最終更新: 2026-09-22
「漁師は魚を獲って稼ぐ仕事」というイメージだけでは見えてこないコストがある。それが燃料代だ。漁船は港を出た瞬間からエンジンを回し続け、燃料タンクの残量が減るたびに経費が積み上がっていく。しかも魚価と違って燃料価格は漁師の努力ではコントロールできない。この記事では、漁師の燃料代がどれくらいの負担になっているのか、なぜここまで高いのか、そして高騰時に使える公的制度や現場の対策までを、水産庁の公表資料や実際の価格データをもとに解説する。
漁師の燃料代は経費のどれくらいを占めるのか

水産庁「令和6年度水産白書」によると、油費(燃料費)が漁労支出(漁業のための経費全体)に占める割合は、直近5か年の平均で、沿岸漁船漁業を営む個人経営体および漁船漁業を営む会社経営体で約16パーセントに上る(水産庁「令和6年度水産白書」、2026年9月22日確認)。
漁労支出には人件費(雇用労賃)、漁船・漁具の修繕費、販売手数料なども含まれるが、その中で燃料費は人件費と並ぶ大きな固定的支出の一つになる。人件費は乗組員数を調整すればある程度コントロールできるが、燃料費は操業を続ける限り必ず発生し、しかも単価は漁師自身がコントロールできない。ここが燃料代の厄介なところで、経費全体を100とした場合に16前後を占める支出が、価格変動によって短期間で膨らむと、その分がそのまま漁業所得(手取り)を圧迫する構造になっている。
同白書は水産庁が公表する一次資料であり、経営体の平均値であるため、漁法や操業海域によって実際の割合には幅がある。特に長距離を航行する遠洋・近海の漁船漁業では、この平均値よりも燃料費の比重が高くなる傾向がある。
なぜ漁師の燃料代はこんなに高いのか

エンジンを止められない仕事だから
漁船は移動だけでなく、漁労機械(巻き上げ機、集魚灯、冷凍・冷蔵設備など)の動力源としても燃料を使う。特に一本釣りや延縄漁のように長時間の航行と漁場での滞在を伴う漁法、イカ釣り漁業のように集魚灯を長時間点灯し続ける漁法では、燃料消費量が大きくなりやすい。
燃料価格そのものが高値・不安定である
同じく水産庁「令和6年度水産白書」は、燃油価格について「新興国における需要の拡大、産油国合意に基づく産出量の増減、為替相場の変動等様々な要因により大きく変動する中、高値水準で、かつ、不安定な動きを見せている」と説明している(水産庁「令和6年度水産白書」、2026年9月22日確認)。
実際の価格動向として、日本経済新聞の報道によると、内航船向けA重油(漁船を含む内航海運で広く使われる燃料油)の2026年4〜6月期の価格は1キロリットルあたり15万7,700円で決定し、1〜3月期と比べて4万4,800円(約40パーセント)高くなった。これは遡れる2014年以降で最高値だという(日本経済新聞、2026年7月時点の報道、2026年9月22日確認)。円安や原油相場の変動がそのまま漁船の燃料コストに跳ね返る構図が続いている。
燃料代が高騰したときに使える公的な対策

燃料価格の急騰は漁師個人の努力ではどうにもならない部分が大きいため、国は漁業者と共同でリスクに備える仕組みを用意している。それが水産庁が所管する「漁業経営セーフティーネット構築事業」だ。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 仕組み | 漁業者・養殖業者と国が1対1の負担割合で資金を積み立てる |
| 発動条件 | 原油価格が一定の基準を超えて上昇した場合に、積立金から漁業者へ補塡金を交付 |
| 加入期間 | 原則3年間(その後も継続可能) |
| 実施主体 | 一般社団法人漁業経営安定化推進協会 |
| 所管 | 水産庁 |
(出典: 水産庁「漁業経営セーフティーネット構築事業」、一般社団法人漁業経営安定化推進協会、2026年9月22日確認)
この制度のポイントは、漁業者自身も積立金を拠出する「共助」の仕組みである点だ。あらかじめ一定額を積み立てておく必要があるため、燃料価格が落ち着いている時期から加入を検討しておくことが実質的な備えになる。制度の詳細な発動基準や申込方法は、水産庁または漁業経営安定化推進協会、加入している漁業協同組合に確認するのが確実だ。
なお、独立して漁師になる際の資金計画全般については「漁師として独立するには?必要な資金と5つのステップを解説」でも、燃油価格変動リスクへの備えとしてこの制度に触れている。あわせて確認しておくとよい。
燃料代を抑えるための現場の工夫

補助制度が「価格が上がったときの備え」だとすれば、燃料の消費量そのものを減らす取り組みは「日々のコストを下げる」対策になる。その代表例が漁灯(集魚灯)のLED化だ。
国立研究開発法人水産研究・教育機構によると、イカ釣り漁業では集魚灯を点灯するための電力が燃料使用量全体のおよそ5割を占めるとされ、燃油依存度が他の漁法と比べても際立って高い(水産研究・教育機構「イカ釣り漁業における省エネルギー化について」、2026年9月22日確認)。従来主流だったメタルハライド灯に比べ、LED漁灯は同じ明るさを保ちながら消費電力を抑えられるとされており、水産研究・教育機構が公開する「イカ釣りLED漁灯活用ガイド」でも省エネルギー化の手法として位置づけられている。ただし削減効果の数値は導入条件によって幅があるため、正確な数値は同ガイドを直接確認してほしい。
集魚灯以外にも、船底塗料を高性能なものに替えて水の抵抗を減らす、老朽化したエンジンを燃費効率の良いものに換装するといった対策が、燃料コスト削減の選択肢として知られている。こうした設備投資には初期費用がかかるため、水産庁や自治体が実施する省エネルギー機器導入の支援事業の活用を、漁協や普及指導員に相談してみる価値がある。
燃料代の負担は、実は「魚が獲れない年」ほど重くなる

見落とされがちだが、燃料代の負担感は漁獲量が悪い年ほど強まる。エンジンを動かして漁場まで往復する以上、燃料は魚が獲れても獲れなくても同じだけ消費される。つまり不漁の年は、燃料費という固定的な支出を、少ない水揚げ金額で賄わなければならなくなる。近年は資源変動や海洋環境の変化によって漁獲量が不安定な魚種も増えており、燃料費というコスト構造を理解しておくことは、これから漁師を目指す人にとっても経営リスクを見積もる材料になる。
漁師という仕事の収入全体のイメージをつかみたい方は「漁師の年収は本当に低いのか?」も参考にしてほしい。燃料代のような変動費が収入にどう影響しうるかが、より具体的にイメージできるはずだ。
漁師の燃料代に関するよくある質問
Q1: 漁師の燃料代は経費の何パーセントくらいですか?
水産庁「令和6年度水産白書」によると、油費が漁労支出に占める割合は、直近5か年の平均で沿岸漁船漁業を営む個人経営体・会社経営体ともに約16パーセントです。漁法や操業海域によって実際の割合には幅があります。
Q2: 燃料代が高騰したときに使える国の制度はありますか?
水産庁が所管する「漁業経営セーフティーネット構築事業」があります。漁業者と国が1対1の負担割合で資金を積み立て、原油価格が一定の基準を超えて上昇した場合に補塡金が交付される仕組みです。加入期間は原則3年間です。
Q3: 燃料代を減らすためにできる対策はありますか?
集魚灯のLED化、船底塗料の高性能化、エンジンの換装などが省燃費対策として知られています。特にイカ釣り漁業は集魚灯の電力が燃料使用量の約5割を占めるとされ、LED化による省エネルギー化が有効な選択肢として位置づけられています。
Q4: 燃料代は漁師の手取りにどう影響しますか?
燃料は漁獲量にかかわらず一定量消費されるため、不漁の年ほど水揚げ金額に対する燃料費の負担割合が重くなります。人件費のように短期間で調整しにくいコストであるため、価格高騰時はそのまま漁業所得(手取り)を圧迫しやすい構造があります。
関連記事: 不漁の原因は海水温?近海で魚が獲れなくなった理由を解説
まとめ:漁師の燃料代は「避けられない固定費」として備える
- 燃料費は漁労支出の約16パーセントを占め、人件費と並ぶ大きな固定的コストである(水産庁「令和6年度水産白書」)
- 燃料価格自体が国際情勢や為替の影響を受けやすく、2026年4〜6月期の内航船向けA重油価格は2014年以降で最高値をつけた
- 価格高騰への備えとして、水産庁所管の「漁業経営セーフティーネット構築事業」がある
- 消費量そのものを減らす対策として、集魚灯のLED化など省燃費への取り組みが進んでいる
- 燃料代は漁獲量にかかわらず発生するため、不漁の年ほど負担が重くなる点を理解しておく必要がある
これから漁師を目指す方は、燃料代のような固定的コストも含めた収支のイメージを持っておくと、独立や就業後のギャップを減らせる。独立資金の全体像を知りたい方は「漁師として独立するには?必要な資金と5つのステップを解説」もあわせて確認してほしい。
参考情報
- 水産庁「令和6年度水産白書(2)漁業・養殖業の経営の動向」(2026年9月22日確認) https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/r06_h/trend/1/t1_2_2.html
- 日本経済新聞「内航船向けのA重油は4割高決着」(2026年7月時点の報道、2026年9月22日確認) https://www.nikkei.com/article/DGKKZO97458150Z00C26A7QM8000/
- 水産庁「漁業経営セーフティーネット構築事業」(2026年9月22日確認) https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/net/index.html
- 一般社団法人漁業経営安定化推進協会「業務情報|セーフティーネット構築事業」(2026年9月22日確認) https://www.gyoankyo.or.jp/safetynet/information
- 国立研究開発法人水産研究・教育機構「イカ釣り漁業における省エネルギー化について(イカ釣りLED漁灯活用ガイド)」(2026年9月22日確認) https://www.fra.go.jp/gijutsu/project/fishries_engineering/ikaturiguide_saving_energy.html
この記事は水産ナビ編集部が執筆しました。水産ナビは水産・漁業に特化した専門メディアです。
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