最終更新: 2026-10-17
2026年10月、山形県鶴岡市の沿岸で海水浴やレジャー目的で訪れた18人がサザエ・アワビの密漁容疑で摘発された。全員が漁業者ではない一般人で、「家族で食べる分くらいならいいだろう」という動機が大半だったという。こうした「レジャー型密漁」は全国で後を絶たない。本記事では、サザエとアワビで罰則がどう違うのか、なぜ密漁が増えているのか、摘発された場合どうなるのかを、一次資料と2026年の実際の事例から整理する。
密漁とは?「少しだけ」でも犯罪になる理由

密漁とは、漁業権を持たない者が、都道府県知事の許可を得ずに水産動植物を採捕する行為を指す。「海にあるものを少し持って帰るだけ」という感覚で行われることが多いが、法律上は個数や目的を問わず違法行為にあたる。
日本沿岸の多くの漁場では、地元の漁業協同組合が「共同漁業権」として、サザエ・アワビ・ウニ・カキ・ワカメなどの採捕権を持っている。この漁業権が設定された水域で漁業者以外の人が無許可で採捕すると、個数が1個であっても漁業権侵害にあたる。
さらにアワビとナマコ、しらすうなぎ(13センチ以下のウナギ稚魚)は、資源保護上とくに重要な「特定水産動植物」として国が個別に指定しており、通常の漁業権侵害よりも重い罰則が適用される。この区分の違いが、サザエとアワビで罰則が大きく異なる理由だ。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 定義 | 漁業権者以外の者が許可なく水産動植物を採捕する行為 |
| 根拠法 | 漁業法(平成30年12月改正・令和2年12月施行) |
| 対象 | サザエ・アワビ・ウニ・カキ・ワカメ・イセエビ等、共同漁業権の対象種 |
| よくある言い分 | 「少しだけなら」「自分で食べる分なら」は法的に通用しない |
アワビとサザエ、罰則はどう違う?

2026年10月の山形の事例では、サザエ419個・アワビ24個が押収されたが、この2種は法律上の扱いが異なる。アワビは「特定水産動植物」に指定されているため、より重い罰則の対象になる。
| 項目 | アワビ・ナマコ・しらすうなぎ(特定水産動植物) | サザエ・ウニ・カキ・ワカメ等(その他の共同漁業権対象種) |
|---|---|---|
| 根拠 | 漁業法第132条の特定水産動植物採捕禁止規定 | 漁業法第193条の漁業権侵害罪 |
| 罰則 | 3年以下の懲役または3,000万円以下の罰金 | 100万円以下の罰金 |
| 施行時期 | アワビ・ナマコは令和2年12月1日、しらすうなぎは令和5年12月1日 | 令和2年12月1日(罰金額を20万円以下から100万円以下に強化) |
| 運搬・所持・あっせんも違反か | 対象になる | 採捕行為自体が対象 |
アワビは「懲役刑もあり得る」という点でサザエより重く扱われる。これは密漁が組織化・営利化しやすい高価格な水産物を、国が個別に指定して保護しているためだ。一方でサザエやウニなども「罰金だけだから軽い」という意味ではなく、1個でも採捕すれば漁業権侵害として立件される点は変わらない。
2026年の摘発事例|山形・鹿児島の2つのパターン

事例1:レジャー客18人を一斉摘発(山形県鶴岡市)
酒田海上保安部は、2026年7月から9月にかけての集中取り締まりで、鶴岡市の鼠ケ関・油戸・由良・温海の沿岸部でサザエ419個・アワビ24個を密漁した疑いで男女18人を摘発した。摘発された18人全員が漁業者ではなく、海水浴などのマリンレジャー目的で訪れた一般人だった。内訳は県内在住者15人(うち庄内地域住民12人)、県外からの訪問者3人。漁業法違反などの疑いで、年内に書類送検する方針だという。取り調べでは「家族で食べる分くらいならいいだろうと思った」という供述が多かった。
事例2:常習・営利目的での密漁(鹿児島県南さつま市)
一方、鹿児島県南さつま市では、2026年8月4日未明に漁業権を持たないまま禁漁期間中のイセエビを素潜りで50匹(約18.6キロ)密漁したとして、66歳の男が起訴された。検察側は、男が6月頃から8月4日までの間に息子と共謀してイセエビを密漁・売却し、30万円以上を得ていたと指摘。1986年頃から密漁を繰り返し、服役歴もあることも明らかになった。男は初公判で起訴内容を認めている。
この2つの事例は、密漁が「レジャー感覚の一般人による少量採捕」と「常習・営利目的の組織的な採捕」という二極化した実態を示している。どちらも違法である点は同じだが、常習性・営利性が認められるケースは量刑が重くなりやすい。
なぜ密漁が増えているのか:3つの背景

水産庁「水産白書」によると、令和2年(2020年)の全国の漁業関係法令違反(密漁)の検挙件数は1,426件(海面1,368件・内水面58件)にのぼる。水産庁は「近年、漁業者による違反操業が減少している一方、漁業者以外による密漁が増加し、悪質化・巧妙化している」と指摘しており、山形・鹿児島の事例のように漁業者以外(レジャー客・常習犯)による密漁が今日的な課題になっていることがうかがえる。
背景として指摘されているのが以下の3点だ。
- SNSでの情報拡散。どこで採れるか、どのように採るかといった情報がSNS上で共有されやすくなり、密漁の心理的なハードルが下がっている
- 高価格な水産物の資源的な希少性。アワビ・イセエビなどは市場価格が高く、不漁や資源減少が続く種ほど密漁の経済的なメリットが大きくなりやすい
- 「犯罪」という認識の薄さ。海水浴やダイビングの延長で「自然のものを少し採るだけ」という感覚が根強く、漁業権という制度自体の認知が低い
鹿児島県でも、イセエビやアワビの密漁についてSNSでの情報拡散が違反件数の増加につながっていると指摘されている。これはレジャー客による偶発的な密漁だけでなく、情報を得た上で意図的に狙うケースが増えていることを示唆する。
密漁で摘発されたらどうなる?

密漁の取り締まりは、海上保安部・都道府県警察・都道府県(漁業監督吏員)が担っている。摘発された場合の一般的な流れは以下の通りだ。
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| 現場での発見・検挙 | 巡視・パトロール中の発見、または通報による現場確認 |
| 事情聴取 | 採捕した個数・場所・動機などの聴取 |
| 書類送検・起訴 | 漁業法違反(または特定水産動植物採捕禁止違反)として検察に送致 |
| 処分 | 罰金刑が大半だが、特定水産動植物や常習性が認められる場合は懲役刑の可能性もある |
山形の事例のように、押収された水産物の個数が多いほど、また県外からの訪問者が多いほど、組織性を疑われて取り調べが厳しくなる傾向がある。「リリースすれば罪にならない」という誤解もあるが、採捕した時点で違反が成立するため、現場で逃げたり放棄したりしても罪に問われる点は変わらない。
旅行者・ダイバーが知っておくべき注意点
海水浴やダイビングで漁業権が設定された漁場を訪れる際は、以下を確認しておきたい。
- 地元の漁業協同組合や自治体が設置する「密漁禁止」「立入禁止」の看板・標識を確認する
- 磯遊びやシュノーケリングでも、サザエ・アワビ・ウニなどを「持ち帰らない」ことを徹底する
- 採捕したい場合は、遊漁券や潮干狩り場など、合法的に採捕できる施設・制度を利用する
- 「食べる分だけ」「1個だけ」という感覚的な線引きは法的に通用しないと理解する
とくに観光地の海水浴場周辺は共同漁業権が設定されていることが多く、知らずに磯遊びの延長でサザエやアワビを拾ってしまうケースもある。悪意がなくても密漁として立件される可能性があるため、現地のルールを事前に確認することが最も確実な対策になる。
サザエ・アワビの密漁に関するよくある質問
Q1: 1個だけ採った場合でも密漁になりますか?
なります。漁業権侵害罪は個数の多寡を問わず、無許可での採捕行為自体が違法となります。サザエ1個でも立件された事例が過去に報じられています。
Q2: 知らない場所で「禁止」の看板がなかった場合はどうなりますか?
看板の有無は違法性の判断に直接影響しません。沿岸の多くの漁場には漁業権が設定されており、「知らなかった」という事情は量刑の判断で考慮される可能性はありますが、違法行為自体が成立しなくなるわけではありません。採捕前に自治体や漁協への確認が推奨されます。
Q3: サザエとアワビを一緒に採った場合、罰則はどうなりますか?
アワビは特定水産動植物として漁業法の重い罰則(3年以下の懲役または3,000万円以下の罰金)、サザエは漁業権侵害罪(100万円以下の罰金)が、それぞれの採捕物に応じて適用される可能性があります。実際の量刑は個数・常習性・営利目的の有無などを踏まえて判断されます。
まとめ:密漁は「少しだけ」でも違法行為
- サザエ・アワビの密漁は、海水浴やダイビングを目的に訪れた一般人による摘発が目立つ
- アワビ・ナマコ・しらすうなぎは「特定水産動植物」として国が指定し、3年以下の懲役または3,000万円以下の罰金と重い罰則が科される
- サザエ・ウニ・カキなどの共同漁業権対象種は、1個でも漁業権侵害罪(100万円以下の罰金)にあたる
- 全国の密漁検挙件数は増加傾向にあり、漁業者以外による密漁が大半を占める
- 海水浴・ダイビングで沿岸を訪れる際は、「少しだけなら」という感覚を持たず、現地のルールを事前に確認することが重要
密漁の罰則や資源管理の考え方は、河川でのサケの密漁など対象や根拠法によっても異なる。鮭の密漁はなぜ増えている?もあわせて参考にしてほしい。サザエ・アワビそのものの旬や選び方についてはサザエの旬はいつ?、アワビの旬はいつ?で解説している。漁業権の仕組み自体を詳しく知りたい方は漁業権の取得方法も参照してほしい。水産業界全体の統計データは水産ナビのデータハブにまとめている。
参考情報
- アワビやサザエなどを密漁した疑いで18人を摘発 酒田海上保安部が集中取り締まり(YTS山形テレビ、確認日2026年10月17日):https://www.yts.co.jp/news/news-243769/
- 庄内浜密漁疑いで18人摘発 酒田海保、7〜9月年内に書類送検(山形新聞、確認日2026年10月17日):https://www.yamagata-np.jp/news/202610/15/kj_2026101500335.php
- イセエビの禁漁期間に漁業権がないのに素潜りで50匹密漁、被告が認める(読売新聞オンライン、確認日2026年10月17日):https://news.yahoo.co.jp/articles/62ff1f8fc7e0505c5671699391e5645d4e6e77e2
- イセエビ50匹を密漁した罪に問われる男(66)初公判で起訴内容認める(MBC南日本放送、確認日2026年10月17日):https://news.yahoo.co.jp/articles/3ea2af6cb04041d6bf892dee5f8383162c6f2e2b
- 密漁の罰則が強化! アワビ、ナマコを採ると罰金3000万円!?(刑事事件コラム、確認日2026年10月17日):https://keiji.vbest.jp/columns/g_other/5001/
- 勝手に採ったら…それ「違法」です!(KTV関西テレビ、確認日2026年10月17日):https://www.ktv.jp/news/feature/220819-2/
- イセエビやアワビの密漁、9割がレジャー客 SNSで情報広まり違反件数が過去最多(南日本新聞、確認日2026年10月17日):https://373news.com/news/local/detail/227324/
- 水産庁「水産業をめぐる情勢」漁業取締・密漁監視体制の強化等(令和2年の検挙件数1,426件の確認に使用、確認日2026年10月17日):https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/r03_h/trend/1/t1_3_3.html


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