最終更新: 2026-09-15
イカの塩辛は加熱も殺菌もしていない発酵食品でありながら、メーカーの中には「腐ることはなく、食感で食べ頃を判断する」とし、10年前の瓶を美味しく食べられたという事例まで紹介しているところがあります。「塩辛は日持ちしない繊細な食品」というイメージを持つ方も多いかもしれませんが、実際には塩分濃度と発酵の力によって、驚くほど長期保存に強い食品なのです。とはいえ「家庭でイカの塩辛を作ってみたいけれど、塩加減や衛生面が不安」という声も少なくありません。この記事では、イカの塩辛の基本的な作り方を手順で解説しながら、塩分濃度の目安、酒盗との違い、失敗しないコツ、家庭で作る際の食品衛生上の注意点までを現場目線でまとめます。まず全体像を押さえ、次に具体的な手順、失敗しないコツ、保存方法の順にお伝えします。
塩辛の作り方の全体像:始める前に知っておくこと

塩辛とは、魚介類の身と内臓を塩で漬け込み、内臓の酵素と微生物の働きで熟成させる発酵食品です。農林水産省の「にっぽん伝統食図鑑」によると、塩辛のルーツは魚を保存するために塩漬けにしたことに始まり、平安時代の「今昔物語集」にもその記録が見られるとされる、非常に歴史の長い加工技術です。イカ塩辛は特に北海道・東北地方で盛んに作られてきました。
| 項目 | 目安 |
|---|---|
| 所要時間(仕込み) | 30分〜1時間程度 |
| 熟成期間 | 常温で数日〜1週間、冷蔵でじっくり2〜4週間が目安 |
| 難易度 | 星2つ(塩加減と衛生管理さえ守れば初心者でも可能) |
| 必要なもの | 新鮮なイカ(身と肝)、塩、清潔な保存容器 |
| 塩分濃度の目安 | 材料の重さに対して10〜20% |
塩辛作りで最も重要なのは、加熱殺菌をしない食品だからこそ「鮮度の良い原料を使うこと」に尽きます。にっぽん伝統食図鑑でも、いか塩辛は身と肝を無殺菌のまま自己消化・微生物発酵させて風味を引き出す製法だと説明されており、この「殺菌しない」という特性が塩辛ならではの濃厚な旨みを生む一方、原料の鮮度管理が品質を大きく左右します。イカの鮮度を見極めるポイントは、魚の鮮度の見分け方の記事で紹介している目・臭い・身の張りのチェック方法が参考になります。
塩辛の作り方【ステップ解説】

Step 1: イカを捌いて身と肝を分ける
新鮮なイカを用意し、ワタ(肝)を傷つけないよう丁寧に取り出します。肝は塩辛の風味の要になるため、潰さずに取り分けておきます。身は皮を剥き、細切りまたは筒切りにします。魚の基本的な捌き方から確認したい方は、魚の捌き方【初心者向け】の記事も参考にしてください。
Step 2: 塩を加えて下処理する
切った身に対して重量の3〜5%程度の塩をまぶし、30分〜1時間ほど置いて余分な水分を出します。出てきた水分(ドリップ)はキッチンペーパー等でしっかり拭き取ります。この工程を省略すると水っぽく傷みやすい塩辛になるため、手間を惜しまないことが仕上がりを左右します。
Step 3: 肝を加えて本漬けする
下処理した身に肝を加え、追加でトータルの塩分濃度が10〜20%になるように塩を加えてよく混ぜます。塩分濃度が高いほど保存性は上がりますが、塩辛さも強くなるため、初めて作る場合は12〜15%程度から試すのがおすすめです。清潔な保存容器に入れ、密閉します。
Step 4: 熟成させる
冷蔵庫でじっくり熟成させます。数日で食べ始めることもできますが、2週間前後置くと内臓の酵素によるタンパク質の自己消化が進み、遊離アミノ酸が増えて旨みが濃くなります。時々容器を軽く振るか攪拌すると、塩や水分が均一になり熟成むらを防げます。
| 熟成期間 | 食感・味の変化 |
|---|---|
| 仕込み直後〜3日 | 身にコリコリとした食感が残り、やや生臭さを感じることもある |
| 1〜2週間 | 塩と身がなじみ、まろやかな塩辛らしい味に |
| 3週間以上 | 身が柔らかくなり、アミノ酸由来の旨みがさらに濃厚になる |
塩辛と酒盗の違い:漬け込む部位と期間が異なる

塩辛と混同されやすいのが「酒盗(しゅとう)」です。酒盗はカツオの内臓のみを塩漬けにして長期熟成させた珍味で、少なくとも300年以上前から食べられてきた伝統食品とされています。
| 項目 | 塩辛 | 酒盗 |
|---|---|---|
| 主な原料 | イカなどの身+内臓 | カツオの内臓のみ |
| 漬け込み期間 | 一般的に10〜20日程度 | 10〜13か月と長期 |
| 主な旨み成分 | 自己消化で生じる遊離アミノ酸 | イノシン酸(カツオ由来)とグルタミン酸(発酵で増加) |
| 名前の由来 | 塩に漬けて辛い(塩辛い)ことから | あまりの旨さに「酒を盗んででも飲みたくなる」ことから |
このように、同じ「魚介類を塩で発酵させた加工品」というくくりでも、原料の部位と熟成期間で全く別の食品になるのが水産発酵食品の奥深いところです。塩辛づくりに慣れてきたら、より長期熟成させる酒盗づくりに挑戦してみるのも一つの発展形です。水産発酵食品の分類全体を体系的に知りたい方は、水産加工品の種類【9分類】の記事も参考になります。液体状の魚介発酵調味料である魚醤の作り方も、塩辛と同じ「魚介類+塩+発酵」の技術を応用した加工品として合わせて読むと理解が深まります。
失敗しないためのコツ・注意点

塩辛作りでよくある失敗パターンと対策を整理しました。
| よくある失敗 | 原因 | 対策 |
|---|---|---|
| 水っぽくなる | Step2の下処理でドリップを拭き取っていない | 塩をまぶした後は必ずキッチンペーパーで水分を除去する |
| 塩辛すぎる/薄すぎる | 塩分濃度の計量が目分量になっている | 材料の重量を計量し、塩分濃度10〜20%の範囲で調整する |
| 生臭さが強く残る | 原料の鮮度が落ちている、または肝を潰して雑味が出た | 当日〜翌日に水揚げされた新鮮なイカを使い、肝は丁寧に扱う |
| 熟成が均一に進まない | 攪拌をしていない | 数日おきに容器を振る、または軽くかき混ぜる |
| 腐敗臭がする | 塩分濃度が低すぎる、常温放置期間が長すぎる | 塩分濃度を守り、本漬け後は早めに冷蔵庫へ移す |
編集部が水産加工の現場を取材した際、担当者から「家庭で作る場合、業務用のように塩分を厳密に測らずに感覚で作って失敗する人が多い。まずは計量から」というアドバイスを受けました。プロの現場でも塩分濃度の管理は最重要工程として扱われており、家庭で作る場合も必ずキッチンスケールを使うことが失敗しないための近道です。
家庭で作る塩辛の食品衛生法上の注意点と保存方法
自分や家族が食べる分の塩辛を家庭で作ること自体は、食品衛生法上の「営業」には該当しません。ただし、作った塩辛を販売する場合は話が変わります。2021年6月の食品衛生法改正により、魚介類販売業(包装)は届出が必要な業種として整理されており、生食用鮮魚介類を扱う施設には専用の器具を備えることなどが基準として定められています。塩辛のような魚介類加工食品を販売する場合の具体的な業種分類は自治体によって判断が分かれることもあるため、販売を検討する場合は必ず管轄の保健所に事前相談することが推奨されています(2026年9月時点)。
保存に関しては、あるメーカーの案内によると、塩辛は高温を避けて冷暗所または冷蔵庫で時々攪拌しながら保存すると熟成が進み、より美味しくなるとされています。市販品では瓶詰めから6か月を賞味期限として表示するのが一般的ですが、これは品質を保証する目安であり、塩分濃度の高い塩辛は塩蔵の原理により長期保存に強い食品でもあります。家庭で作る場合は保存料を使わない分、必ず冷蔵庫で保管し、開封後は早めに食べきることを心がけてください。
なお、文部科学省「日本食品標準成分表」によると、イカの塩辛は可食部100gあたりエネルギー117kcal、タンパク質15.2g、脂質3.4g、食塩相当量7.6gという成分です。小鉢1杯(約30g)でも塩分は約2.3gに達するため、厚生労働省が示す1日あたりの食塩摂取目標量(成人男性7.5g未満、女性6.5g未満、2025年版基準)を踏まえると、食べる量には注意が必要です。塩蔵の原理そのものについてさらに詳しく知りたい方は、塩蔵とは?浸透圧の仕組みと保存性を徹底解説の記事もあわせてご覧ください。
よくある質問
Q1: 塩辛の塩分濃度はどれくらいが目安ですか?
材料の重量に対して10〜20%が目安です。10%だとやや薄め、15%程度でしっかりした塩辛らしい味に仕上がります。初めて作る場合は12〜15%程度から試すことをおすすめします。
Q2: イカの塩辛と酒盗はどう違いますか?
塩辛は身と内臓の両方を使い、10〜20日程度で仕上げるのが一般的です。一方、酒盗はカツオの内臓のみを使い、10〜13か月という長期間熟成させる点が大きく異なります。
Q3: 塩辛は加熱しなくても安全に食べられますか?
塩辛は無殺菌のまま内臓の酵素と微生物の働きで発酵させる食品です。塩分濃度をしっかり守り、新鮮な原料を使い、冷蔵庫で保管することが安全に食べるための基本になります。
Q4: 手作りの塩辛はどのくらい日持ちしますか?
塩分濃度と保存状態によりますが、冷蔵庫で保管すれば数週間から数か月単位で楽しめます。市販品では瓶詰めから6か月を賞味期限として表示する例が一般的ですが、塩分濃度が高い塩辛は塩蔵の原理により長期保存にも強い食品です。
Q5: 家庭で作った塩辛を販売してもいいですか?
自分や家族が食べる分を家庭で作ること自体は食品衛生法上の「営業」には該当しません。ただし販売する場合は魚介類販売業などの届出・許可が必要になるケースが多いため、管轄の保健所に事前相談することをおすすめします。
Q6: 塩辛作りに向いている魚介類はイカ以外にもありますか?
あります。カツオの内臓を使う酒盗のほか、地域によってはホタルイカ、サケの内臓を使った「めふん」など、さまざまな魚介類で塩辛系の発酵食品が作られています。
Q7: 塩辛が生臭くなってしまう原因は何ですか?
主な原因は原料の鮮度不足です。水揚げから時間が経ったイカを使うと生臭さが出やすいため、なるべく新鮮なイカを使い、肝を潰さないよう丁寧に扱うことが対策になります。
関連記事: 練り物の種類と違いとは?現場目線で教える失敗しない選び方
まとめ:塩辛の作り方のポイント
塩辛の作り方について、ここまでの内容を振り返ります。
- 塩辛はイカなどの身と内臓を塩分濃度10〜20%で漬け込み、無殺菌のまま酵素と微生物の力で熟成させる発酵食品
- 下処理でドリップをしっかり拭き取り、本漬け後は冷蔵庫で攪拌しながら熟成させるのが失敗しないコツ
- 同じ水産発酵食品でも、内臓のみを長期熟成させる酒盗とは原料部位・熟成期間が大きく異なる
- 家庭で自分用に作るのは自由だが、販売する場合は食品衛生法上の届出・許可の確認が必要
- 食塩相当量は100gあたり7.6gと高いため、食べる量には注意する
まずは塩分濃度12〜15%程度の少量仕込みから試してみると、失敗しにくくおすすめです。水産加工の他の技術と合わせて理解を深めたい方は、水産加工品の種類【9分類】や塩蔵とは?浸透圧の仕組みと保存性を徹底解説の記事もおすすめです。水産業界全体の統計データは水産ナビ 水産業界データハブでも定期的に更新しています。
参考情報
- 農林水産省「にっぽん伝統食図鑑:塩辛」(2026年9月時点)
- 農林水産省「にっぽん伝統食図鑑:酒盗」(2026年9月時点)
- 文部科学省「日本食品標準成分表」イカ塩辛の成分値
- 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」
- 江東区ほか自治体「食品衛生法の改正に伴う営業許可・営業届出について」(2026年時点)
- 塩辛製造事業者の公開情報(保存方法・賞味期限に関する記述)
この記事は水産ナビ編集部が執筆しました。水産ナビは水産・漁業に特化した専門メディアです。
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