最終更新: 2026-09-30
スーパーの削り節コーナーに並ぶ「荒節」と「本枯節」。同じかつお節なのに、片方は数百円、もう片方は倍以上の値段がついていることに気づいた人もいるのではないでしょうか。答えはシンプルで、完成までにかかる時間がまったく違います。荒節は仕込みから約1ヶ月ほどで削り節にできますが、本枯節は同じ原料のカツオから作り始めても完成まで半年近くかかります。
この差を生んでいるのが「カビ付け」という工程です。かつお節はカビを繰り返し生やして乾燥・熟成させる、日本の伝統的な発酵食品。この記事では、水産加工の現場に興味がある人向けに、生切りから完成までの製造工程を順を追って解説し、荒節と本枯節の違い、カビ付けがうま味を生む科学的なメカニズム、主要産地の統計データ、JAS規格まで一気通貫で紹介します。
かつお節とは?基本をわかりやすく解説

かつお節とは、カツオの身を煮熟(しゃじゅく)してから燻煙乾燥(焙乾)し、水分を26%以下まで落とした水産加工品です。日本農林規格(JAS)では、カツオ・サバ・マグロなどの魚を原料に、頭と内臓を除いて三枚におろし、タンパク質を煮熟で凝固させたのち焙乾して水分26%以下にしたものを「かつお削りぶし」等の原料節と定義しています。この規格は1964年(昭和39年)5月20日に制定され、直近では2024年8月30日に改正されています(農林水産省)。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 原料 | カツオ(主にキハダガツオ・ホンガツオ) |
| 荒節の製造期間 | 仕込みから約1ヶ月(焙乾を10回前後繰り返す) |
| 本枯節の製造期間 | 荒節完成後さらに3〜5ヶ月(カビ付けを4回以上) |
| 最終水分量 | 26%以下(JAS規格の基準値) |
| 主産地 | 鹿児島県枕崎市・指宿市山川、静岡県焼津市 |
かつお節の歴史は古く、『古事記』や701年の大宝律令、平安時代の延喜式にも「堅魚(かたうお)」としてカツオの加工品への言及があります。「かつおぶし」という名称が文献に初めて登場するのは1513年の『種子島家譜』で、現在のようにいぶして乾燥させたあとカビ付けする製法が土佐(高知県)で考案されたのは1600年代半ばとされています。
かつお節の製造工程【生切りから荒節まで】

かつお節の製造は、大きく「荒節を作る工程」と「荒節をカビ付けして本枯節に仕上げる工程」の2段階に分かれます。まずは荒節ができるまでの流れを見ていきましょう。
ステップ1:生切り
水揚げされたカツオの頭と内臓を除去し、三枚におろします。背側の身を「雄節(おぶし)」、腹側の身を「雌節(めぶし)」と呼び、1尾のカツオから通常4本の節が取れます。このおろし方と部位の呼び分けは、かまぼこ原料のすり身加工にも通じる水産加工の基本技術です。
ステップ2:籠立て・煮熟(しゃじゅく)
生切りした身を籠に並べ、籠ごとお湯に浸けて1〜2時間煮ます。この工程でタンパク質を凝固させ、身崩れを防ぎながら生臭みを抜きます。煮熟の温度・時間管理は、最終的な身の締まり具合を左右する重要な工程です。
ステップ3:骨抜き
煮熟した身を冷ましたあと、骨・皮・うろこ・皮下脂肪などを手作業で丁寧に取り除きます。骨が残ると商品価値が大きく下がるため、熟練の技術が求められる地道な工程です。
ステップ4:焙乾(ばいかん)
骨抜きした身をいぶし、乾燥させる工程です。焙乾室で薪を燃やし、その煙と熱で身の水分を徐々に飛ばします。1回の焙乾で身の表面と中心の水分量に差が出るため、乾燥と放冷(アンギ)を10回前後繰り返しながら少しずつ芯まで乾かしていきます。この段階で水分量が26%以下になったものが「荒節」です。荒節の表面を削って形を整えたものは「裸節」と呼ばれ、ここまでで仕込みから約1ヶ月です。
荒節と本枯節の違い【カビ付け工程を徹底解説】

荒節と本枯節を分けるのが、この先の「カビ付け」工程の有無と回数です。
| 項目 | 荒節 | 本枯節 |
|---|---|---|
| カビ付け | なし(裸節のまま出荷) | あり(4回以上を繰り返す) |
| 製造期間 | 仕込みから約1ヶ月 | 荒節完成後さらに3〜5ヶ月 |
| 香り | 燻香が強く魚っぽさが残る | まろやかで上品な香り |
| 味わい | 濃いめの出汁、力強い風味 | 雑味が少なく上品なうま味 |
| 主な用途 | 花かつお、業務用だし | 高級料亭、専門店の一番だし |
カビ付けの目的と回数
裸節を「室(むろ)」と呼ばれる専用の発酵室に入れ、優良カビを繁殖させます。かつお節に使われる優良カビは主に「Eurotium herbariorum(ユーロティウム・ハーバリオラム)」という種で、焼津の鰹節組合が純粋培養した種菌を各地の製造業者に供給しています。かつてはアスペルギルス・グラウクス群(草色カビ)が製造室に自然発生する菌をそのまま利用していましたが、現在は品質を安定させるため純粋培養菌を人為的に植え付ける方式が主流です。
1回のカビ付けは、カビを生やして天日干しする作業を1セットとし、これを繰り返します。関西式(土佐等)では1回のカビ付けで仕上げる「一番カビ」の荒仕上げが伝統的ですが、関東式(伊豆諸島等)では2回以上のカビ付けを重ねて「枯節」に仕上げ、さらに回数を重ねて水分が均一に安定した状態まで仕上げたものを「本枯節」と呼びます。高級品では4回以上カビ付けを繰り返し、完成まで荒節工程と合わせて半年近くを要します。
カビ付けがうま味を生む科学的メカニズム
カビ付けは単なる保存処理ではなく、うま味と香りを積極的に作り出す発酵プロセスです。優良カビは繁殖する過程で節の表面に残った水分を吸収し、乾燥をさらに進めます。同時にカビが分泌する酵素が節の内部にも作用し、次の2つの変化を引き起こします。
| 変化 | メカニズム | 結果 |
|---|---|---|
| 脂肪分解 | カビの脂肪分解酵素が残存脂肪を分解し、遊離脂肪酸が増加 | 酸化しやすい脂肪分が減り、出汁の透明感が増す・雑味が減る |
| タンパク質分解 | カビの酵素が微量のタンパク質をアミノ酸まで分解 | 香りが穏やかになり、まろやかな風味が加わる |
| 水分の均一化 | カビが表面の水分を吸収し、内部の水分がゆっくり表面へ移動 | 芯まで均一に乾燥し、保存性が向上する |
この一連の働きにより、荒節の段階では強かった魚臭さと脂っぽさが和らぎ、本枯節特有の澄んだ香りとまろやかなうま味が生まれます。かつお節がしばしば「発酵食品」に分類されるのは、まさにこのカビによる分解作用が食品の風味を根本から変えているためです。カビによる発酵という共通点では、味噌や醤油造りで使われる麹菌(Aspergillus oryzae)も同様に酵素の力でうま味成分を生み出しており、原理を詳しく知りたい方は醸造専門メディアの麹の酵素とは?種類・働き・醸造での役割も参考になります。かつお節のカビと麹菌は属や種は異なりますが、どちらも微生物の酵素でタンパク質・脂肪を分解してうま味・香りを引き出すという点で通じる技術です。
だしのうま味成分「イノシン酸」の正体

かつお節のうま味の中心は「イノシン酸」という核酸系のうま味成分です。1913年(大正2年)に小玉新太郎がかつお節から発見し、昆布のグルタミン酸、干ししいたけのグアニル酸と並んで日本のだし文化を支える三大うま味成分のひとつとされています。1960年には、イノシン酸とグルタミン酸を組み合わせるとうま味が単純な足し算以上に強く感じられる「うま味の相乗効果」が発見され、かつお節と昆布の合わせだしが理にかなっていることが科学的に裏付けられました。
産地別の生産量データ
かつお節の生産は特定の地域に集中しています。さつま枕崎鰹節協会によると、令和5年(2023年)時点で鹿児島県枕崎市の生産量は13,865トンで全国シェア約53%と圧倒的な首位です。枕崎市の生産量は平成26年から令和5年までの10年間、年16,000トン前後で安定的に推移しており、景気変動の影響を受けにくい地場産業として地域経済を支えています。かつお節研究メディア「和食の旨み」によると、この枕崎市に鹿児島県指宿市山川、静岡県焼津市を加えた3地域で、国産かつお節の約98%を製造しているとされています。
| 産地 | 生産量(令和5年・2023年) | 全国シェア |
|---|---|---|
| 枕崎市(鹿児島県) | 13,865トン | 約53% |
| 指宿市山川・焼津市を含む3地域合計 | ― | 約98% |
農林水産省の漁業産出額統計によると、原料となるかつお類の海面漁業産出額は全国で約608億円にのぼります(農林水産省「漁業産出額」、2018年時点)。カツオの漁獲・水揚げから加工までの一連の流れや旬の情報はカツオの旬はいつ?初がつおと戻りがつおの違い・産地・栄養を完全解説で詳しく解説しています。原料となるカツオの安定確保は、他の水産加工品と同様にかつお節業界にとっても大きな経営課題です。
荒節・本枯節はどう選べばいい?
かつお節を選ぶ際は、用途に応じて荒節と本枯節を使い分けるのが基本です。
| シーン | おすすめ | 理由 |
|---|---|---|
| 毎日の味噌汁・煮物のだし | 荒節(花かつお) | 力強い風味でコストパフォーマンスが良い |
| 麺つゆ・濃いめの合わせだし | 荒節 | 香りの主張が強く、他の食材の風味に負けない |
| 一番だし・お吸い物・茶碗蒸し | 本枯節 | 雑味が少なく、素材の味を活かす澄んだだしが取れる |
| 贈答用・専門店志向 | 本枯節 | 製造期間の長さがそのまま価値になる |
一般的なスーパーで販売されている削り節パックの多くは荒節を使用しており、本枯節は専門店やデパートの食品売り場、通販で扱われることが多い高級品です。
水産加工の仕事としてのかつお節製造
かつお節製造は、枕崎・焼津・指宿といった特定の港町に根ざした専門性の高い水産加工業です。焙乾やカビ付けの工程は今も職人の経験と勘に頼る部分が大きく、室の温度・湿度管理や焙乾の火加減を見極める技術は一朝一夕には身につきません。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 主な勤務地 | 鹿児島県枕崎市・指宿市、静岡県焼津市などの産地 |
| 必要な資格 | 食品衛生責任者。HACCP関連の管理知識もあると有利 |
| 求められるスキル | 焙乾・カビ付け室の温湿度管理、品質判定の目利き |
| キャリアパス | 製造ライン→品質管理・カビ付け担当→工場長、商品開発への異動も |
水産加工全般のHACCP対応については水産加工のHACCPとは?義務化7原則から認証取得までで、水産加工品全体の分類は水産加工品の種類を徹底解説|9分類と代表的な製品一覧で整理しています。水産加工の仕事に関心がある方は、あわせて確認してみてください。
かつお節の製造方法に関するよくある質問
Q1: 荒節と本枯節はどちらが高級ですか?
本枯節の方が高級とされています。カビ付けを4回以上繰り返し、荒節完成後さらに3〜5ヶ月をかけて仕上げるため、その分手間と時間がかかり価格も高くなります。雑味の少ない上品なだしが取れることから、高級料亭や専門店で使われることが多い節です。
Q2: かつお節のカビは食べても安全ですか?
製造工程で使われる優良カビ(Eurotium herbariorum等)は、長年の経験の中で選抜・純粋培養された食用に適した菌で、安全性が確認された上で使用されています。ただし家庭で保存中に発生する青カビや黒カビなど、製造工程で使われていない雑菌が生えた場合は品質が保証されないため、異臭や変色がある場合は使用を避けるのが無難です。
Q3: かつお節はなぜ発酵食品といわれるのですか?
本枯節の製造で行われるカビ付けが、微生物(カビ)の酵素の働きでタンパク質や脂肪を分解し、うま味と香りを生み出す発酵プロセスにあたるためです。荒節はカビ付けをしないため、厳密には発酵工程を経ていませんが、本枯節は代表的な発酵食品のひとつに数えられます。
Q4: かつお節の生産量が多い産地はどこですか?
鹿児島県枕崎市が全国シェア約53%で最大の産地です(令和5年・2023年時点)。指宿市山川、静岡県焼津市と合わせた3地域で全国生産量の98%前後を占めており、生産が特定の産地に集中しているのが特徴です。
Q5: 家庭でかつお節を手作りすることはできますか?
生切り・煮熟・焙乾までは家庭の設備でも小規模には再現できますが、専用の焙乾室や温湿度管理された室(むろ)でのカビ付けは一般家庭では困難です。市販の削り節を使い、保存は湿気を避けて密閉容器に入れるのが実用的な選択です。
関連記事: 煮干しの作り方|釜茹でから乾燥までの手順とコツ
関連記事: 魚の食中毒を防ぐには?アニサキス・腸炎ビブリオ・ヒスタミンの原因と対策
まとめ:かつお節の製造方法のポイント
- 製造工程は生切り→籠立て・煮熟→骨抜き→焙乾(10回前後)の4ステップで、ここまでで「荒節」が完成(仕込みから約1ヶ月)
- 荒節にカビ付けを4回以上繰り返し、3〜5ヶ月かけて仕上げたものが「本枯節」。カビの酵素が脂肪・タンパク質を分解し、まろやかなうま味と澄んだ香りを生む
- カビ付けに使われる優良カビは主にEurotium herbariorum。発酵によってかつお節が「発酵食品」に分類される根拠になっている
- 産地は鹿児島県枕崎市(全国シェア約53%)、指宿市山川、静岡県焼津市の3地域で全国生産量の98%前後を占める
- 日常使いには荒節、雑味の少ない一番だしには本枯節と、用途に応じた使い分けが基本
かつお節の製造は、江戸時代から続く伝統技術と現代のJAS規格・HACCP管理が組み合わさって成り立っています。水産加工の世界にさらに興味が湧いた方は、魚の缶詰の製造工程やかまぼこの製造工程もあわせて読んでみてください。製造方法を比較することで、水産加工の奥深さがより実感できるはずです。水産業界の最新統計データは水産業界の統計まとめページで定期更新しています。
参考情報
- 農林水産省「日本農林規格 削りぶし」— JAS規格の制定日・改正日・定義の検証に使用(https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_standard/attach/pdf/index-360.pdf)
- 株式会社にんべん「カビ付けの変遷」— カビの学名(Eurotium herbariorum)、カビ付けの回数・目的・遊離脂肪酸増加のメカニズムの検証に使用(https://www.ninben.co.jp/about/katsuo/kabitsuke/)
- 株式会社にんべん「カツオと鰹節」— 生切り・煮熟・骨抜き・焙乾の工程、雄節・雌節の呼称の検証に使用(https://www.ninben.co.jp/katsuo/katsuobushi/about/)
- 株式会社ヤマキ「かつお節は発酵食品!?」— 発酵食品としての位置づけ、カビによる脂肪分解・うま味形成の検証に使用(https://www.yamaki.co.jp/katsuobushi-plus/news/202310_hakkou/)
- 新丸正「かつお節は本枯節と荒節の2種類。製造工程、味・香りの違いと保存方法をご紹介。」— 荒節・本枯節の製造期間・香りの違いの検証に使用(https://www.katauoya.com/contents/2024/12/02/%E3%81%8B%E3%81%A4%E3%81%8A%E7%AF%80%E3%81%AF%E6%9C%AC%E6%9E%AF%E7%AF%80%E3%81%A8%E8%8D%92%E7%AF%80%E3%81%AE2%E7%A8%AE%E9%A1%9E%E3%80%82%E8%A3%BD%E9%80%A0%E5%B7%A5%E7%A8%8B%E3%80%81%E5%91%B3%E3%83%BB/)
- 一般社団法人さつま枕崎鰹節協会「生産量の推移」— 枕崎市の令和5年生産量13,865トン・全国シェア約53%の検証に使用(https://satsuma-katsuobushi.com/wp/gallery/production-amount/)
- 和食の旨み「国産鰹節の98%を製造する名産地「枕崎市」・「指宿市」・「焼津市」」— 3地域合計で国産かつお節の約98%を製造しているという記述の検証に使用(https://www.kobayashi-foods.co.jp/washoku-no-umami/bonito-famous-production-area)
- マルトモ「だしのうま味はこうして生まれる!かつお節のイノシン酸と相乗効果の秘密」— イノシン酸発見年(1913年)・うま味の相乗効果発見年(1960年)の検証に使用(https://www.marutomo.co.jp/dashipedia/archives/255)
- はごろもフーズ「かつお節の話」— かつお節の歴史(古事記・大宝律令・種子島家譜1513年・土佐での製法確立)の検証に使用(https://www.hagoromofoods.co.jp/knowledge/katsuo/)
- 農林水産省「漁業産出額」(e-Stat 政府統計の総合窓口、2018年時点)— かつお類の海面漁業産出額約608億円の検証に使用(https://www.e-stat.go.jp/)


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