最終更新: 2026-10-22
新潟県村上市を流れる三面川(みおもてがわ)では、毎年10月下旬から鮭漁が本格化する。「一括採捕(いっかつさいほ)」と呼ばれる独特の漁法で、川幅いっぱいに設けた柵で産卵のために遡上してくる鮭をまとめて捕らえる。この地には江戸時代から続く鮭との深い関わりがあり、実は「世界で初めて鮭の自然ふ化増殖に成功した川」としても知られている。本記事では、一括採捕と居繰網漁という2つの伝統漁法の仕組み、その土台となった歴史、そして2026年シーズンの状況を解説する。
一括採捕とは?ウライと落し柵の仕組み

三面川の一括採捕は、「ウライ」と呼ばれる柵を川幅いっぱいに設置し、産卵のために上流へ遡上してくる鮭の行く手をふさぐ漁法だ。ウライには「落し柵」と呼ばれる鉄柵の開口部が2か所設けられており、遡上してきた鮭はそこに誘導されて捕獲される仕組みになっている。
この漁法は、三面川鮭産漁業協同組合(三面川鮭産漁協)が増殖事業の一環として管理している。戦後一時中断していたが、1977年(昭和52年)に鮭の増殖を目的として再開された。捕獲した鮭は食用に出荷されるだけでなく、漁協が採卵・人工ふ化増殖にも利用している。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名称 | 一括採捕(ウライ漁) |
| 場所 | 新潟県村上市・三面川 |
| 実施期間 | 10月下旬〜12月中旬 |
| 仕組み | 川幅いっぱいの柵(ウライ)+落し柵2か所 |
| 目的 | 食用出荷+採卵・人工ふ化増殖 |
| 運営 | 三面川鮭産漁業協同組合 |
例年のピーク時には1日あたり500〜800尾が捕獲される年もあるが、漁期序盤は1日100〜200尾程度にとどまることが多い(三面川鮭産漁協調べ)。
もう一つの伝統漁法「居繰網漁」

三面川ではウライによる一括採捕のほかに、「居繰網漁(いぐりあみりょう)」という伝統的な川舟漁も行われている。実施期間は10月21日から11月30日まで(新潟県村上地域振興局調べ)。
居繰網漁の仕組みは次の通りだ。
- 3艘の川舟をひし形に広げながら川の流れに乗せる
- 1艘につき漁師が2人ずつ乗り込む
- 先行する1艘が網で鮭を追い込む
- 後方2艘のうち下流側の漁師が櫂で舟を操作する
- 上流側の漁師が水中に下ろした「サイ縄」を握り、鮭が網にかかると舷を叩いて合図し、呼吸を合わせて引き上げる
なお、三面川と合流する大川では「コド漁」という別の仕掛け漁(川底の杭に竹や杉皮、ヨシ、柳などを取り付けて鮭を誘導する漁法、実施期間10月1日〜12月31日)も行われている(村上市公式サイト調べ)。これらの伝統漁法は、観光としても見学できる機会があり、村上市の鮭文化を象徴する存在になっている。
世界初の鮭増殖技術を生んだ「種川の制」

三面川が鮭漁の歴史において特別な場所とされる理由は、江戸時代中期の村上藩士・青砥武平治(あおとぶへいじ、1713〜1788年)の功績にある。
青砥は、鮭が生まれた川に戻ってくる「母川回帰性」に着目し、「種川の制」という仕組みを考案した。三面川を複数の分流に分け、そのうち1つを産卵保護用の「種川」として整備し、蔓や枝で作った柵で乱獲を防ぎながら鮭が安心して産卵できる環境を作るというものだ。この取り組みは1763年(宝暦13年)頃から1794年(寛政6年)頃までの約30年間かけて拡充され、実施前は200〜300両だった漁獲による収益が、実施後は1,000両を超えるまでに増えたと伝えられている(村上市公式サイト・イヨボヤ会館調べ)。
種川の制は、世界で初めて成功した鮭の自然ふ化増殖システムと位置づけられており、カナダで人工ふ化事業が始まったのはこれより約140年後とされる。明治時代に入ると三面川は日本で初めて人工増殖技術(ふ化場)を導入した川となり、現在も漁協が毎年1,000万粒以上を採卵し、約800万尾の稚魚を放流している。放流された稚魚は約4年の回遊を経て、再び三面川に戻ってくる。
この「資源を守りながら利用する」という考え方は、現代の栽培漁業・資源管理の発想を260年近く先取りしていたとも言える。三面川の鮭漁が単なる水揚げ作業ではなく、地域が長年守り続けてきた資源管理の仕組みの上に成り立っていることが分かる。
2026年シーズンの状況

2026年は10月21日に一括採捕が解禁となったが、初日の水揚げは1匹にとどまった。前年(2025年)の初日はゼロだったため、関係者からは「今年は少なくとも魚が入った」という声も聞かれるが、依然として厳しい状況が続いている。
| 年 | 採捕数(シーズン合計) |
|---|---|
| 2015年(ピーク時) | 約5万5,000匹 |
| 2025年 | 1,415匹 |
(新潟日報調べ、2026年10月21日時点の報道より)
この減少傾向は三面川だけの問題ではなく、北海道をはじめ全国的な秋鮭(シロザケ)の記録的不漁と同じ背景にある。秋鮭不漁の構造的な原因(海水温上昇・稚魚の回帰率低下など)については2026年秋鮭不漁の実態と原因で詳しく解説しているので、合わせて読むと全国的な状況との位置づけが見えてくる。
まとめ:三面川の鮭漁が教えてくれること
- 一括採捕は川幅いっぱいの柵「ウライ」で鮭をまとめて捕る漁法で、食用出荷と増殖事業を兼ねている
- 居繰網漁は3艘の川舟を使う伝統的な網漁で、10月21日〜11月30日に実施される
- 三面川は江戸時代の青砥武平治が考案した「種川の制」により、世界初の鮭自然ふ化増殖に成功した場所
- 2026年も記録的な不漁が続いており、ピーク時の5万尾規模から1,000匹台まで落ち込んでいる
鮭そのものの旬や選び方については鮭(サーモン)の旬はいつ?、鮭と並ぶ村上の名産であるいくらについてはいくらの旬はいつ?も参考にしてほしい。
参考情報
- 新潟県村上地域振興局「三面川の『鮭漁』は秋から冬にかけてピークを迎えます」(2026年10月確認)
- 村上市公式ウェブサイト「村上の鮭漁」(2026年10月確認)
- 村上市公式ウェブサイト「青砥武平治」(2026年10月確認)
- イヨボヤ会館公式サイト「三面川の鮭と青砥武平治」(2026年10月確認)
- 新潟日報「初日の水揚げは昨年ゼロ→今年は待望の1匹!本格的な鮭漁幕開け『一括採捕』村上市の三面川でスタート」(2026年10月21日)


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