最終更新: 2026-09-18
魚の病気を診る仕事には、大きく分けて2つのルートがあります。1つは獣医師免許(国家資格)を持ちながら養殖現場や水族館で魚病を担当するルート、もう1つは公益社団法人日本水産資源保護協会が認定する民間資格「魚類防疫士」を取得するルートです。どちらも「魚のお医者さん」と呼ばれますが、資格の性質も、なるための道筋も、年収の決まり方も異なります。
「水産業界で働きたいが、動物や生き物に関わる専門職に興味がある」「獣医師になりたいが、ペットではなく魚や水産養殖の分野で働きたい」という方に向けて、この記事では水産系獣医師と魚類防疫士それぞれの仕事内容、なるためのルート、年収の実態を、農林水産省・水産庁・日本水産資源保護協会の公式情報をもとに整理します。
水産系獣医師・魚類防疫士とは?2つの資格の違い

魚の病気や養殖現場の衛生管理に関わる専門職は、資格の種類によって性質が大きく異なります。
| 項目 | 水産系の仕事をする獣医師 | 魚類防疫士 |
|---|---|---|
| 資格区分 | 国家資格(獣医師免許) | 民間の技術認定資格 |
| 認定・主催団体 | 国(農林水産大臣) | 公益社団法人日本水産資源保護協会 |
| 取得の前提 | 獣医系大学(6年制)を卒業し獣医師国家試験に合格 | 都道府県・漁協・研究機関等の職員として魚病対策業務の実務経験を積む、または獣医師資格を持つ |
| 主な仕事の場 | 動物検疫所、水族館、製薬会社、研究機関など | 都道府県の水産試験場、漁業協同組合、栽培漁業センターなど養殖現場に近い立場 |
| 業務の性質 | 診断・治療・検疫など医療行為を含む | 養殖衛生管理の指導・防疫対策の実務が中心 |
獣医師免許を持つ人だけが法律上の「診療」を行えますが、日本の獣医学教育で魚類や水生生物を専門的に扱う機会は限られており、「魚病学」として基礎を学ぶ程度にとどまる大学がほとんどです。そのため、実際に魚病の現場を担う人材の多くは、都道府県職員などとして実務経験を積み、魚類防疫士の認定を受けて養殖業の衛生管理を支える形でキャリアを築いています。
農林水産省の資料でも、魚病に詳しい獣医師は全国的に限られており、獣医師と魚類防疫士(水産試験場などの魚病担当者)が連携して対応する体制が課題として挙げられています。
具体的な仕事内容と活躍の場

養殖現場の衛生管理・防疫指導
魚類防疫士の中心的な仕事は、養殖場で発生する魚病の診断補助と、感染拡大を防ぐための衛生管理指導です。赤潮や特定疾病(コイヘルペスウイルス病など、家畜伝染病予防法に準じて国が指定する魚類の疾病)が発生した際には、都道府県の水産試験場や栽培漁業センターの職員として、養殖業者への指導や国への報告業務を担います。
研究機関でのワクチン・治療法開発
国立研究開発法人水産研究・教育機構などの研究機関では、魚病ワクチンの開発や養殖飼料の改良といった研究業務があります。水産研究・教育機構とは?役割・組織・入るための4つのルートを徹底解説で紹介している採用ルートの一部は、こうした魚病・衛生分野の研究職にもつながっています。
水族館での臨床業務
水族館で働く獣医師は、飼育されている魚類・海獣類の健康管理や治療を担当します。水族館の獣医師は全国的に採用数が少なく、専門知識に加えて水族館運営そのものへの理解も求められる狭き門です。
動物検疫所での輸出入検疫
農林水産省の動物検疫所では、国家公務員として水産動植物の輸出入検疫に携わる職員を採用しています。飼料や種苗を含めた水産物の国際的な病気の持ち込み・持ち出しを防ぐ役割を担います。
なるためのルート

ルート1: 獣医師免許を取得してから水産分野に進む
獣医系大学(6年制、全国17校程度)を卒業し、獣医師国家試験に合格して免許を取得します。卒業後、農林水産省の獣医系技術職員採用試験(例年5月上旬・12月上旬ごろに募集)や、動物検疫所の採用試験を経て、水産動植物の検疫や研究に携わる道があります。大学の教育課程で魚病を専門的に学べる機会は少ないため、多くの場合は就職後に実務を通じて魚類特有の知識を積み上げていきます。
ルート2: 都道府県職員として実務経験を積み、魚類防疫士の認定を受ける
もう1つの道は、都道府県や市町村、漁業協同組合、栽培漁業協会などの職員として採用され、魚病対策や養殖指導の実務に従事しながら、日本水産資源保護協会が実施する「養殖衛生管理技術者養成講習」を修了し、魚類防疫士技術認定試験を受験するルートです。
受験資格は最終学歴によって必要な実務経験年数が異なります。
| 最終学歴 | 必要な実務経験年数の目安 |
|---|---|
| 大学・水産大学校(水産・生物・化学等の関連課程卒) | 2年以上 |
| 短期大学・専門学校卒 | 4年以上 |
| 高等学校卒 | 6年以上 |
試験は年1回実施され、日本水産資源保護協会(東京都中央区)が主催します。出願は例年10月ごろ締切、試験は11月ごろ実施されるスケジュールが公表されています(令和7年度実績)。詳細な受験資格・試験内容は年度ごとに協会公式サイトで公表される認定要領で必ず確認してください。
年収の実態
魚類防疫士自体は「資格」であって「職業」ではないため、防疫士の認定を受けたからといって特別な給与体系があるわけではありません。年収は、その人がどの立場で働いているかによって決まります。
| 立場 | 年収の目安 | 根拠・補足 |
|---|---|---|
| 都道府県職員(水産技術職)として魚病対策業務に従事 | 所属する都道府県の地方公務員(技術職)給与体系に準拠 | 都道府県ごとに給与表が異なるため、志望先の自治体の給与条例を確認する必要がある |
| 国家公務員(農林水産省・水産庁、獣医系技術職) | 国家公務員の俸給表(行政職俸給表または専門的な俸給表)に基づき、経験年数・役職で決まる | 人事院「国家公務員給与等実態調査」で年齢・学歴別の平均給与月額が毎年公表されている。具体的な年収は採用試験案内や人事院公表資料で個別に確認が必要 |
| 水産研究・教育機構などの研究職 | 研究員としての給与体系(機構ごとに規定) | 採用試験の詳細は機構の採用情報ページで確認 |
| 水族館の獣医師 | 施設の規模・運営形態によって差が大きい | 公的施設か民間施設かでも水準が異なる |
見てわかる通り、「水産系獣医師・魚類防疫士の年収はいくら」と一律に答えることはできません。ほとんどのケースで、地方公務員または国家公務員の給与体系がベースになるため、民間企業のような成果連動の高収入は基本的に想定しにくい仕事です。一方で、景気や漁獲高に左右されにくい安定した収入基盤という側面もあります。
具体的な年収を知りたい場合は、志望する都道府県の採用試験情報(給与条例)や、水産研究・教育機構・水産庁の採用ページで公表されている給与モデルを個別に確認することをおすすめします。
よくある質問
Q1. 魚類防疫士は国家資格ですか?
いいえ、国家資格ではありません。公益社団法人日本水産資源保護協会が実施する技術認定試験に合格した人に与えられる民間の認定資格です。国家資格である獣医師免許を持っていなくても、都道府県職員などとして実務経験を積めば受験資格を得られます。
Q2. 獣医師免許がなくても魚の病気に関わる仕事はできますか?
できます。実際に養殖現場の衛生管理を担っている人の多くは、獣医師免許ではなく魚類防疫士の資格を持つ都道府県職員や漁協職員です。診断や治療行為そのもの(診療)は獣医師免許が必要な領域ですが、防疫指導や衛生管理業務は防疫士の資格で担うことができます。
Q3. 水産系の獣医師になるには、どの大学に進めばよいですか?
獣医師免許を取得するには、獣医学課程のある大学(6年制)に進学し、獣医師国家試験に合格する必要があります。ただし、魚類や水生生物を専門的に学べる授業は多くの大学で「魚病学」程度にとどまるため、魚に強い獣医師を目指す場合は、大学卒業後に水産分野の職場(動物検疫所、水産研究・教育機構、水族館など)に就職してから専門性を積み上げていくのが一般的なキャリアパスです。水産系の大学進学を検討している場合は、[水産大学校とは?5学科の特徴と就職率99%の秘密を徹底解説](https://suisan-navi.jp/fishing/national-fisheries-university-guide/)も参考にしてください。
Q4. 未経験からでも魚類防疫士を目指せますか?
すぐに受験できるわけではありません。都道府県・市町村・漁協・研究機関などの職員として、まず魚病対策や養殖指導の実務に一定期間従事する必要があります。水産系の公務員試験に合格して採用されるのが最初のステップになります。
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まとめ:魚を診る仕事は「資格」より「所属先」で年収が決まる
水産系獣医師・魚類防疫士のキャリアについて整理すると、次のようになります。
- 魚の病気に関わる資格には、国家資格の獣医師免許と、民間の技術認定資格である魚類防疫士の2種類がある
- 獣医師免許は獣医系大学卒業と国家試験合格が必要。魚類防疫士は都道府県職員等としての実務経験を積んだうえで技術認定試験に合格する必要がある
- 年収は資格そのものではなく、都道府県職員・国家公務員・研究職・水族館職員など所属先の給与体系で決まる
- 高収入を目的とした資格ではなく、養殖業の安定供給と衛生管理を支える専門職という位置づけが実態に近い
まずは志望する自治体や研究機関の採用情報を確認し、水産系の公務員試験や研究機関の採用試験から具体的な準備を始めることをおすすめします。水産業界全体のキャリアについては漁業の資格一覧|種類別に必要な免許・取得費用・難易度を解説もあわせてご覧ください。水産業界の最新データは水産業界の統計まとめページで定期更新しています。
参考情報
- 農林水産省「魚病に詳しい獣医師のリスト作成と活用について」(https://www.maff.go.jp/j/syouan/suisan/suisan_yobo/taisakusokusin/attach/pdf/kaigisiryou1-19.pdf)2026年9月確認
- 公益社団法人日本水産資源保護協会「魚類防疫士技術認定事業について」(https://www.fish-jfrca.jp/05/gyorui_boueki.html)2026年9月確認
- 公益社団法人日本水産資源保護協会「令和7年度魚類防疫士技術認定試験及び認定要領」(https://www.fish-jfrca.jp/05/pdf/gyorui_boueki/)2026年9月確認
- 農林水産省「農林水産省×獣医師=?農林水産省獣医系技術職員採用試験ガイド」(https://careers.maff.go.jp/cmsdata/filelib/202403vetguide.pdf)2026年9月確認
- 動物検疫所「採用情報」(https://www.maff.go.jp/aqs/job/employ.html)2026年9月確認
- 人事院「国家公務員給与等実態調査」(https://www.jinji.go.jp/seisaku/kankoku/archive/kokkou/05kokkou.html)2026年9月確認
- Pettie獣医大学「獣医大学・獣医学部の一覧」(https://jyui.net/)2026年9月確認


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