痢性貝毒などを引き起こす場合があります。家庭での加熱調理では毒性がなくならないとされ、こうした貝毒は自治体が貝の毒性を検査し、基準を超えた場合は出荷規制を行う仕組みで管理されています。気になる場合は、産地の自治体や漁協が発表する検査結果・出荷規制情報を確認するのが確実です。

Q2: 赤潮はどのくらいの頻度で発生していますか?

発生自体は瀬戸内海や八代海など閉鎖性海域で毎年のように見られますが、養殖業に深刻な被害を与えるレベルの発生は年によって規模が大きく異なります。水産庁「令和6年度水産白書」によると、令和4(2022)年は約20億円、令和5(2023)年は約27億円、令和6(2024)年5〜8月は約31.3億円の漁業被害が記録されており、2026年7月にも熊本県で新たな被害が発生しています。年ごとの発生状況は、水産庁や各都道府県の水産関連機関が随時公表しています。

関連記事: 海藻養殖とは?のり・わかめ・こんぶの仕組みと陸上養殖の最新事例

まとめ:赤潮とは・養殖業への対策のポイント

  • 赤潮とは、植物プランクトンの異常増殖で海水の色が変わる現象で、水温上昇や富栄養化などが複合的な原因とされる
  • 八代海・橘湾など閉鎖性海域の養殖現場では近年も毎年20億円超の漁業被害が記録されており、2026年7月にも熊本県で新たな被害が発生した
  • 現場での緊急対応は「餌止め」と「いけすの移動」が基本で、水産庁は高濃度酸素による救命技術の開発も進めている
  • 九州大学・双日による伊万里湾の赤潮予測アプリなど、予兆を事前に察知する技術開発も進んでいる
  • 経営リスクに備える手段として、養殖共済の赤潮特約という選択肢もある

赤潮のような環境リスクと隣り合わせの養殖業界で、実際にどのくらいの収入が見込めるのか気になる方は、水産養殖業の年収はどれくらい?もあわせてご覧ください。

参考情報

  • 東京都環境局「赤潮とは?」 https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/water/tokyo_bay/red_tide/about
  • 水産庁「トピックス3 赤潮による被害の継続」(令和6年度水産白書) https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/r06_h/trend/1/t1_t_3.html
  • 水産庁「(1)我が国近海等での海洋環境の変化」(令和6年度水産白書) https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/r06_h/trend/1/t1_f_1_1.html
  • 水産庁「赤潮・貧酸素水塊による漁業被害の軽減に向けた研究」 https://www.jfa.maff.go.jp/j/sigen/230616.html
  • 日本経済新聞「熊本・鹿児島で養殖魚危機 『異例』赤潮、カンパチやブリ70万匹死ぬ」(2026年7月2日時点) https://www.nikkei.com/article/DGXZQOJC281XP0Y6A620C2000000/
  • kankyoiji.jp「<第4回>有害赤潮の対策について」 https://kankyoiji.jp/%EF%BC%9C%E7%AC%AC4%E5%9B%9E%EF%BC%9E-%E6%9C%89%E5%AE%B3%E8%B5%A4%E6%BD%AE%E3%81%AE%E5%AF%BE%E7%AD%96%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6-1/
  • 双日株式会社「内湾・沿岸域の海況を高度に再現する技術を初めて活用した赤潮予測アプリの実証を伊万里湾にて開始」(2024年10月7日) https://www.sojitz.com/jp/news/article/topics-20241007.html
  • 双日株式会社「衛星データプラットフォーム『Tellus』を活用した赤潮AI予報の実証を開始」(2022年11月11日) https://www.sojitz.com/jp/news/article/topics-20221111-03.html
  • 広島大学「チリの漁業に甚大な被害をもたらす赤潮発生を予測」(2026年4月7日) https://www.hiroshima-u.ac.jp/news/96914
  • 全国漁業共済組合連合会「養殖共済 災害に備え、養殖業の経営安定に」(2019年版) https://www.gyosai.or.jp/panphlet_pdf/yousyoku.pdf
  • 農林水産省「漁業産出額」(令和2年漁業産出額、2023年2月確報公開、e-Stat掲載データ) https://www.e-stat.go.jp/

この記事は水産ナビ編集部が執筆しました。水産ナビは水産・漁業に特化した専門メディアです。

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