最終更新: 2026-09-28
遊漁船業は、漁師が持つ操船技術と漁場の知識をそのまま活かせる副業・転業先として、以前から現場でよく話題になる。ただし「船を持っていればすぐ始められる」わけではなく、都道府県知事への登録と遊漁船業務主任者の選任が法律で義務付けられている。無登録で客を乗せて釣りをさせれば違法営業になる。この記事では、免許・実務要件、登録の手順、費用相場、そして水産庁が公表している遊漁船業者の実態データまで、現役漁師が兼業・転業として始める場合を想定して整理する。
遊漁船業の全体像:始める前に知っておくこと

遊漁船業とは、遊漁船業の適正化に関する法律(昭和63年法律第99号)に基づき、船舶で乗客を漁場まで案内し、釣りその他の方法で水産動植物を採捕させる事業を指す。船釣りだけでなく、磯渡し・筏渡し・防波堤渡しなども対象に含まれる。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 登録先 | 営業所所在地を管轄する都道府県知事 |
| 登録の有効期間 | 5年(更新手続きが必要) |
| 必要な免許 | 海技士(航海)、または小型船舶操縦士免許(使用船舶のトン数・航行区域に応じて2級以上) |
| 実務要件 | 遊漁船業務での1年以上の実務経験、または遊漁船業務主任者による30日間(1日5時間以上)以上の実務研修+主任者講習の修了 |
| 保険 | 利用者1人あたりの損害賠償措置額が3,000万円以上の契約(省令第6条の基準) |
| 費用目安 | 登録手数料2万円台+保険料+業務規程の整備費用(都道府県により異なる) |
漁師の場合、多くはすでに小型船舶操縦士免許を保有しているため、残るハードルは遊漁船業務主任者の実務要件と、都道府県への登録手続きになる。
遊漁船業を始める手順【ステップ解説】

Step 1: 免許と実務要件を満たす
遊漁船業務主任者になるには、海技士(航海)または小型船舶操縦士免許(使用船舶の総トン数に応じて1級・2級)を保有した上で、次のいずれかを満たす必要がある。
- 遊漁船業務での1年以上の実務経験
- 遊漁船業務主任者の指導のもとで30日間(1日5時間以上)以上の実務研修を修了し、農林水産大臣の認定を受けた遊漁船業務主任者講習を修了する
水産庁の講習実施ページ(令和6年2月19日改正版)によると、この実務研修の日数はもともと10日間だったが、2024年4月の制度見直しで30日間に引き上げられた。すでに遊漁船に乗客を乗せて漁場を案内した経験がある漁師であれば、1年以上の実務経験の要件を満たしやすく、主任者講習のみで移行できるケースが多い。講習修了の効力は5年間で、以降は再受講が必要になる。
Step 2: 損害賠償保険に加入する
登録の欠格要件の一つに「損害賠償の措置額が基準に適合していないこと」があり、利用者1人あたりの填補限度額3,000万円以上の保険または共済への加入が省令上の最低基準になる。水産庁が令和4年7月時点で行った調査では、実際に加入している保険金額は3,000万円以上5,000万円未満が76%と最も多く、5,000万円以上1億円未満が16%、1億円以上も8%存在した。事故時の賠償リスクを考えると、法定最低ラインぎりぎりではなく余裕を持った金額を選ぶ業者が一定数いることがわかる。
Step 3: 業務規程を作成し、都道府県へ登録申請する
登録申請では、安全確保・利用者保護のための業務規程(利用者への周知事項、出航中止の基準、荒天時の対応など)を作成し、届け出る必要がある。申請時に一般的に必要になる書類は次のとおりだ(都道府県により細部は異なるため、必ず管轄の水産部局に確認すること)。
| 書類 | 内容 |
|---|---|
| 登録申請書・誓約書 | 欠格要件に該当しないことの誓約を含む |
| 遊漁船業務主任者講習修了証明書の写し | 主任者の資格を証明 |
| 船舶検査証書の写し | 使用する船舶の検査状況を証明 |
| 保険証書の写し | 損害賠償措置の基準適合を証明 |
| 業務規程(正副2部) | 安全管理・利用者保護の実施内容 |
参考として兵庫県の例では、新規登録の手数料は28,000円、更新は17,000円となっている(2026年9月時点、県証紙または電子納付)。手数料や必要書類の細部は都道府県ごとに異なるため、金額を鵜呑みにせず自分の営業所を管轄する自治体の水産担当窓口で最新の案内を確認してほしい。
Step 4: 登録票を掲示し、漁協と調整したうえで営業を始める
登録が完了すると登録票・登録標識の交付を受け、船内などへの掲示が必要になる。ここで漁師特有の論点になるのが漁協との関係だ。所属する漁業協同組合の組合員が兼業を行う場合、組合の定款で事前の届出を求められるケースがある。漁業権や漁協規則との関係は「漁業権取得方法」の記事で詳しく扱っているので、届出の要否を確認する際の参考にしてほしい。
失敗しないためのコツ・注意点

| よくある失敗・リスク | 原因 | 対策 |
|---|---|---|
| 安全管理体制が形だけになる | 集客や収益確保を優先し、業務規程の運用が形骸化する | 出航中止基準・荒天時対応を実際の運用ルールとして周知する |
| 衝突・接触事故 | 釣り客を案内するため他船の近くで操業する機会が多い | 見張りの徹底、航行区域に応じた運航計画の見直し |
| 保険金額の見誤り | 法定最低基準(3,000万円)だけで契約してしまう | 実際の利用者数・航行区域に応じて上乗せ加入を検討する |
| 漁協との関係悪化 | 兼業の届出を怠る、既存の漁業者との調整を省く | 事前に組合長・先輩漁師へ相談し、地域のルールに従う |
水産庁の調査(令和4年10月公表、事故データはH29〜R3の集計)によると、死傷者を伴う船舶事故の割合は遊漁船で高く、事故の種類別では衝突が59%、単独衝突が23%、乗揚が14%を占める。また、H24〜R3の10年間で少なくとも28隻・のべ30件、一度事故を起こした遊漁船業者が再び同様の事故を起こしている実態も報告されている。集客や収益に気を取られて安全管理を後回しにしないことが、遊漁船業を長く続けるための前提条件になる。
費用・収益性の目安

遊漁船業の収益は、副業として週末のみ稼働するか、転業して専業化するかで大きく変わる。以下は業界解説記事や公開情報をもとにした目安であり、個々の漁場・集客力・船の規模によって差が出る点に注意してほしい。
| 稼働スタイル | 収入目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 副業(週末のみ稼働) | 月10万〜20万円程度 | 本業の漁業と並行し、繁忙期以外の週末を中心に稼働するケース |
| 転業・専業化 | 年収300万〜800万円程度が目安、集客に成功した一部で年収1,000万円超の例も | 船の規模・定員・集客チャネル(予約サイト・SNS・常連客)に大きく左右される |
| 初期費用の項目 | 目安 |
|---|---|
| 船舶(中古) | 数百万円〜 |
| 船舶(新造) | 数百万円〜1,000万円前後 |
| 登録手数料 | 数万円(都道府県により異なる) |
| 損害賠償保険料 | 保険金額・定員数に応じて変動 |
収益性の数値はマネーフォワード クラウド会社設立の解説記事など民間の業界情報をもとにした目安であり、公的統計による裏付けではない点は踏まえておく必要がある。実際に始める際は、地元の遊漁船業者や漁協への聞き取りで、集客チャネルごとの実績や閑散期の収入変動を確認するのが現実的だ。
遊漁船業の実態|水産庁データで見る現状
水産庁「遊漁船業をめぐる現状と課題」(令和4年10月公表、数値は令和4年7月時点の調査)によると、全国の遊漁船業者の登録数は約1.3万件、遊漁船の隻数は約1.6万隻で、近年は横ばいで推移している。実態を見ると、次のような特徴がある。
| 項目 | 割合・数値 |
|---|---|
| 1事業者あたりの使用船舶が1隻のみ | 87% |
| 旅客定員12人以下 | 87% |
| 営業形態が船釣り | 88% |
| 営業形態が磯渡し | 6% |
| 漁業協同組合の組合員である業者 | 72% |
| 漁船登録がある遊漁船 | 73% |
このデータからは、遊漁船業の大半が1隻・小規模定員で運営する個人事業であり、漁協組合員としての兼業が一般的な形態であることがわかる。これから始める漁師にとっては、いきなり大型化・多角化を目指すよりも、まず小規模な体制で安全運航の実績を積む方が実態に合っているといえる。
よくある質問
Q1: 本業の漁業をしながら遊漁船業を兼業できますか?
制度上、漁業と遊漁船業の兼業自体は可能で、実際に水産庁の調査でも遊漁船業者の72%が漁協組合員だ。ただし所属する漁協の定款で兼業の事前届出を求められることがあるため、登録申請の前に組合へ確認してほしい。漁業権との関係は別の論点で、一般的な釣り(遊漁)は漁業権の対象外だが、アワビ・サザエなど特定の水産動植物の採捕は共同漁業権の侵害にあたる場合がある。詳しくは前述の漁業権取得方法の記事を参照してほしい。
Q2: 遊漁船業と無登録の「闇営業」はどう違いますか?
営利目的で反復継続の意思を持って乗客を漁場へ案内し釣りをさせる場合、1回限りの営業であっても都道府県の登録が必要になる。登録を受けずに営業すれば法律違反となり、登録の取消しや事業停止処分の対象にもなり得る。知人を無償で乗せる場合と、対価を得て継続的に営業する場合の線引きを曖昧にしないことが重要だ。
Q3: 副業と転業(専業化)では、始め方に違いがありますか?
免許・登録の手続き自体は同じだが、収益の前提が変わる。副業であれば週末中心の稼働で月10万円台の副収入を目安にする例が多く、転業する場合は集客チャネルの確保と、閑散期も含めた年間収支の見通しが欠かせない。まずは副業として始め、実績と常連客が増えた段階で専業化を検討する進め方が現実的だ。独立・転業全般の考え方は「[漁師の独立](https://suisan-navi.jp/fishery-career/fisherman-dokuritsu-guide/)」の記事でも扱っている。
まとめ:漁師が遊漁船業を始めるポイント
- 遊漁船業は都道府県知事への登録制で、無登録営業は違法になる
- 遊漁船業務主任者には免許(小型船舶操縦士など)に加え、1年以上の実務経験か30日間の実務研修+講習修了が必要(研修日数は2024年4月に10日間から30日間へ厳格化された)
- 損害賠償保険は利用者1人あたり3,000万円以上が法定基準だが、実際は3,000万〜5,000万円未満で加入する業者が多数派
- 水産庁データでは業者の87%が船1隻のみの小規模運営で、漁協組合員としての兼業が主流
- 事故リスク(特に衝突事故)が高い業種でもあるため、集客より先に安全管理体制を固めることが長く続けるための前提になる
まずは自分が保有する免許と実務経験を棚卸しし、営業所を管轄する都道府県の水産担当窓口に相談することから始めよう。他の副業の選択肢と比較したい場合は「漁師の副業おすすめ7選」、必要な資格を一覧で確認したい場合は「漁業の資格一覧」も参考にしてほしい。
参考情報
- 水産庁「遊漁船業をめぐる現状と課題」(令和4年10月公表、データは令和4年7月時点)https://www.jfa.maff.go.jp/j/enoki/yugyo/what/attach/attach/pdf/index-31.pdf
- 水産庁「遊漁船業務主任者を養成するための講習の実施について」(令和6年2月19日改正版、確認日2026-09-28)https://www.jfa.maff.go.jp/j/yugyo/y_what/kousyu.html
- 兵庫県「遊漁船業の登録」(確認日2026-09-28、登録手数料・必要書類の一例として参照)https://web.pref.hyogo.lg.jp/nk16/af18_000000007.html
- yuime「遊漁船への転業や漁業との兼業を検討中。どんな免許が必要でしょうか?」(確認日2026-09-28)https://yuime.jp/post/tourism-fishing-boat-license
- マネーフォワード クラウド会社設立「遊漁船を開業するには?必要な資格から資金、年収、失敗しないための秘訣まで解説」(民間解説記事、収益性の目安の参考として使用、確認日2026-09-28)https://biz.moneyforward.com/establish/basic/79674/


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