最終更新: 2026-10-27
陸上サバ養殖とは、海面のいけすではなく陸上の施設にサバを育て、水質・水温を人工的に管理しながら出荷まで育てる養殖方式のことだ。最大の特徴は、海水に依存しない完全閉鎖循環式を採用することで寄生虫(アニサキス)のリスクを抑えられる点にある。福島県浪江町で日揮とかもめミライ水産が手がける施設はその代表例で、2025年4月に初出荷を実現した。この記事では、同施設の仕組みと規模、歩んできた経緯、メリットと課題を整理する。
陸上サバ養殖とは?仕組みをわかりやすく解説

陸上サバ養殖は、海ではなく陸上に設けた水槽でサバを飼育する。福島県浪江町の施設は「完全閉鎖循環式」と呼ばれる方式を採用しており、海水ではなく水道水に塩分を加えて人工海水をつくり、ろ過・殺菌して繰り返し使う仕組みだ。排水を海や川に流さないため、周辺環境への負荷を抑えられるとされている(福島民友新聞、日本経済新聞)。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 方式 | 完全閉鎖循環式(RAS) |
| 使用する水 | 水道水をベースに塩分濃度を調整した人工海水 |
| 主な利点 | 海水を使わないため内陸でも展開可能、水質・水温を管理しやすい |
| 代表事業者 | かもめミライ水産株式会社(福島県浪江町) |
なぜ陸上サバ養殖が注目されているのか

天然のサバは漁獲量の年による変動が大きく、スーパーに並ぶサバの多くがノルウェー産などの輸入品であることは、当サイトのサバの旬ガイドでも触れている。これに加え、天然のサバにはアニサキスが寄生しているリスクがあり、刺身用としては加工や冷凍処理が必要になる。
陸上養殖では、稚魚の導入から出荷まで海と接触させない環境で育てるため、寄生虫フリーのサバを生で提供できる点が最大の訴求点になっている(日本経済新聞、2024年4月時点)。天然資源の変動に左右されない安定供給という側面も、担い手不足や不漁が続く水産業界にとって一つの選択肢とされている。
福島・かもめミライ水産の事例:規模と実績

かもめミライ水産株式会社は、プラント大手の日揮(現・日揮ホールディングス)と水産卸のいわき魚類が出資して2021年8月に設立された(福島民友新聞、2022年10月時点)。福島県浪江町北産業団地に建設した陸上養殖施設「陸上養殖イノベーションセンター」でサバを生産している。
| 時点 | 内容 | 出典 |
|---|---|---|
| 2022年10月(計画発表時) | 敷地約5,000平方メートル、水量30トン規模の水槽14基、総事業費約15億円、2023年1月着工、2027年までに年間60トン生産を目標 | 福島民友新聞 |
| 2024年4月(施設完成時) | 敷地約7,800平方メートル、水槽18基、サバ4万〜5万匹を飼育可能、2025年春の出荷を目標 | 日本経済新聞 |
| 2025年4月10日(初出荷) | 敷地約7,900平方メートル・延床約2,700平方メートル、ブランド名「福の鯖」(登録商標)で初出荷、道の駅なみえで出荷式を実施 | かもめミライ水産PR TIMES |
計画発表から完成までの間に敷地面積や水槽基数の数値が変わっているのは、設計の具体化が進んだためとみられる。年間60トンという生産目標は、国内のさば類漁獲量(農林水産省統計で約32万トン、令和4年)と比べるとごくわずかな規模であり、陸上養殖はあくまで天然漁獲を補う位置づけだ。
出荷したサバは「福の鯖」のブランド名で、パートナー企業のいわき魚類を通じて福島県内外の飲食店・小売店・宿泊施設などに届けられる(かもめミライ水産PR TIMES、2025年4月時点)。
陸上サバ養殖のメリット

- 寄生虫(アニサキス)が付きにくい環境で育てるため、生食用としての安全性を訴求しやすい
- 水温・水質をシステムで管理するため、天候や海洋環境の変化に左右されにくい
- 海に面していない内陸部でも展開できる(浪江町の施設も海岸から離れた工業団地内に立地)
- 排水を循環利用するため、周辺の海や川への環境負荷を抑えられる
陸上サバ養殖の課題

- 大規模な設備投資が必要(浪江町の施設は総事業費約15億円)
- 生産規模は天然漁獲量に比べて小さく、価格面で天然サバと同じ土俵で競うのは難しい
- 停電や設備故障など、人工的な環境管理に依存するリスクがある
- サバは回遊性が高く泳ぎ続ける性質があるため、水槽内での飼育環境づくりに技術的な工夫が求められる
陸上養殖そのものの仕組みやコスト構造については陸上養殖のメリット・デメリットで種全般にわたり解説している。クルマエビやアサリなど他の魚種での陸上養殖の取り組みはクルマエビ陸上養殖、秋田・男鹿市の挑戦、アサリの陸上飼育とは?熊本・長洲町の実証実験でも紹介している。水産業界全体の統計データは水産業界データハブでも確認できる。
陸上サバ養殖に関するよくある質問
Q1: 陸上養殖のサバは刺身で安全に食べられるのか
海と接触しない完全閉鎖循環式の環境で育てるため、天然のサバに比べてアニサキスが付きにくいとされている。かもめミライ水産のサバも、この特性を訴求点として「福の鯖」ブランドで展開している(日本経済新聞、かもめミライ水産PR TIMES)。ただし消費者への提供時は各事業者・店舗の衛生管理基準にも従う。
Q2: 「福の鯖」はどこで買えるのか
パートナー企業のいわき魚類を通じて、福島県内外の飲食店・小売店・宿泊施設などに届けられる。一般消費者が店頭で入手できるかは時期や取扱店によって異なる(かもめミライ水産PR TIMES、2025年4月時点)。
まとめ:陸上サバ養殖のポイント
- 陸上サバ養殖は、海水を使わない完全閉鎖循環式の施設でサバを育てる方式で、寄生虫フリーが最大の訴求点
- 福島県浪江町のかもめミライ水産は日揮といわき魚類の出資で2021年8月に設立、2025年4月10日に「福の鯖」ブランドで初出荷した
- 生産目標は年間60トンで、国内のさば類漁獲量(約32万トン)と比べれば小規模。天然漁獲を補う位置づけ
- 設備投資の大きさや天候・設備リスクへの対応が今後の課題
陸上養殖の他の魚種の事例と合わせて読むと、各地で進む「育てる漁業」への転換の広がりが見えてくる。関心のある方は、関連記事のクルマエビ陸上養殖の実例も参考にしてほしい。
参考情報
- 東日本最大規模の陸上養殖施設、福島県浪江町に建設へ 日揮とかもめミライ水産(福島民友新聞、確認日2026年10月27日)
- 日揮出資のかもめミライ水産、福島・浪江町にサバの陸上養殖施設完成(日本経済新聞、確認日2026年10月27日)
- かもめミライ水産が、福島・浪江でサバの出荷式を実施(かもめミライ水産 PR TIMES、確認日2026年10月27日)
- 国内さば類漁獲量(農林水産省 漁業・養殖業生産統計、令和4年)はサバの旬ガイドで解説


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