最終更新: 2026-09-22
「漁師として海に出ているが、漁獲量が年々減っている」「同じ水産業界なら、天候や資源に左右されにくい養殖業に移った方がいいのではないか」。沿岸漁業に携わる人からこうした声が出るのは、決して珍しいことではありません。日本の漁業生産量は1984年の1,282万トンをピークに減少を続け、2023年には378万トンと過去最低を記録しました(サストモ「沖合でブリ、陸上でサーモンを”生産” 魚が減るなか広がり出した養殖」2026年9月確認)。資源が細る中で、天候や漁獲量に左右されにくい養殖業に活路を見いだす動きが業界内で広がっています。
この記事では、漁師と養殖業スタッフの仕事内容の違い、なぜ今この転身が注目されているのかという業界トレンド、必要になるスキルや資格の違い、収入面で考えておくべきポイント、そして実際に求人をどう探せばよいかを、綺麗事抜きで整理します。すでに漁師として働いていて養殖業への転身を検討している方はもちろん、「漁師と養殖業はそもそも何が違うのか」を知りたい方にも役立つ内容です。
漁師と養殖業スタッフは何が違うのか

漁師と養殖業スタッフは、同じ「魚介類に関わる仕事」でも働き方の前提がまったく異なります。まずは基本的な違いを整理します。
| 項目 | 漁師(漁船漁業) | 養殖業スタッフ |
|---|---|---|
| 仕事の基本 | 天然の魚介類を獲る | 稚魚・稚貝を育てて出荷する |
| 収入を左右する要因 | 漁獲量(自然任せの部分が大きい) | 生育管理の巧拙(コントロールできる部分が大きい) |
| 主な作業場所 | 漁船上(沿岸・沖合・遠洋) | 生け簀・養殖いかだ、または陸上の水槽施設 |
| 勤務の規則性 | 天候・潮回り・漁期に大きく左右される | 給餌・水質管理など毎日のルーティンが中心。天候の影響は漁師より小さい |
| 必要な視点 | 海況判断、漁法の技術、瞬発的な体力 | 水質・栄養管理、成長のモニタリング、計画的な生産管理 |
養殖業の中でも、海の生け簀で育てる「海面養殖」と、陸上の水槽で人工的に水を管理しながら育てる「陸上養殖」では、必要な設備も働き方も変わります。特に陸上養殖は、天然の水域を使わないため漁業権の取得が不要で、異業種からの参入も相次いでいる分野です(JBpress「広がる『陸上養殖』、サーモン/マスは約80ブランドも!漁業権不要で異業種参入が相次ぐ」2026年9月確認)。漁師から養殖業へ移る場合、海面養殖であれば漁師時代の「海での勘」がある程度活き、陸上養殖であれば工場的な生産管理の要素がより強くなると考えておくとイメージしやすいでしょう。
養殖業そのものの定義や、天然魚との違いをまだ整理できていない方は、養殖業とは?栽培漁業との違いと産出額データを解説、養殖魚と天然魚の違いを徹底比較|味・栄養・安全性・価格を業界視点で解説もあわせて確認してください。
なぜ今「漁師から養殖業へ」の転身が注目されているのか

この転身が話題になる背景には、業界全体を覆う構造的な変化があります。
第一に、天然資源そのものが減っていることです。日本の漁業生産量は1984年の1,282万トンをピークに減少に転じ、2023年には378万トンと過去最低を記録しています。マイワシは1988年の449万トンから2005年には3万トンへ、サンマも2008年の34万トンから2020年代は2万〜3万トンの不漁が続くなど、魚種によっては数十年で漁獲量が一桁減るほどの落ち込みを見せています(サストモ「沖合でブリ、陸上でサーモンを”生産” 魚が減るなか広がり出した養殖」2026年9月確認)。
第二に、こうした状況を受けて、国も養殖業を戦略的に位置づけています。水産庁は、水産資源の漁獲が不安定な中で「計画的で安定的に生産できる養殖に対する期待は高く」としており、2020年には「養殖業成長産業化総合戦略」を策定しました(水産庁「令和6年度水産白書」2026年9月確認)。
第三に、実際に養殖ビジネスへの投資や事業転換が進んでいます。宮崎県の黒瀬水産は年間約200万尾のブリを出荷し、鹿児島県のグローバル・オーシャン・ワークスも年間80万尾のブリを加工・出荷して2023年に292億円を売り上げるなど、養殖を軸に成長する企業が現れています。陸上養殖の分野でも、千葉県のFRDジャパンが年間約35トンのサーモンを安定供給し、新施設稼働後は年間最大3,500トンまで拡大する計画を打ち出しています(サストモ「沖合でブリ、陸上でサーモンを”生産” 魚が減るなか広がり出した養殖」2026年9月確認)。国内の閉鎖循環式(水を再利用するタイプ)陸上養殖市場も、2024年の293億円から2030年には1,700億円規模まで成長すると予測されており(JBpress「広がる『陸上養殖』」2026年9月確認)、養殖業スタッフの求人自体が増えていく可能性が高い分野です。
つまり「獲る漁業」から「育てる漁業」への重心移動は、個人の選択の問題であると同時に、業界全体の産出構造が変わりつつある中で起きている動きだといえます。農林水産省の漁業産出額統計でも、海面漁業・養殖業の産出額のうち養殖業が一定の割合を占めていることが確認できます(農林水産省「漁業産出額」統計、e-Stat 2026年9月確認)。
漁師から養殖業へ転身するために必要なスキル・資格
漁師にも養殖業スタッフにも、法律上必須となる国家資格は基本的にありません。ただし、求められる「センス」の種類は大きく違います。
| スキル領域 | 漁師で重視される | 養殖業で重視される |
|---|---|---|
| 判断力 | 海況判断、潮目や天候の読み | 水質・水温・溶存酸素量などのモニタリング |
| 技術 | 漁法(網の操作、一本釣り等)の技術 | 給餌設計、生育段階に応じた管理 |
| 体力の使い方 | 瞬発的・不規則な重労働(早朝出漁、網の引き上げ等) | 継続的なルーティン作業(毎日の給餌・清掃・点検) |
| リスクの種類 | 海難事故、天候急変への対応 | 水質悪化や病気による大量へい死、設備トラブル |
| 資格 | 基本的に不要(船を操縦するなら小型船舶操縦士免許等) | 基本的に不要(生け簀の点検で潜水士資格があると有利な場合も) |
漁師として培った「海の生き物への理解」「体力」「早朝からの生活リズム」は養殖業でも活きる部分がありますが、養殖業では収穫までの数か月〜数年単位で生育状況を管理し続ける計画性がより重要になります。逆に言えば、「海況に一喜一憂する働き方より、コツコツ管理する仕事の方が性に合う」と感じる漁師にとっては、養殖業は現実的な選択肢になり得ます。
漁業全般で使える資格を体系的に確認したい場合は、漁業の資格一覧|種類別に必要な免許・取得費用・難易度を解説を参考にしてください。
収入面はどう考えればいいか
収入は「漁師だから高い・養殖業だから低い」と単純に比較できるものではなく、雇用形態(雇われか独立か)と魚種・経営規模によって大きく変わります。水産庁の令和6年度水産白書によると、沿岸漁船漁業(個人経営体)の漁労所得と、海面養殖業(個人経営体)の漁労所得は、令和5年時点で水準が大きく異なっており、養殖業の方が高い年もあれば、逆の年もあります(水産庁「令和6年度水産白書」2026年9月確認)。独立して経営する場合は特に、初期投資の規模や魚種選びが収益を左右するため、単年の数字だけで判断するのは危険です。
魚種別・雇用形態別の詳しい年収データは水産養殖業の年収はいくら?魚種別・雇用形態別に徹底解説【2026年版】で、漁師側の年収データは漁師の年収はいくら?漁法別・地域別のリアルな収入事情を徹底解説でそれぞれ詳しく解説しています。転身を検討する際は、この2つの記事で自分が想定する働き方(雇用型か独立型か、どの魚種か)に近いケースの数字を確認したうえで判断することをおすすめします。
一つだけ確実に言えるのは、雇用型(漁業会社の乗組員や養殖業者のスタッフとして働く形)であれば、漁師・養殖業スタッフのどちらも固定給や歩合給で収入の見通しが立てやすく、独立型はどちらも初期投資と経験がものを言うという点です。未経験からいきなり独立養殖を始めるのではなく、まず雇用型の養殖業スタッフとして経験を積む方が、収入面でも技術面でもリスクを抑えられます。
転身の具体的な流れと求人の探し方
漁師から養殖業への転身を考えたら、次の流れで進めるのが現実的です。
1. どの養殖分野に移るかを絞り込む
同じ養殖業でも、ブリ・マダイ・サーモンなどの魚類養殖、カキ・ホタテなどの貝類養殖、ワカメ・こんぶ・のりなどの海藻養殖、そして海面養殖と陸上養殖では、必要な設備も日々の作業も異なります。漁師時代に得意だった漁場・魚種に近い分野から検討すると、知識を活かしやすくなります。
2. 雇用型の求人を探す
いきなり独立養殖を始めるのではなく、まずは養殖業者・養殖会社の従業員として働きながら技術を学ぶのが現実的です。求人はハローワークのほか、養殖業者への直接応募、養殖ベンチャー企業の中途採用などで見つかります。水産業界の求人全体の中で養殖業スタッフがどう位置づけられているかは、水産業界の求人|正社員で働ける仕事の種類を徹底解説でも整理しているので、他の職種と比較したい場合はあわせて確認してください。
3. 独立して養殖を始めるまでのステップを知っておく
同じ漁協・地域内で漁業権を持つ漁師が養殖業に軸足を移す場合、漁業権の変更や追加の手続きが必要になることがあります。将来的に自分で養殖業を始めたい場合は、必要な許可や初期費用を養殖業の始め方|必要な許可・初期費用・失敗しないポイントで確認しておくと、雇用型で経験を積む段階から逆算した準備ができます。漁業者としての新規就業支援制度を使って別の漁法・分野に挑戦する場合は、新規就漁とは?支援制度3本柱と申請5ステップを解説も参考になります。
転身前に確認しておきたい注意点
養殖業には「天候に左右されにくい」というメリットがある一方で、漁師とは違う種類のリスクと向き合うことになります。
まず、養殖業は生き物相手のため、漁師以上に「完全な休み」が取りにくい面があります。給餌や水質管理は毎日必要な作業であり、台風などの荒天時にはむしろ生け簀の点検や補強作業が発生します。
次に、病気や水質悪化による大量へい死のリスクがあります。天然の魚を獲る漁師と違い、養殖では自分たちが育てている魚介類がまとめて死んでしまえば、その年の収入が大きく落ち込みます。これは漁師の「不漁」とは異なる種類のリスクで、日々の管理の丁寧さが結果に直結する分野です。
最後に、海面養殖の場合は漁業権や漁協との調整が必要になる点も、漁師時代の経験がそのまま使えるとは限りません。同じ漁協管内であっても、養殖の免許・区画には別の手続きが必要になるケースがあるため、検討段階で地元の漁協や都道府県の水産部局に確認しておくことをおすすめします。
よくある質問
Q1. 漁師から養殖業への転身に資格は必要ですか?
雇われで養殖業スタッフとして働く場合、法律上必須の資格は基本的にありません。生け簀の点検などで潜水のスキルが求められる求人もありますが、資格がなくても始められる求人が多いのが実情です。将来的に独立して海面養殖を営む場合は、漁業権や区画漁業権に関する手続きが必要になります。
Q2. 漁師と養殖業スタッフ、どちらが収入は高いですか?
一概には言えません。雇用形態(雇われか独立か)と魚種・経営規模によって水準が大きく変わるためです。水産庁の統計でも、沿岸漁船漁業と海面養殖業の個人経営体の漁労所得は年によって水準の大小関係が入れ替わっています。具体的な数字は[漁師の年収記事](https://suisan-navi.jp/fishery-career/fisherman-salary/)と[養殖業の年収記事](https://suisan-navi.jp/aquaculture/aquaculture-salary-guide/)を見比べて、自分が想定する働き方に近いケースを確認してください。
Q3. 同じ漁協の中で、漁師から養殖業に変わることはできますか?
地域や漁協によります。すでに漁協の組合員であれば、養殖の免許取得や区画の調整について相談しやすい立場にはありますが、養殖には別途手続きが必要になるのが一般的です。まずは所属する漁協や都道府県の水産部局に、養殖業への転換に関する相談窓口があるか確認することをおすすめします。
Q4. 未経験の異業種から、いきなり養殖業に転職することもできますか?
可能です。この記事は漁師からの転身を中心に扱っていますが、養殖業者の求人はハローワークや養殖ベンチャー企業の中途採用などで、水産業界未経験者も対象にしているケースが多くあります。漁師の経験がなくても、養殖業に関心があれば挑戦できる分野です。
関連記事: 漁師の求人はどこで探す?主な探し方7つと地域別ガイドまとめ
関連記事: 三谷水産高校(愛知県立三谷水産高等学校)の偏差値・学科・進路を解説|新造船「愛知丸」であさり日本一の海を学ぶ
まとめ:漁師から養殖業への転身は「業界内シフト」として現実的な選択肢
- 漁業生産量は1984年の1,282万トンをピークに減少し、2023年は378万トンと過去最低。資源減少を背景に、天候や漁獲量に左右されにくい養殖業への注目が業界全体で高まっている
- 漁師は海況判断・漁法の技術・瞬発的な体力が問われるのに対し、養殖業は水質・栄養管理や計画的な生産管理といった継続的なマネジメント力が問われる
- 収入は雇用形態と魚種・経営規模次第で大きく変わり、一律に「養殖業の方が高い」とは言えない
- 転身の現実的な流れは、まず雇用型の養殖業スタッフとして経験を積み、必要であれば将来的に独立や区画取得を検討するという順序
- 養殖業も生き物相手である以上「休みが自由に取れる」わけではなく、病気やへい死のリスクなど漁師とは異なる種類の難しさがある
まずは自分が興味のある魚種・養殖形態を絞り込み、雇用型の求人でどんな仕事内容・条件があるかを具体的に確認するところから始めてみてください。水産業界全体の職種比較は水産業界の求人ガイド、漁師として独立する道を検討したい場合は漁師として独立するには?必要な資金と5つのステップを解説もあわせてご覧ください。
参考情報
- サストモ by LINEヤフー「沖合でブリ、陸上でサーモンを”生産” 魚が減るなか広がり出した養殖」(https://sdgs.yahoo.co.jp/featured/635.html)2026年9月確認
- JBpress「広がる『陸上養殖』、サーモン/マスは約80ブランドも!漁業権不要で異業種参入が相次ぐ」(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/92287)2026年9月確認
- 水産庁「令和6年度水産白書」経営の動向(https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/r06_h/trend/1/t1_2_2.html)2026年9月確認
- 水産庁「令和5年度水産白書」水産業の就業者をめぐる動向(https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/r05_h/trend/1/t1_2_3.html)2026年9月確認
- 農林水産省「漁業産出額」統計(e-Stat 政府統計の総合窓口、https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0001886486)2026年9月確認
この記事は水産ナビ編集部が執筆しました。水産ナビは水産・漁業に特化した専門メディアです。
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